066 昼食と
天馬は全てに『洗浄』をかけて、幾つかの野菜と干し肉、パスタ、バゲット、オリーブ油、果実酢、塩を残して『収納』して調理に取り掛かる。
最初に鍋に水を満たして携帯焜炉にかけ、キャベツをザク切り、人参をせん切りにする。干し肉を一口大に切って野菜と一緒に鍋に投入した。その間に、残った干し肉を火で炙り、オリーブ油と果実酢でドレッシングを作った。炙った干し肉を手で解して残した野菜と一緒にボウルに入れてドレッシングと和えた。次に鍋に浮いた灰汁を取り塩で味を調えて火から下ろした。最後にパスタに取り掛かる。
寸胴に水を張り、水が沸く迄の時間でフライパンにオリーブ油と鷹の爪、ニンニクを軽く炒める。寸胴にパスタと塩を少々入れ、茹で上がったパスタをフライパンで軽くソースと絡めた。出来上がった料理を器に取り分け、大蛇の皆に声を掛けた。
出来上がった料理を前に大蛇は微妙な顔を浮かべて、
「文句は言わねぇって言ったけどよぅ・・・、パスタかぁ、微妙な味なんだよなぁ」
「スープとサラダは美味しそうだけどね」
「文句は言わない約束ですよ。食べましょう」
パスタ以外から手を付ける3人を見て、「そうなるよね」と天馬は思いつつパスタを食べて
「冷めると、どんなものも美味しくなくなりますよ。パスタも食べて下さい」
前に食べたパスタの印象が強いのか、中々パスタに手を付けない3人に天馬が促す。互いに視線を交わして口を付けた。一口、パスタを啜った後は勢いよくパスタを口に運んだ。半分ほどパスタを食べて、
「これがパスタ? こないだ食べたのと全然違う」
「本当に美味しいですね。テンマ君の腕が良いんでしょうか?」
「そうだな、これは美味いな。戻ったらマーニーさんにレシピを売っても良いんじゃないか?」
「えっ、レシピって売り買いするモノなんですか?」
大蛇の皆が口々に天馬が作ったパスタ料理を褒めてくれた。天馬は、アルフが言ったレシピの売り買いに興味を惹かれ詳しく聞いた。
「レシピは料理人の財産です。無償で教える事はありません。マーニーさんもレシピを買ったと言ってましたよ。パスタがこれほど美味しく食べられるなら、マーニーさんも助かると思います。結構な量を仕入れたとも言っていましたから、アルフの言うようにレシピの売却を検討すべきですね」
「レシピってそう言うモノなんですね。売却の相場って幾らぐらいなんでしょう?」
「すいません。私もそこまでは分かりせん。でも、マーニーさんは悪い人ではありませんから、おかしな金額を提示することはないでしょう。素直に相談するのが一番だと思いますよ」
「そうですね。戻ったら相談してみます」
マリオからレシピの売買について教えてもっらた天馬は、大蛇の皆と食事を楽しんだ。食事が済むと、アルフは冒険者ギルド紋章が記された陣幕に向かった。天馬は使った食器を片付けてマリオに聞いた。
「ここまでで倒したゴブリンの討伐証明の回収と、これから倒す分の討伐証明の回収ってどうするんですか? 結構な数を倒す事になるんでしょ」
「私達と別れた後にアルフと一緒に討伐した分については、アルフを待っている間に処理してしまいましょうか? あそこの隅にでも出してください。これから倒す分は、状況に依りますね。誰が倒したと明確に分かる時はパーティーや個人の物。
乱戦になった時や回収せずに先に進んだ場合は、浄化が終わった後で、参加した冒険者みんなで回収して、貢献度に応じて分ける事になります。迷宮内では攻略を優先しないといけませんから、回収は後回しですね」
「後から来るパーティーや冒険者が回収してしまう事は可能ですよね。その場合はどうするんです? 言い方は悪いですけど、自分の分に出来るじゃないですか?」
「出来ますね。でも、考えてみて下さい。今回の強制依頼に参加しているパーティーは冒険者ギルドでもトップクラス、そのパーティーが倒したゴブリンを黙って自分たちの物にしたら、どうなると思います?
1匹、2匹ならまだしも、まとまった数が消えればバレると思いますよ。Cランクのパーティーや、低ランクの冒険者がまとまった数のゴブリンに遭遇する事は少ないですから、バレたらギルドにいづらくなると思いませんか?」
「そうですね、そう思います」
マリオの説明に納得は出来ない天馬だったが、性善説がベースの考え方なのだろうと理解して、マリオに示された場所にゴブリンの死体を『展開』した。それを見たリーフとマリオは驚いて、
「テンマ君、何体あるんですか?」
「よく倒したもんね、この数を二人でなんて」
「50体程度でしょうか?半分以上は、アルフさんが倒してましたよ。それより、討伐証明を回収してしまいましょう。アルフさんが戻って来たら動くことになるんでしょ?」
そう言って、天馬は小剣を『展開』して作業に取り掛かる。それを見た2人も作業に取り掛かった。30分ほどで討伐証明を回収作業を終え、マリオが『火炎』と唱えて、ゴブリンの死体を燃やす。いきなり上がった炎に周囲の視線が集まる。
「ゴブリンの死体を燃やしています。討伐証明を回収した後の処理です。私達、大蛇が鎮火を確認するまでこの場にいます。気にせずに皆さんは、皆さんのするべき事をしてください」
マリオが周囲の視線に対して説明を行うと、周りで見ていた人たちが、それぞれの作業に戻った。周囲に炎が広がらないよう、リーフと天馬もマリオと一緒に炎の傍で注意を払った。
炎が消え、マリオを始めとした3人で周囲を確認していると、アルフが戻ってきた。
「何だよ、探したじゃねぇか。それじゃぁ、迷宮の前に集合だ。そこで仕事と配置の発表をするそうだ。何のために俺達を呼びつけたんだか? することは変わらないって言うのによぅ」
戻って来たと思ったら、いきなり不満を口にした。
「どうしたんですか? 戻って来るなり。私達に不満を言われても意味が分かりませんよ。何を誰から言われたのか、歩きながらで構いませんから説明して下さい」
マリオの言葉で、リーフと天馬も迷宮の方に歩き始める。アルフも渋々といった体で歩き出した。歩きながら、
「昼の仕事の概要と、俺ら冒険者と魔術師ギルドの妖術師との顔合わせ、最後に、魔術師ギルドが用意した試作品の性能試験を俺らがやってる、って説明で終わったんだよ、打ち合わせが。
仕事の概要と配置、顔合わせなんて一度で出来んじゃねぇか。それを態々(ワザワザ)呼びつけて、俺らが特別な武具を持っている事、それの説明が目的だったとしか思えねぇだろ。まったく何を考えているんだか、ガルフはよぅ」
「それは、不満を言うアルフの方が間違っていますね。テンマ君が『付与』を施した武具の性能は別格です。それを使っている私達も、やはり別格でしょう。その事を詳しく知っている人は少ない方が良い、アルフもそう思いませんか?
だから、ガルフさんは態々(ワザワザ)呼んだんでしょ、Bランクパーティーのリーダーを。妖術師との顔合わせも仕事の説明も建前、とまでは言いませんが、本命は私達の事を話す事でしょうね。これから聞く仕事の説明では、我々には触れないと思いますよ」
「そう言う事か? それなら納得だ」
アルフとマリオの会話が終わるころ、迷宮の前に集合した人たちが見えた。大蛇に気づいたガルフが、大声で「早く来い」と大蛇を急かした。




