071 本隊の到着と・・・
ガルフの元に着いたアルフは昼の作戦の進捗状況を報告しながら、ダンドと話の内容をガルフに話した。話を聞いたガルフが難しい顔で、
「やっぱり、そんな状況に。幾つかの予想は立てていたんだが、その中でも最悪に近いな。今、言った事をお前とダンドの意見と考えて良いんだな。
元々、夜間は守勢に回る事は決めていたからな。攻略方法の問題か。アルフ、このままここに残ってくれ。騎士団長との会議に出て貰う。いいな」
「分かったよ、マリオにメッセージを送って来る。あと、ダンドの爺さんにも。中を見た人間の意見は大事だろ?」
そう言って、陣幕を出て行くアルフの後姿を見送ったガルフは、
「アイツも、もう少し周りを見れるようになれば良いんだが。まだまだ若いな」
溜息交じりにそう言うと、自らも到着した冒険者達に指示を出すべく陣幕を出て行った。
最後に野外迷宮の前に着いた騎士団、その先頭で騎士団長のアレク・イートックは悦に浸っていた。目の前に広がる光景を見たからだった。
「この様子なら他の面も順調に進んでいる事だろう。まさに思った通りではないか。ワハハハハ」
アレク・イートックは男爵家の三男、剣の腕も頭もその地位にいる他の者と比較した時、標準以下の小物だった、そんな彼は身に余る野心を抱いている。
彼の野望とはゴメナの統治者を足掛かりに、更に上の立場になる事だった。実際、ゴメナの統治者は高齢で、適当な後継者もいない。今回の強制依頼の成果を手土産に領主に訴えれば統治者になれると考えていた。その為の準備をしてある。腰の魔法の皮袋を右手で撫でて口角を上げた。
遠くからアレクを見つけたガルフは、高笑いをするアレクに呆れて溜息を吐き、
「また笑っていやがる。何を考えているのやら」
そのガルフの独り言が聞こえた白の光のリーダー、サーシャが、
「どうせ真面な事じゃないんじゃない。アイツは出世欲の塊だからね。今回の強制依頼、冒険者ギルドが頭って話だったはずでしょ、それが何でアイツの下になったわけ?」
「それはだな・・・、色々とあったんだよ」
渋い顔で言葉を濁したガルフを睨むサーシャ。ガルフも天馬の『付与』の一件がなかったら、昨日行われた会議に出ていたはず。そうしていたら、あんな奴に大役を任せる事にはならなかったと、ガルフの代わりに会議に出た副マスターを心の中で非難した。
「それよりも、アイツが着いたんだから作戦会議だな。サーシャ、アルフと・・・、ダンド、それとマローを呼んで、騎士団の陣幕に来てくれ」
そうサーシャに指示を出し、手近の馬に跨るとガルフはアレクの元に駆けて行った。
騎士団の陣幕にアルフ達が着くと、
「そんな事はさせられるわけがねぇだろー!」
とガルフの怒気をはらんだ声に迎えられることになった。ガルフはアルフ達が着いたのにも気付かずに言葉を続けた。
「確かに俺達、冒険者が中を担当する事については、取り決め通りだから文句はねぇ。でも、夜間に攻撃しろとはどう言う事だ。ゴブが夜行性なのはお前でも知っているだろ。しかも、村の中は迷宮化が進行して危険状態だ。それを分かった上で言っているなら、お前らが行け。冒険者ギルドのマスターとして、無為に冒険者の命を危険に晒すわけにはいかねぇ」
「そうか。それも良い考えだな。貴様ら冒険者が臆病風に吹かれて野外迷宮の攻略に協力しない、と言うのであれば、それはそれで構わない。我ら騎士団がゴブリンを倒すだけだ」
「そういう事を言ってんじゃねぇ。夜のゴブリン討伐が危険だと言っているんだ」
そう言い合うガルフとアレクの話しは平行線のまま。それを見かねてダンドが割って入る。
「騎士団長殿、ワシは昼に村の中を確認した。夜間に村の中に入るのは自殺行為じゃと思うが、団長殿はそう考えてはおらんという事か?」
「そうだ、我が騎士団の精鋭なら昼だろうが、夜だろうか、汚らわしいゴブリンなど簡単に倒してくれるわ」
そう言って仰々しくアレクは腕を組んだ。その様子に、
「マスター殿、騎士団長殿の意見は変わらんらしい。そこでじゃ、周辺警備に必要な数の騎士団に残って貰い、団長殿には、団長の言う精鋭を連れて村の中を探索して貰うのも一つの選択肢だと思うが、どうじゃ?」
とダンドがガルフに提案した。それを聞いたガルフは、
「そうだな、周囲の警備は元々騎士団の仕事だからな、中に送る予定の冒険者は多くても5、60人の予定だったから、50人程度で討伐に向かうんだったら、俺は構わないが」
歯切れの悪い言葉でダンドの提案を了承した。二人は、そんな条件では騎士団長が納得しないだろと思っての提案であったが、
「では、我々、騎士団50人で討伐に行くとしよう。明日、教会から来る浄化師を迎える事を考えると、夜半過ぎに入る。それで良いな」
アレクが二人の提案を受け入れた事に、提案をした当事者を含めて周囲が驚きの声を上げた。その声を無視してアレクは、打ち合わせは終わったと言わんばかりの顔で皆を追い出した。
陣幕の外に追い出されたガルフが、
「アイツ、何を考えてやがるんだ。正気じゃねぇな」
と毒づいて、
「態々集まって貰ったのに悪かったな。まあ、他の冒険者に指示はしてあるがお前らも飯を食ったら仮眠を取って、夜半過ぎには起きておいてくれ。アイツが何をやる心算か分かんねぇが、騒ぎが起きても対処できるよう備えておいた方がいい」
そう言ってガルフは頭を掻きながらギルドの陣幕の方へ歩いて行った。それをサーシャ、アルフ、ダンド、マローの4人が追いかけて捕まえた。
「それで、ガルフや、明日の動きはどうする? あの騎士団長がゴブリンを倒して迷宮を攻略が出来るとも思えんからな」
ギルドの陣幕に向かいながら、
「そうだな。夕方まではCランクのパーティーと冒険者に、中の間引きの指示は出しておいた。日が暮れたら、DランクパーティーとEランクの冒険者で村からの出口を防衛だ。そして夜半、お前らBランクパーティーと交代。明け方には、Cランクのパーティーと冒険者、それに妖術師を伴って迷宮攻略。これで良いか?
大蛇はマリオがいるから、妖術師は付けないぞ。代わりにダンド、一緒に動いてやってくれ。アルフとダンドは裏だ。黒の蟷螂と青い風には妖術師を2人ずつ付けて側面を攻めさせる。俺とサーシャ、マローは正面。いいか、あいつが動く前には、必ず起きててくれよ!」
ガルフの言葉にそれぞれが顔を見合わせて頷き、それぞれの持ち場に就くべく歩き出した。
時間は少し遡り
ガルフ達、冒険者を陣幕から追い出したアレクは、自らの部下も陣幕から出るように命じると、腰の魔法の皮袋から1本の巻物を出して、
「これがあれば俺が今回の英雄だ。ワハハハハハ、ワハハハハハ」
陣幕の外まで響く団長の高笑いを聞いた騎士団員たちは、目を見合わせて溜息を吐いた。




