053 冒険者ギルド(アルフ Side)
報告と御礼(2025/5/10)
読者の皆様、ありがとうございます。
累計PVが10万を超えました。総合評価も1,000ptを超えております。これからも頑張って、書いて行きたいと思います。今月中には、区切りの良い所とまでは書き進めたいと思っています(汗)。
文才の無い身ながら、頑張ります。
感想、誤字報告を下された方々には、この場を借りて、お礼を申し上げます。厳しい感想もありましたが、筆者としては、有難く思っております。
ブクマが増えたり、リアクションを頂く事。感想やレヴュー、評価を頂ける事は、執筆の励みになります。今後とも、宜しくお願いします<m(__)m>。
誓約書を教会で作って貰ったアルフとリーフは、魔術師ギルドの前でマリオと別れ冒険者ギルドに向かった。
強制依頼を明日に控え、ギルド内はピリピリとした空気が漂っていた。武器の手入れをする者、女性冒険者に声を掛け、必死に口説いている者、併設されてる酒場で酒を煽る者。皆が、明日の強制依頼に対して何かしら思っている。そんな中、勢いよく扉を押し開けて入って来た者に視線が向かう。今回の騒動の発端と言える人物が姿を現した。剣呑な視線が、入って来た人物に向かう。
そんな、視線を気にもせずに開口一番、
「アルフだ。マスターは? どこに居る?」
そう言いながら、カウンターに近づく。アルフの後ろをリーフが、目立たないよう、少し距離をおいて付いて行く。
アルフがカウンターに肘を付き、身を乗り出して受付嬢に、
「マスターは? どこに居る?」
と再び問う。受付嬢は、顔色を変えずに微笑んでいた。もう一度、先ほどより大きな声で、
「マスターは?どこに居る?」
すると奥から
「聞こえているぞ。アルフ。今度は、何だ? コボルトの群れでも見つけたか?」
「ガルフ。それは、笑えねぇ冗談だ。折り入って相談がある。場所を変えて貰えないか?」
「ふん。お前が持ってくる話しは、ろくなもんじゃねぇからな。良いぞ。部屋で聞いてやる。リタ、コイツと後ろのお転婆娘を連れて来い」
リタと呼ばれた受付嬢が、カウンターを回ってアルフの前に立つ。アルフは、リーフを見て顎をしゃくる。リタに付いてギルドの廊下を歩く。一際、重厚な扉を開け、リタがアルフ達に入室を促す。部屋に入ると、執務机に座ったガルフが口を開く。
「で、今度はどんな厄介事だ?」
「厄介事・・・、かも知れんが、それ以上に有用な話だと思っている。この国にとって」
アルフの言葉を聞いたガルフが、訝しんだ目でアルフを睨む。
「国とは、大きく出たな。内容を聞いてから、判断してやる。話せ」
「話すのには、条件がある。誓約書に署名を貰いたい。貰えなければ、このまま部屋を出ていく。文句は、一切、聞かない。因みに大蛇は、同じ誓約書に署名している。多分、魔術師ギルドの学長も。どうする?」
「俺が、断ったらどうする?」
「当面は、どうするも無いだろ。明日には、脅威度Cの討伐があるんだ。ただ、将来的には、断ったアンタは、まずい事になると思うぜ。
同じ話をマリオが魔術師ギルドに持って行ってる。向こうは、間違いなく誓約書に署名して、情報を得る。その恩恵もな。そうなった時、俺は、今のやり取りを皆に話す。
ここ以外のギルドでもな。そうなると、冒険者ギルドに不利益を齎した犯人は、アンタになるんじゃないか?」
「俺を脅すつもりか、アルフ。Bランクの一冒険者が?」
「違うぞ。脅しじゃない。事実を話している。それに、俺は、交渉しているつもりだ。だって、今、ガルフに不利益は無いだろ。ただ、誓約書に署名をしなかっただけで」
「それを・・・・・・。わぁーたよ。署名する。誓約書を出せ」
アルフは、誓約書を出し、ガルフに渡す。ガルフが、誓約書を一読して、
「テンマ。アイツが関係してんのか?」
アルフが、何も言わないので、ガルフは、黙って誓約書に署名して、その上にギルドカードを置く、1枚目が光の粒子となって霧散した。残った1枚を取り、残りをアルフに返した。
「ガルフ、誓約書を知ってたのか?」
「当たり前だ。ギルド職員の役付きは、全員、俺と誓約書を交わしている。俺も国の冒険者ギルド本部のマスターと交わしている。それで、テンマがどうした?」
「そっか。まぁ、これを見てくれ」
そう言って、天馬が『素材強化』『材質強化』『防刃』を『付与』した長袖を取り出し、ガルフに見せた。それを見たガルフは、
「普通の長袖じゃねえか?これが何だって言うんだ?」
「そう思うだろ。ナイフを貸してくれ。見た方が早い」
ナイフを貸したガルフは、アルフが何をするのか分からなかった。アルフは、机の上に長袖を広げ、ナイフを長袖の上に当てる。
「机に傷が付いたら、許してくれ」
そう言って、ナイフを一気に引いた。
「ちょっ、待てえぇーーーーー」
ガルフの絶叫が、部屋に響く。ナイフは、机に3㎝ほどの傷をつけた。そのナイフをガルフに返して、アルフは、長袖をガルフの目の前に広げて見せる。
「はっ?」
ガルフは、長袖と傷が付いた机を交互に見て、もう1度、
「はっ?」
と口にする。それを見て、リーフが噴き出して、アルフは、楽しそうに笑う。
