056 実証実験の開始
魔術師ギルドに入るとマリオが、カウンターに向かい受付の少年に声を掛けた。少年は、一旦奥に下がる。暫くして、少年はエルンを伴って戻って来た。
「待っていましたよ。では、付いて来てください」
そう言われ、アルフ達、大蛇と天馬は、エルンに付いて行く。通されたのは、いつもの部屋だった。そこに、イオとガルフが待っていた。
「よう来たのぅ、大蛇の皆も、テンマ君も。さて、テンマ君の『付与』がされた装備をここで、出しては貰えんか? 女性も居るのじゃから、着替えも別にしない訳にはいかんじゃろ」
イオにそう言われ、天馬もリーフの事を考えると断る理由も無い。
「僕の分も出した方が良いですか?」
天馬の言葉に、イオ、エルン、ガルフの3人が頷く。
天馬は、アルフの装備から『展開』して行き、最後に自分の装備を『展開』した。アルフの装備を『展開』した直後から、イオとエルンは、固まっている。そんな2人を見て、ガルフが、大きな声で
「で、大蛇の連中とテンマは、どこで着替えるんだ?俺は、修練場に行って段取りをするが、その案内も頼みてぇ」
ガルフの声で、イオとエルンの二人も我に返る。
「ガルフ殿は、ワシと一緒に。先に修練場で準備をしようかのぅ。エルンは、部屋の外で待機じゃ。そちらのお嬢さんが着替えを終えたら、案内を頼むのじゃ。マリオ。お前達は、隣の部屋を使え。案内は、付けんでも良いな?」
イオが、そう言うと、リーフを部屋に残し、各々が部屋を出て動き出した。エルンが、今、出た部屋の前に立つ。アルフと天馬は、マリオの案内で隣の部屋に入る。イオとガルフは、地下に向かった。
天馬たちが、着替えを終え、マリオの案内で修練場に降りると、イオとガルフが準備を整え、待っていた。
修練場を見回すと、巻藁が50本、最近、見た記憶が有る2m□、厚さ50㎝の岩の壁が20枚、矢のマトが20個、修練場の三方に並べてあった。そこに、エルンと共にリーフも下りてきた。
皆が揃ったのを確認して、イオが口を開いく、
「テンマ、皆に『付与』の内容と効果を説明してはくれんかの?」
イオに言われ、天馬は施した『付与』と、考えている効果を話し始める。途中で、別に『収納』していた、リーフの矢を出して、それを渡す。最後に『攻撃反射』に付いて、装備者の意識か、攻撃する側の意識の問題がある可能性を示唆し、今回の試しと本人の希望を聞いて、マリオとリーフに『衝撃反射』と『攻撃反射』のどちらかを『付与』する予定と言って、テンマの説明は終わった。
天馬の説明が終わると、イオとエルン、ガルフが集まって相談を始めた。その間、大蛇の皆は、武器や防具の感触を確かめる。アルフは、大剣を振り、感触を確かめている。マリオは、杖を握り目を瞑り、ブツブツ言っている。リーフは、矢を番え弓を引き、その感触を確かめていた。天馬は、ストレッチをして体をほぐしていた。
相談を終え、ガルフとイオが、アルフに声かける。
「なあ、アルフ。せっかく、装備したトコ、悪いんだが、武器と肩当てを外して貰えんか? ちょっと、試したい事があるんだが、イイよな」
ガルフに言われ、どう答えていいものかと、アルフが戸惑っている。アルフの戸惑いが、修練場にいる皆に伝わる。その事に気付いてかは、分からないが、イオが、言葉を継ぐ、
「アルフと言ったかの? 心配せんでも良いのじゃ。これを貸してやるでの」
そう言って、懐から『守りの指輪』を取り出し、皆に見せた。
「これを、装備しておれば、死ぬことは無いのじゃ」
その場にいた全員、二人が、アルフに何をやらせたいのかが、想像がついた。それは、アルフもそうだっだ。溜息を吐いて、イオの前に手を出し、
「それを貸せ。言う通りにするから。大丈夫なんだろ、これ?」
「大丈夫じゃ。そんな事より、さっさと準備をせんか? 肩当てを外し、武器を置くのじゃ」
イオに催促され、武器を置き、肩当てを外して、
「想像は・・・付いているんだが、確認だ。俺は、何を試されるんだ?」
アルフの問いに、ガルフが答えた。
「まず、俺が、挨拶代わりに胸甲を叩く。あくまで、挨拶だ。アルフ、それを忘れるな。
その後、胸甲に石、ナイフの順で投げつける。攻撃としてだ。ここまでは、良いな。アルフ」
「分かった。ここまで。と念を押すと言う事は、続きがあるんだろ?」
「そうじゃ。次は、ワシの番じゃ。『土弾』、『水弾』で、終いじゃ。正直、火や風も試したいのじゃが、明日の戦力を削る訳にもいかんしのぅ。
