065 到着
マリオ達の先を行くアルフと天馬の2人は、150mほど先で足を緩めて歩き出した。当然、周囲の警戒を怠ってはいない。
「テンマ、さっきのゴブだけ気配に気付いて無かっただろ?」
「はい、恥ずかしながら分かりませんでした。馬から降りて気付きましたが・・・、アルフさんはどうして分かったんですか?」
「うん、勘だ。そうでなければ経験だな。降りてから気付いたって事は、お前も悪くはないだろう。あとは実戦の中で鍛えて行けばいい。今も分かるか?」
「はい、分かっています。多分ですが・・・前方、左に6、その奥に7、右に5、その奥に7・・・合ってますか?」
天馬が前方の草叢に潜むゴブリンの数を伝えると、
「ああ、左は合ってると思うぞ、右は奥が8だ。多分。あと10歩進んだら、お前は左、俺が右な」
「分かりました」
天馬は答えると腰に佩いている長剣を抜いた。アルフも肩に担いだ大剣を握り直した。その行動を見て、初めてアルフが右の肩当てを外している事に天馬は気付いた。訳を聞こうと思ったがそれより先に10歩目を数えた。アルフが右に、天馬が左の草叢に飛び込んだ。
天馬が左の草叢に飛び込み、ゴブリンを切り伏せてアルフを見ると、アルフはすでにゴブリンを倒して元の場所に立っていた。
アルフの元に戻った天馬は、先ほど気になった事を聞いた。
「アルフさん、右の肩当てを外しているのは僕の『付与』のせいですか?」
「まあ、そうだな。『衝撃反射』のせいで剣の座りがわりぃんだ。それよりもこっちのゴブの死体の回収を頼めねぇか?こないだの『洗浄』も」
アルフに言われ『鑑定』を使ってゴブリンの死体を『収納』してアルフに『洗浄』をかけた。天馬も自らに『洗浄』をかける。
アルフは後ろを確認して
「テンマ、マリオとの距離が詰まったから少し急ぐぞ」
そう言って、歩き出した。
目的の廃村に向かう道中、ゴブリンの待ち伏せのたびそのゴブリンを倒し、天馬がその全てを『収納』した。待ち伏せに遭遇するまでの間、アルフは天馬に冒険者の心構えや気配を探る方法、ゴブリンの特性や特殊個体について等々、色々と教えてくれた。
遠目に目的の廃村が見えて来る。やっとここまで来れたかと天馬が思った時、
「止まれ」
アルフが声を上げて天馬を止める。天馬も何があったのか分からないが、アルフの指示に従い、立ち止まる。そして腰の剣に手をかける。
「隠れてないで出てきたらどうだ?」
アルフがピリピリとした空気を出しながら良く通る声で言うと、左右の草叢が揺れて灰色のローブを纏った者が立ち上がった。その数は4人。その者たちが草叢から出て近付いて来る。先頭を歩く人物がフードを捲って顔を見せた。その顔を見てアルフが緊張を解いた。天馬も腰の剣から手を放す。
「なんだぁ、先行している斥候ってお前らだったのかよ。今回の強制依頼に参加しているとは聞いてないぞ?」
「まだ参加してないからな。俺達はギルドの依頼でここにいる。この先、野外迷宮の手前までは安全だ。他の連中は?」
「後ろだ。もう直ぐ着くと思うが・・・・・・」
「アルフ、そいつは大蛇の新顔か?」
「ああ、こいつを紹介してなかったな。こいつはテンマ、大蛇の仮メンバーだ。こっちはマロー、灰色の隠者のリーダーで俺と同じBランク冒険者だ。こいつのパーティーは変わっててな、パーティーメンバー全員が隠密系のスキルを持っているんだ。と言うよりそう言う奴を集めてパーティーを作たんだよな、マロー」
アルフが天馬の肩を叩きながらマローに紹介した。マローはアルフの言葉を聞いて、