「そんな顔になるよな。これが、テンマが『付与』した『防刃』の効果だ。俺達は、この長袖の購入にも立ち会っている。テンマが買った時は、普通のトップスだった。それが、こうなった」
「信じられん。アイツは付与魔術師だったのか?」
「いや、良く分からない。魔術師ギルドは、俺達よりは、把握してると思うが。ただ、これだけじゃないんだ。今朝、テンマが、これを俺らに見せて、俺らの装備へ付与したいって言ってきたから、預けてきた。それが、午後には、終わって試せるらしい。それで、ギルドの修練場を貸し切りにしてもらいたい。ダメか?」
「ダメじゃないが・・・。他にどんな『付与』するか知っているのか?」
「ああ、効果は分からんが、俺の剣には『素材強化』、『材質強化』、『防錆』、『内部靭性上昇』、『鋭刃鋭利上昇』。鎧は『素材強化』、『材質強化』、『防刃』、『防汚』、『防腐』、『防水』、『衝撃反射』、『攻撃反射』が付くらしい。リーフ、お前は?」
「私は、弓に『素材強化』、『材質強化』、『防腐』、『命中精度上昇』、『威力増大』。矢に『素材強化』、『材質強化』、『防腐』。50本ずつ『貫通力上昇』と『炸裂』を付けるって言ってた」
「そうそう。マリオの杖にも『魔力操作上昇』、『使用魔力減少』、『魔術威力増大』を付けると言っていたな。アイツ」
アルフとリーフの話しを聞いて、ガルフは椅子に座り込み、天を仰いだ。口からは乾いた笑いが漏れている。
「えっ~と、ガルフのおっさん。大丈夫か?」
アルフに声を掛けて貰い、ガルフが帰ってくる。
「ああ、大丈夫だ。で、その付与の威力とかは、分かってるんだろうな? まさか、知らないとか言わないよな?」
「すまん。知らないんだ」
「はっ。知らないで、修練場を使わせろって? 今、修練場に何があるか知ってて、言ってんのか?」
「何があるんだ? リーフ、知ってるか?」
「知らなーい」
「おいおい、昨日、お前らが買ってきた物があるじゃねぇか。明日の糧食が。それに被害が出ねぇか心配してんだよ。大丈夫なんだろうな?」
「すまん。分からない。何せ、付与を施された武器を使うのも、俺自身が初めてだし。その付与だって、マリオも聞いた事が無い様子だったし。正直、どれほどの効果なのかが、分からないんだ」
「そうかよ」
アルフとリーフの態度にガルフは呆れた。アルフが見せた天馬の付与。その効果は、今までの常識の範疇に収まるモノではない。武器に対して行われた付与が、アルフの見せたモノと同等と考えても、研ぎから戻って来た剣程度、と考えるのは危険に思えた。
「アルフ。マリオと連絡を取れるか? カードで。マリオに魔術師ギルドの修練場を借りる段取りを頼んでくれ。こっちからは、試し切り用の巻藁と矢のマトを持ち込むと伝えてくれ」
「分かった」
そう言って、アルフはギルドカードを持って、目を瞑る。目を開け、
「一応、送った。あとは、返事待ちだ」
「そうか。それより、テンマって何者なんだ。昨日だって、あんなアイテムボックスもその容量も普通じゃねぇぞ」
「そうだなぁ、何者なんだろうなぁ?正直、良く分からんが、悪い奴で無いのは間違いない。と思っている。アイツは、職探しで、ここに来た。剣の腕があり、身体強化と見紛うばかりの動きでゴブを6匹、撫で切る。金も結構な額を持っている」
「そうそう。テンマ君、お金持ち」
「だから、俺らは、どっかの国の貴族か、イイトコの御曹司とか、考えたんだが、・・・・・・アイツ、モノを知らねぇんだ。多分、この国の名前も知らなかったと思うぜ」
「マジか? そんな事があるのか?」
「普通は、ねぇよな。だから、テンマが何者は、分からん。としか言えねぇ。でも、俺らを案じて、付与を申し出てくれるような奴だ。だから、悪い奴じゃねぇ」
「そっ。テンマ君は、素直で良い子だよ。ギルマス」
「そっか。テンマは、素直で良い子か。アルフ、お前の勘も鳴らなかったんだろ? それに、マリオの『嘘看破』でも白だったら、当座、信用するしかねぇな。
ところで、テンマと知り合ったきっかけは? 今までの話しからすると、どっかで拾って来たんだろ?」
「そうそう。『不帰の草原』の方から出て来た時は、驚いたよね。アルフ?」
「そうだな。アイツとは、帰りの道中、ここから馬車で半日、ゴブの襲撃で助力してくれたのが、最初の出会いだ。さっきも言ったが、アイツはモノを知らねえ。だから、小便しに草叢に入ったそうだ。だって、俺が言うまで『不帰の草原』も『魔の樹海』も知らなかったんだからな」
「そうなのか? それでも、お前らは、テンマを信用すると?」
「そう言う事だ」
「それより、修練場の件。どうなった? それと、何時からだ?」
ガルフに言われてギルドカードを確認すると、丁度、文章が書かれ始めた。それを読んで、
「大丈夫だ。時間は2時から予定していてくれ。俺達は、一度、宿に戻ってから魔術師ギルドに行く。行きがけに声を掛けようか?」
「いや、大丈夫だ。先に魔術師ギルドに行って、向うの学長と話しておく必要があるだろう?」
「そうだな。そうしてくれ。苦労を掛けて悪いな。ガルフ」
「気にするな。じゃあ、向うの修練場で」
「おう、また、あとで」
そう言って、アルフとリーフは、ガルフの部屋を出で行った。2人が出て行った扉を見つめガルフは、頭を抱えていた。




