067 作戦変更
野外迷宮を背にしてガルフとローブを着て杖を持った5人の男が立っていた。
「改めて名乗る必要はないだろうが、冒険者ギルドのギルドマスター、ガルフだ。今回の先行部隊の責任者でもある。前にいるのが魔術師ギルドから参加してくれた妖術師の面々だ。
今からBランクパーティー、黒の蟷螂、青い風、黄色い熊、大蛇、灰色の隠者は、妖術師を護衛しつつ、廃村に設けられた柵の手前に岩壁を設置してもらう。
作業は正面から、正面が終わったら右と左の二手に分かれて、廃村の裏で再び合流することになる。設置する岩壁には、各面1ヵ所、幅3~4m程度の入り口を設置して、側面の入り口には、1パーティー残し、壁が出来次第、騎士団と傭兵で各面の入り口の前に野営地を設置。
妖術師の警護は灰色の隠者、1人に1人ついて貰い、護衛のパーティーは、周辺警戒と藪に潜んだゴブリンの討伐をしてくれ。役割分担は各パーティーに任せる。
灰色の隠者は、索敵で出来る限りのゴブリンの討伐に協力してくれ。右は黒の蟷螂、黄色い熊、左は青い風、大蛇、裏に回るのは黄色い熊、大蛇だ。俺と白の光、魔術師ギルドの代表ロイドはここに残る、それ以外は行動開始だ」
ガルフの掛け声で野外迷宮に向けて進行を開始する冒険者一行と妖術師の4人。
野外迷宮に近付くと、空気が変わるのを天馬は感じて警戒を強めた。ガルフの指示の通りに右に黒の蟷螂、黄色い熊、左に青い風、大蛇、が先行した。その後を妖術師と灰色の隠者が続く。
野外迷宮の中心となった廃村は濃い瘴気に覆われ、昼だと言うのに暗く、淀んだ空気に包まれていた。ガルフの言った通り、村の手前に朽ちた柵があった。柵に近付くと、物音を聞きつけたゴブリンが柵の向こうに姿を現す。
ゴブリンに気付いた冒険者が駆け寄ってゴブリンを一刀の下に討つ。その間に、妖術師が柵の手前に巻物を広げて『岩壁』の呪文名で岩壁を出現させた。高さ3m、長さ20m程度、厚さ50cmの岩壁が左右に2枚ずつ。その間から冒険者が顔を出して、
「壁の裏の討伐は終わったぜ、一応な。それよりこの隙間はどうするんだ?」
その問いに答えるように、妖術師が『岩壁』の詠唱を始めた。その先では、巻物を広げて『岩壁』の呪文名を唱える妖術師がいる。それを見てアルフが、
「これ、昼の間に終わると思うか? この面だけで夜になるんじゃねぇか? どう思う?」
「そうですね、夜は大げさですが、手を分けないと半分ぐらいで夕方を迎えるでしょうね。2km四方の村でしたよね。こんな作戦を考えたのは誰ですか? アルフは知っていますか?」
「ああ、騎士団長だそうだ。ガルフは反対したらしい。時間が足りねぇって言ってな。それを貴族位を盾に押し切ったそうだ。それで、Bランクパーティーである大蛇の参謀殿、何か良い知恵はないか?」
「うーん、昼の間にゴブの数を減らすのは基本戦略ですよね。まず、正面の壁を作るのは任せて、我々は柵の内側と外周の草叢のゴブを討ちに入ればいいかと。裏に出たら、私が壁を作ります。正面は、うちの妖術師は灰色の隠者が付いていれば大丈夫かと? 不安ならガルフと白の光が正面の護衛に就けばいいんですよ。この作戦ならガルフの顔も立つんじゃないですか?」
「そうだな、じゃあ、他のパーティーと話してくる」
そう言って、駆け出し、パーティーリーダーに声を掛けて行くアルフ。奥のパーティーには良く通る声で集まるように言っていた。
20分ほどして戻って来たアルフは、マリオが考えた作戦の了承をガルフから得て来るように天馬に命じた。二つ返事で了承した天馬は後ろを振り返って駆け出す。
「アルフ、他のパーティーリーダーは、何か言っていましたか?」
「そうだな、皆が共通して感じていたのは、この作戦が夜までに終わらない、昼のうちにゴブを叩いた方が良いって事だな。だから、マリオの作戦はすんなり受け入れて貰えたぞ。あとは、テンマがガルフの了承を取ってくればOKだ。
俺らと黄色い熊が中の、黒の蟷螂と青い風で草叢の方を掃除しながら進む事になった。中と外の連携は無し、何かあったらこれで連絡を取る」
そう言って、アルフは懐からギルドカードを出してマリオに示した。アルフが話している間に、青い風は左の草叢の方へと向かっていた。
駆けて来る天馬に気付いたガルフは、本陣の前に出てきて天馬を待った。ガルフの元に着いて天馬は、作戦の変更と合わせてマリオの考えた作戦を話した。
「やっぱ、そうなるよな。あの頭でっかちは魔術師の力を妄信してたからな。言いたい事は分かった、動き出した奴らもいるらしいことだし、アルフに伝えろ、作戦は了承する。ただし、4つ角を決める事を厳命すると。角さえ在れば、夜になっても壁を作ることがやり易くなるからな。頼んだぞ」
ガルフは左右の草叢に向かう冒険者を見ながら天馬にそう言うと、後ろを振り返り新たな指示を出すべく本陣に戻って行く。天馬も踵を返してアルフ達、大蛇の元に戻る。
「どうだった? 問題無く了承されただろ?」
天馬が戻ると、アルフが確認をして来る。天馬がガルフの言葉を伝えると
「マリオ、巻物を4つ譲ってくれ。黄色い熊に渡してくる」
そう言って、マリオから『岩壁』の巻物を受け取とり、駆け出そうとしたアルフに、
「先に、左の方ヘと向かっていますよ。私も角を作らないといけませんから」
と声を掛けた。マリオの言葉に頷いてアルフが駆け出す。マリオはリーフと天馬の方を振り向いて、
「では、私達も動きますよ」
そう言って歩き出した。
廃村の端、朽ちた柵が途切れた位置で、マリオが『岩壁』の巻物を広げ、岩壁を出現させる。壁の裏で何かが動く気配を感じ、天馬はより一層に警戒を強め、壁の右側にゆっくりと移動する。天馬の動きを見てリーフは左へと動く、マリオは数歩下がって、リーフと天馬の援護が出来る位置を取った。
岩壁の端、数歩離れた位置でリーフと天馬は腰に佩いていた剣を抜き、出て来るであろうゴブリンを待つ。「ぎゃ、ぎゃ」と声を上げながら、十数匹のゴブリンが列を成して現れる。囲まれないように気を付け、天馬は剣を振るう。剣でゴブリンを切り倒すたびに、『収納』するのも天馬は忘れない。
天馬がゴブリン相手に無双していると、戻って来たアルフが走って来た勢いそのまま、壁の裏に入って行ってしまった。ゴブリンを片付けた天馬が、リーフの状況を確認しようと視線を向けると、リーフとアルフが一緒になり、剣を振るってゴブリンを切り伏せていた。アルフ達と合流しようと思い天馬が駆け出す。視界の端には、のんびりと歩くマリオが映っていた。