「灰色の隠者のリーダーを務めているマローだ、アルフの言う通り、うちのメンバーは全員が隠密系のスキルを持っている。だから、こんな仕事を振られるんだがな。うちは隠密と索敵特化のパーティーだ。よろしくな」
マローが右手を出して握手を求めて来たので、天馬も右手を出して応える。マローがパーティーメンバーを紹介すると言って、後ろに控えるメンバーの方に歩き出すと後ろから声が掛かる。振り返ると馬に乗ったリーフが手を振っていた。
リーフの後ろにマリオとガルフの姿が見え、ガルフがその奥に見えた数騎の騎馬に手を振って合図を送ると馬を駆けてこちらに向かってくる。リーフとマリオも馬を駆ける。
馬を止め馬上からガルフがアルフと天馬、マローの順に視線を向け、再びアルフに視線を戻す、
「アルフ、色々と言いてぇ事はあるが、まずは先頭を務めてくれてありがとよ。お前達とマリオのお陰で後詰の俺達も余計な戦闘を行わずに済んだ。マローも斥候の依頼ご苦労だった。ここから強制依頼に参加して貰う。野営地の下準備は?」
「ここから先、野外迷宮の手前までの安全は確保済み。野営地の予定場所の草も刈り込み済みだ」
「そうか、マローは俺の、アルフとテンマは仲間の馬に乗れ。マロー、パーティーメンバーは後詰の白の光と黄色い熊に乗せて貰え。じゃあ、野営地まで行くぞ」
そう言ってガルフはマローを馬に乗せた。アルフはリーフの馬に、リーフと騎手を代わっていた。天馬はそのままマリオの後ろに座り、準備を整えていると後詰の冒険者達が合流した。そして、マローのパーティーメンバーを馬に相乗りさせ、ガルフを先頭に野営地の予定場所を目指した。
馬で5分ほど駆けると草が短く刈り込まれた場所に出た。広さは100m四方ぐらいの広場、その向こうに膝丈の草叢が広がり、その向こうに陽炎のような靄の中に朽ちた建物群が見える。皆が下馬してその景色を見ている。
「結構、濃いみたいだな。マロー中はどんな感じだ?」
「野外迷宮は成長中、発見が早かったために村の手前でも草はそれほど伸びてはいない。村の中は分からない。強行偵察は依頼に入ってなかったからな」
「そうだったな。まずは荷物をほどいて野営地の設置だな」
ガルフとマローが話しをしていると本隊も続々と広場に着く。着いた先から持ってきた袋から荷物を出して作業に取り掛かる。天馬も大蛇と共にその作業を手伝った。野営地の体が整うとガルフが天馬を呼んだ。ガルフと共に張られた陣幕の一つに入る。
「預けたモノをここで『出し』てくれ」
陣幕の中には、樽が並んでいた。天馬はガルフが示した場所に糧食を『展開』した。ガルフは天馬が出した樽4つを魔法の背負袋に詰めて天馬を促して陣幕の外に出る。
「テンマ、配給を始めるから冒険者に声を掛けて回ってくれ。所属を聞かれたら大蛇って答えるのもわすれんな。あと、12時になったらアルフにギルドの陣幕に来るように伝えてくれ」
ガルフに言われ、天馬は「冒険者ギルドが冒険者に糧食を支給します」と言って回った。途中、何度か呼び止められて「新顔か?」とか「見かけねぇ面だな」と言われるたびに「大蛇の仮メンバーです」と答えた。天馬が広場を一回りして大蛇の元に戻ると
「テンマ君の分も貰って来たよ。お疲れ様だね、ガルフに言われたんでしょ」
「その通りです。あ、アルフさん。12時にギルドの陣幕に来てくれってガルフさんから伝言です」
「そうか、それよりテンマ、飯を頼む。朝から何も食ってねえから、腹が減っちまった」
そうアルフに言われ、マリオに岩の台を作って貰い、昨日買った調理器具と食材を並べた。
「さあ、何を作りましょうか?」