081 魔樹との激闘
ミィジャの勝ち誇った声が響き渡る。
「お生憎様、その攻撃は見えたの。マリオの事は私に任せて、2人は攻撃を!」
その言葉に促され、二人はマリオを見た。マリオは膝をついて肩で息をしていた。ミィジャとマリオ、そしてリーフを守るようにアルフが前に出た。天馬もその後に続いたが、正面にぽっかりと空いた大穴、魔樹を引き抜いた跡が口を開けているのを見て、思わず足が止まってしまう。
攻め手に欠くと思った天馬は、
「鑑定」
と呟いた。正体が分かれば対処の仕方も分かると考えたからだ。しかし、視えた結果に呆然としてしまった。
『種族:▢▢▢▢▢▢▢ 状態:▢▢▢▢▢ HP:▢▢▢▢▢ MP:▢▢▢▢▢▢ 能力値:▢▢▢▢▢ スキル:▢▢▢▢▢』
「なんだこれ?」と天馬が思ったその時、魔樹が動き出した。蔦を使って這いずるように目の前に開いた穴に戻ろうとしている。それを見たアルフが、
「そうはさせるか!」
と言って、穴を回り込むように駆け出した。天馬も反対側を駆けて魔樹に近づく。
魔樹は近づく天馬達に対し、蔦を絡め、一本の太い鞭のようにすると、それを振り回した。
巨人の腕の様な鞭が唸りを上げて天馬を襲う。天馬はそれを軽やかに飛んで躱した。すると、向きを変えた鞭が殴り掛かって来るように正面から襲ってきた。「躱せない」と思った天馬は剣を正面に構え、刀身に右手を添えてその攻撃を受ける。竹を割るように襲って来た鞭を割いて着地した天馬だったが、悪寒を覚えて上を見上げた。そこには、割けた鞭が振り下ろされようとしていた。咄嗟に右に跳び、それを切り上げ、踏み込んで残った片方を斬って落とす。その時、
「うおぉーーー」
という声と共にアルフが宙を舞った。そのまま、闇の中に消える。「助けに」と思った天馬だが、今の位置からでは無理だった。それより、アルフを吹き飛ばした鞭が天馬に襲いかかろうと唸り上げて向かって来た。
「『火炎』!」
マリオの呪文と共に鞭が炎に包まれる。けれども、鞭の勢いは変わらずに天馬に向かってくる。それを魔樹の方へ駆ける事で躱した天馬は、
「『水刃』!」
の言葉と共に剣を薙ぐ。その攻撃は這うように動く蔦の全てを斬る事は出来なかったが、魔樹の体勢を崩し、足を止めた。
「後ろ!」
マリオの声に咄嗟に横に跳んだ天馬の脇を丸太の様なモノが通り過ぎる。それを両断して、周りを見回した。
リーフは黄色の瞳に向かって懸命に矢を放っているが、全て蔦に弾かれている様子だった。マリオは次の魔術を放つための詠唱を始めている。ミィジャはアルフが消えた闇の方へと駆けていた。それを見た天馬は「ミィジャさんが行ってくれるなら」と思いながら、
「『水刃』!」
と不気味な瞳をめがけて魔法を放つ。その攻撃を幾重にも重なった蔦で防いだ魔樹。その様子に天馬は確信に近い予感を抱いて、
「目玉、それと幹が本体だと思います。魔術の利きは悪そうです!」
大声で叫んだ。そこに、
「『岩蓋』!」
とマリオの呪文が聞こえた。その瞬間、口を開いていた大穴が仄かに光ったかと思うと地面が現れた。考えるよりも先に体が動いて魔樹の正面に立った天馬は、魔樹をめがけて飛びかかりながら、
「水よ、我が敵を切り伏せろ!『水刃』!」
と言って、剣を振り下ろした。その攻撃も幾重にも重なった蔦で防ごうとした魔樹だったが、防ぎきれずに天馬の魔法が届いた。皮一枚を斬っただけだったが、
「ギシャァーーーーー」
と魔樹が悲鳴を上げる。天馬がつけた傷からは毒々しい色の液体が零れていた。
魔樹は天馬に狙いを定めたように蔦を絡め、鞭のように使って天馬を襲う。それを躱し、断って、また躱す。「集中、集中」と天馬は自分に言い聞かせて、その行為を繰り返す。いつまで続くのか、自分の限界が近付いているのが分かって、焦る天馬に、
「清浄なる風よ、一陣の風と共に我が敵を吹き抜けろ『風乱斬』」
と詠唱と共に放たれた魔術が駆け抜けて行く。その直後、再び魔樹から悲鳴が上がった。見るとリーフが放った矢が3本、瞳に刺さっている。それだけでなく、矢の周囲も陥没したように傷ついていた。瞳はまるでのたうちまわる様にギョロギョロと動き、その度に周囲に毒々しい体液を撒き散らす。
「『火炎』!」
マリオが放った魔術が魔樹を包む。この間に魔樹から距離を取って呼吸を整えた天馬は、再び魔樹に駆け寄ると、蔦を只管に薙いで行った。あと少し、瞳の位置が下がれば自分の剣が届く、そう思っての行動だった。
その間にも、マリオとリーフは瞳に攻撃を当てようと魔術と矢を放っているが、魔樹も瞳を必死に守っているようで悲鳴は聞こえなかった。
その時、「ゾクリ」と悪寒を感じた天馬が悲鳴のように叫んだ。
「何か来ます。備えて!」
「ブオォーーーーーーーーーーー」
再び吹いた突風と共に闇が駆け抜け、マリオの『火炎』を掻き消した。
咆哮を聞いた天馬は、「耐性持ちをなめんなよ」と思いながら、
「『水刃』!」
と言って瞳めがけて剣を切り上る。「ギシャァーーーーー」と言う悲鳴を聞きつつ、後ろを確認すると、マリオとリーフは膝を付いてはいるが、大丈夫そうに見えた。もう一度、瞳を見上げ、魔法を放とうと構えて天馬に蔦が襲い掛かる。それを飛び退いて躱し、再び距離を詰めようとした時、
「うりゃーーー」
左から駆け寄ってきたアルフが剣を横に走らせた。魔樹の体勢が崩れ、瞳の位置が下がった。「届く」そう思った天馬は、魔樹に駆け寄り飛び上がった。そして、宙を駆けるようにして剣を振り下ろした。剣を振り下ろす時、
「光よ!」
と天馬は無意識に叫んでいた。
天馬の言葉に応えるように、剣が光を放ち始める。その光景がスローモーションのように感じられ、自分の動きも、魔樹が毒々しい黄色い液体を撒き散らす瞳も、すべてがゆっくりと流れる。その事に不安を覚える天馬だったが、剣は吸い寄せられるように黄色い瞳に触れた。その手に微かな手応えを感じた瞬間、時間が流れが元に戻った。
光を纏った剣が黄色い瞳を両断した。その瞬間、
「ギェゲシャァーーーーーーーー」
と、これまでで一番の悲鳴が魔樹から轟いた。
着地した天馬が見上げると、天馬に斬られた黄色い瞳は毒々しい煙を上げながら、まるで水分を失ったかのように急速に縮んでいく。その現象は瞬く間に魔樹全体へと広がっていった。蔦のようなモノも、その奥にある幹も、次々と毒々しい煙を噴き上げながら萎んでいく
煙が完全に消え失せると、蔦も幹も、そしてあの忌まわしい黄色い瞳も、まるで空気に溶けるかのように霧散していった。
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