068 野外迷宮の中
天馬がアルフとリーフ、二人が倒したゴブリンを『収納』しているとマリオも合流する。
「まず、壁で角を作らないとなりませんね。周辺警戒は頼みますよ」
「分かってる。テンマ、柵の傍に転がってるゴブを回収してくれ。リーフは俺とマリオの護衛だ。中は思った以上に視界が悪い、いい所、20m先が見える程度だ。柵が見える距離で移動する」
そう言うと、アルフは柵の向こう側へと、後ろを振り返りながら進む。リーフとマリオが動かないので、天馬もそれに倣う。暫らく進むと、
「マリオは壁を。テンマはゴブの回収、リーフはマリオと一緒に動いてくれ」
アルフの指示でマリオは『岩壁』の巻物を使って壁を作り、天馬は壁の裏に転がったゴブリンの死体を『収納』する。そして、アルフの方へ向かうために柵を飛び越える。アルフに近付く程、奥に見えていた景色が霞み、陽光も陰ったように弱くなった。その状況に歩みを緩めた天馬に、
「テンマ、向こうが霞んで見えないだろ。これが野外迷宮の特徴の一つだ。中心に近くなると、昼でも10mくらいしか見えなくなる。今回は、廃村がベースになっているから、まだマシだ。これが森や湿地帯、戦いに向かない場所だったらどうなるか想像してみろ」
「厄介だと思います。野外迷宮って簡単に出現するモノなんですか?」
「いや、滅多に出現することは無い。デカい魔獣が死んで、その死骸から発生した瘴気がある程度の濃さになると、迷宮化する。そのはずなんだが、こんな場所でデカい魔獣が出るとは思えないし、迷宮化の原因は分かってねぇんだ。まっ、それは明日の楽しみだな」
天馬の質問に答えて、アルフは集まった皆に指示を出し始めた。
「俺が右、リーフは柵が見える距離を保って左な。マリオは俺とリーフが見える距離で中央、テンマは俺とマリオが見える距離で、俺の後ろ。接敵したら声を出す事。リーフの援護は俺とマリオ、テンマの援護は俺とマリオ、俺とマリオの援護は全員でしてもらう。リーフは弓、マリオは魔術で援護をしてくれ。それじゃ、リーフから位置についてくれ、お前の位置で俺らの位置が決まるからな」
リーフが柵の方に移動し、アルフに手を振って合図を送る。アルフが村の方に歩いて行き、距離を見ながらマリオも歩き出した。
「テンマ君、君も私とアルフが見える位置に動いて下さい」
マリオに言われ、天馬も慎重に柵に沿って歩く。時折、振り返りアルフとマリオの姿を確認しながら距離を測り、アルフとマリオから15mほど離れる。アルフが左手を上げてゆっくりと前に下げて歩き出した。それを見たマリオも歩き出した。アルフとマリオを見失わない様に天馬も歩き出す。
前を行くアルフは胸甲を叩きながら進む。見ているとその音につられてゴブリンが現れる。そのゴブリンを切り伏せ、天馬の方を振り返る。天馬にゴブリンの死体を回収しろという事なのだろう。そう思いつつ、「接敵したら声を」と言った張本人が声を出さないって、と思いマリオの方を見ると、マリオはアルフに厳しい視線を向けていた。
アルフが倒したゴブリンの死体を天馬が回収する。その間にもアルフは先に進む。慌てて天馬が追いかけると、立ち止まったアルフの向こうに朽ちた民家が見えて来る。
「おい、テンマこっち来い」
敢えて大きな声で天馬を呼ぶアルフ。その声に誘われ、霞の向うから現れたゴブリンが襲い掛かった。それを見て天馬は駆け出すが、天馬の目に映ったのは苦も無く切り伏せるアルフの姿だった。
アルフの元に着いた天馬は、
「見事ですね。で、僕を呼んだ理由は?」
「ここから屋内探索をしながら進む。中の確認をお前に任せる。生憎と俺のガタイと武器は不向きだからな。テンマ、小剣持ってるだろ。外は俺が警戒するから、マリオは俺が声を上げたら援護に、リーフは来るな。15分しても俺らの合図がなかったら外に出て、ガルフに報せろ」
アルフが大声で指示を出した為、またゴブリンが出て来た。それを天馬が切り伏せて、倒す先から回収する。天馬がアルフに文句を言おうと振り向くと、アルフが唇に人差し指を当てて、
「シーーー、音を立てるなよ。ゴブが気付く」
お前が言うなと心の中でアルフに突っ込みを入れて天馬はアルフと共に見えて来た民家に近付いて行く。




