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あ。今日もツイていない。先日チークを購入してくれたお客さんが来店し、パウダーに黒い点が入っているとクレームを受けた。もちろん店側の責任ではあるのだろうが、購入時に商品を見せて確認はしてもらうし、何よりも、たくさんある在庫の中からよりにもよってその不良品をつかみ取る自分自身の引きの悪さに辟易する。商品の交換はしたが、お客さんには終始ちくちくと小言を言われ、同僚からは憐みの視線を向けられ、チーフにも一言、お叱りの言葉を受けた。ふぅ。今日も今日とていつも通りだなぁ。そうやってどんよりと過ぎた一日は、珍しく定時で終わった。これほどぴったりに帰れることは少ない。よりにもよって今日か。少し延びても良かったのにと思わないこともないが、重いなりにも足は家とは違う方向へ向く。
ライブハウス入口では、顔にピアスがたくさん開いていてネックレスをじゃらじゃらさせたお兄さんが受付として立っており、地獄の門番さながらの迫力に引き返そうかと思ったが、流れ作業でチケットをちぎられ中へと案内されたため、曖昧に頷いて何とか足を進める。階段を下りる途中で、大音量の音楽が漏れるのが聴こえる。す、すごい……これが「ビジュアル系」。扉を開けるとそこはもう別世界であった。別のバンドの本番中で、歌声なのか叫び声なのか分からない雄たけびと、観客の大絶叫で鼓膜が破れそうだ。同じ系統のバンドが集まるライブなのだろう。会場の雰囲気に呆気にとられている内に持ち時間が終わったようで、舞台では次のバンド―彼の所属するバンド—の準備が始まっている。どうやらトリのようで、複数のバンドが出るライブのチケットでも彼らが載っていたことに合点がいく。
「お待たせしましたぁ! 本日のトリ、サイレントムーンでぇす!!!」
ついに彼の出番のようだ。全くサイレントではない音楽に合わせ、皆が手を上げてジャンプする。最後のグループともあって、熱気は最高潮だ。
圧倒されながらも音楽に集中していた私は、慣れない環境に仕事終わりで疲れていたこともあるせいか、ふいに体がぐらりと傾きそうになる。めまい?立ち眩み?こんなところで体調が悪くなるなんて。慌てて体を立て直そうとするが、視界に靄がかかったようでぼーっとするし、体に力は入らないし……まずい、このままでは倒れ……私の記憶はそこで途切れた。