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 一瞬私の思ったことが口に出てしまったのかと思った。悔しいことに、彼に抱いた感想と同じだったからだ。でも今の言葉は、明らかに彼が私に言ったことだ。そんなにさらっと褒めないでよ。いや、褒められたのは私の化粧技術か、販売している商品かだ。私の顔ではない。何を勘違いしているのだと恥ずかしさに耐えられず、どうにか違う話題をと思って口を開くが

「あなたのお仕事は……」

 となんとも間抜けな質問をしてしまう。しまったと思ったが、先生は楽しそうに声を上げて笑って

「意外かもしれないけど、俺、一応、医者なんだよね。」

 とノッてくれる。機転の利いた返しに思わずつられて笑うと、

「あ、笑った。」

 と言われてはっとする。確かに私、彼の前ではずっと戸惑ったり不機嫌だったりしていたかもしれない。これでは、病院のスタッフのように明るく雑談したいなんて、夢のまた夢だ。

 仕事モードになると作り笑いを張り付けているため、いつも笑顔の人、と思われるが、プライベートではもちろん様々な表情になる。何故か彼の前では、自然な自分でいられることを不思議に思いながら、プライベートで出会った人だったからかなと納得する。出会い方も良くはなかったし。

「あ、俺が年上だからって敬語はいらないよ!あと俺、ホズミリクって言います。」

「え、どうして年を……」

「保険証! だから俺、医者だよ?」

 また彼は楽しそうに笑う。その笑顔が眩しく見えてしまい思わず彼から目をそらした先に、この前買った香水が置いてあった。購入する際にたまたま居合わせただけだが、自宅という絶対的なプライベート空間に彼との繋がりを発見してしまい、彼氏でもないのに、と胸がざわつく。出会いは最悪で、今も彼のペースにばかり振り回されて不快なことこの上ないのに、どうして今はこんな感情になるのだろう。よく分からない気持ちをこれ以上考えるのが嫌で、抱いていた疑問を口にしてみた。

「どうして非番の日まで私の傷の手当を? よく患者さんもこのおうちに来るの?」

「まさか。普段患者さんを家になんていれないよ。あかりちゃんの場合は、俺が買い物に付き合わせた時の怪我だから、俺のせいみたいなもんでしょ。だから特別。」

 名前を呼ばれてドキっとした後、見た目や軽い話し方に似合わず責任感があって義理を大事にする人なのだろうか、と少し彼の印象が変わりそうな予感がしたところで、でも、と話す彼に続きがあったことを知り、慌てて耳を傾ける。

「でも、いつ何時でも仕事まがいなことをしてしまうのは、必要とされていることが実感できるから。そうでないと、俺の存在意義がないんじゃないかって不安になっちゃうんだよね。俺から医者という職業を取ったら何もなくなるというかさ。」

 それは軽い口調ではあったが予想外に重い言葉で何となく目を逸らしてしまったが、寂しく笑う彼の横顔はやけに印象的だった。意外と、真面目で不器用で、仕事とプライベートの境がうまく作れない人なのだろうか。私とは正反対のタイプだ。それにしても何故私にこのようなことを話したのだろうか。無意識に考え込む癖が出て黙りこくってしまっていたことに気付き、何か言わなくてはと焦った私は、あまり深く考える前に思ったことを口走っていた。

「確かに、すぐに傷の手当をしてもらえたからとても感謝しているし、そういう意味ではあなたがお医者さんで良かったと思うけど、もしホズミさんがお医者さんでなくても私には関係ないというか、職業で付き合う相手を選ぶなんてこと、少なくともしないなあ。」

 自分のペースに人をぐいぐい巻き込む彼のデリカシーのなさ(同時にそれが彼の強みでもあるが)にはいまだに慣れないが、人のステータスだけに興味を持って近づくなど、私には理解出来ない。いくら第一印象がよくなくても嫌な奴だとしても、それとこれとは話が別である。


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