それから、テンマ。試しの後に、マリオとリーフに『付与』するんじゃろ? ついでに、これらのトップスに、『防刃』をしてくれんかの?」
とトップスを5着への『付与』をイオに求められた天馬は、二つ返事で了承した。
「では、始めるかのぅ?」
イオの言葉で、アルフと天馬が緊張する。『付与』の効果を試される事になるアルフは、当然の事。その『付与』を施し、アルフを実験台にすることになった天馬は、緊張に不安、アルフに対する申し訳ない気持ち、アルフの無事を願う気持ちが胸の中で絡み合っていた。
「じゃあ、始めるぞ」
そう言って、アルフの胸甲をガルフが、振り被った拳を叩きつけた。拳を叩きつけられたアルフは、そのまま、後ろに蹌踉めく。ただ、それだけだった。
「アルフ。結構、強く叩いたが、大丈夫か?」
「いや、俺も驚いているんだが・・・、痛みは、無いんだ。『押されたから、下がった』って感じで、叩かれた痛みや衝撃は、感じなかったんだ」
「ほほぅ。それが、テンマの『付与』、『衝撃吸収』の効果なんじゃろう。アルフ。すまんが、もう一度、試してくれんかのう? ガルフ殿も。同じ挨拶じゃ。ただし、今度は、アルフに踏ん張って貰うがの。良いかの?」
イオの言葉に頷く2人は、先ほどと同じに距離を取る。違うのは、踏ん張りが利くようにアルフが、右足を引いている。ガルフが、振り被った拳をアルフに叩きつける。アルフは、胸を張って、拳を受け止める。一瞬、ガルフの顔に苦悶の表情が浮かぶ。
「どうじゃ?」
「さっきと同じに、殴られた痛みは無い。押された感じは有ったけどな。それを踏ん張って耐えただけだ」
「本当かよ? さっきよりも強く叩いたはずだが? 俺の方は、痛かったぞ?」
「そうか。やはり、そうなるんじゃな。予想した通りの結果じゃ。テンマの『衝撃吸収』の効果は、確認されたのじゃ。さて、次じゃ、次」
ガルフは、アルフとイオの言葉に納得していない様子だが、イオに言われてアルフから距離を取る。どこから出したのか、気が付けば、ガルフの手には、拳大の石が握られていた。
5mほど距離を取ったガルフが、肘と手首のスナップだけでアルフに石を投げつけた。
アルフの胸甲を目掛けて、一直線に飛んだ石は、胸甲に当たる。その瞬間、少しだけ角度が変わり跳ね返った。跳ね返った石は、ガルフの足元にめり込む。それを見たガルフが、慌てて飛び退く。石を投げ付けられたアルフも目の前の光景に驚いている。
「アルフ。どうじゃった?」
「いや、見たまんまだぜ。石を投げ付けられて、当たると思った瞬間、御覧の通りの状況だ」
「お主は、投げつけられた石をどう思ったんじゃ?」
「脅威を感じたよ。躱せるなら、躱したいと。でも、躱すなって言われたからな。そしたら、石が、ガルフに向かって飛んで行って、俺も『はっ?』って感じだ。これが『攻撃反射』なのか?」
「おそらく、そうなのじゃろう。アルフが脅威、すなわち、攻撃と思ったから『攻撃反射』が発動したんじゃろ。先ほどの挨拶と違ってな。それより次じゃ、次。ガルフ殿も『守りの指輪』を付けるか? 予備ならあるぞ」
「自分が、投げたナイフで怪我するほど鈍っちゃいねぇ」
ガルフが、答えると、アルフに向かって下手投げでナイフを投げた。周りで見ていた者は、ガルフが手を振り上げたぐらいに思えた。それほどにガルフの動きは自然だった。しかし、投げられたナイフの柄が地面に当たり「カラン」と音を立てた事で、ガルフがナイフを投げた事に気付けた。ナイフを投げつけられたアルフも何が起こったか把握しきれていない様子だった。
「良く分かったな。予備動作は、無かったと思うんだが?」
「いや、正直、分からなかった。風切り音が聞こえた気がして・・・。思わず身構えた。そしたら、ナイフが跳ねていた。多分、いや、間違いなく、この鎧でなければ、刺さってたと思う。それより、ガルフ。テメェ、アイテムボックス持ちだったのか?」
「容量は、小さいがな」
ガルフとアルフのやり取りを聞きつつ、イオが黙考をしている。
「ガルフ殿。見事じゃった。この場に居る者、皆が気付かないとは大したものじゃ。それで、アルフは、身構えたんじゃな。それは、危険を感じて。と解釈して良いな?」
「そうだな。そう解釈して貰って構わない」
「そうか。そうか。それで、相談なんじゃが、『土弾』を『砕石弾』に変えたいんじゃが?良いじゃろ」
「良いも、悪いも、俺に選択肢はねぇんだろ?」
「そうじゃったのう。では次じゃな。いよいよワシの番じゃ。ワクワクするのじゃ」




