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052 魔術師ギルド(マリオ Side)

 ギルドの前でアルフ達と別れたマリオは、直ぐ魔術師ギルドの扉を潜り、カウンターに向かう。


「急ぎ、学長とエルン師に面会を。用件は、テンマ君の事と伝えてください」


 受付の少年に伝えると、直ぐにエルンが現れた。


「テンマ君の事と聞きましたが、急ぎですか?」


「はい。なるべく早く。学長とエルン師に伝えたい事とお願いがあります」


「分かりました。では、学長室へ」


 エルンが先導する形でエルンとマリオが学長室に向かう。道すがらエルンが


「何があったのですか? もしや、彼の身に何か?」


「いいえ。そんな事ではないので、そのような心配は無用です。まずは、学長にお会いしてから、お話します」


 学長室が見えて来る。扉が開いていて、学長イオ・ガンダルフが立っていた。エルンとマリオが部屋に入るとイオが鍵を掛ける。マリオにソファーを勧め、イオとエルンは対面に座る。


「さて、我が弟子マリオ。テンマの事で話があるという事じゃが。何じゃ」


「我が師よ。不躾かとも思うのですが、何も聞かずに誓約書に署名(サイン)を頂けないでしょうか? エルン師もお願いします。私は、大蛇(サーペント)として他の2人と共に同じ内容の誓約書を書いて、教会に収めています。テンマ君の為にもお願いします」


 イオとエルンが顔を見合わせて、お互いが頷く。


「良いじゃろう。誓約書を出すのじゃ。ワシもエルンも署名(サイン)しよう」


「ありがとうございます。我が師よ」


 そう言って、マリオが取り出した誓約書にイオとエルンが、それぞれ署名(サイン)を書く、そして、その上にギルドカードを置いた。瞬間、誓約書の1枚目が光の粒子となって霧散した。残った2枚のうち1枚をマリオに渡してくれる。


「師よ、誓約書をご存じだったのですか?」


「当然じゃ。エルンもワシも1枚は、持っておるでな。それで、何があったんじゃ?」


 イオに聞かれ、マリオは、天馬が『付与』を施した乗馬ズボンを取り出した。それを2人の前に置いた。


「それでは。まず、これを見て頂けますか?」


 乗馬ズボンを見て2人が固まっている。


 マリオは、『鑑定魔術』に適性が無いに近い。一応、術は学んだが、発動が不安定で使えると言うレベルではない。一方、目の前の2人は十全に『鑑定』と『付与』が扱える。おそらく、乗馬ズボンが前に置かれたと同時に『鑑定』を掛けて、その結果が見えたからこの状況になったのだろうと思った。


 5分くらい経っただろうか、イオが言葉を発した。


「凄いのじゃ。凄いのじゃ。これは、凄いのじゃ。分かるか。エルン。マリオ。これが、どれほど凄い事か?」


「分かります。分かりますとも。学長。これは、新しい『魔法(ルーン)文字』です。新発見ですよ。歴史的な偉業と言っても良いモノでは無いですか?」


「そうじゃろ。そうじゃろ。そう思うじゃろ」


 興奮する2人に、マリオが、声を掛ける。


「我が師よ。エルン師も落ち着いてください。話はこれだけでは無いんですから。まず、私の話を聞いてください。お願いします」


「そうじゃった。余りの感動に興奮して、すまんかった。我が弟子よ」


「そうですね。すいませんでした。マリオ。話を続けてください」


「では、2人に伺いますが、この『付与』の効果が、どの様なモノか、お解かりになりますか?」


 マリオの質問にエルンが答えた。


「こちらの『魔法(ルーン)文字』から、何かを防ぐ効果があると予想は出来ますが、こちらの『刃』の意味が分かりません。マリオ。勿体ぶらずに教えなさい」


「師よ、刃物は御持ちではないでしょうか? 有りましたら、御借りしたいのですが」


 そう言われ、イオが机の上に手を広げ『出ろ』と言うと「カラン」と言う音と共にナイフが机の上に落ちた。それをイオが取り上げて


「これで、良いかの?」


 と言いながら、マリオに渡した。受け取ったマリオは、無言で乗馬ズボンの上にナイフを滑らせる。「あっ」と2人が声を上げる。次の瞬間、「えっ」と2人の声が重なった。


「これは、昨夜、テンマ君が『付与』を施したモノです。テンマ君は、ここにある乗馬ズボンでは無く、長袖を見せ、ナイフで切り付け、フォークで刺しても傷が付かない事を示してくれました。『防刃』と言う『付与』を施してあると教えてくれました。その上、私達、大蛇(サーペント)の装備にも『付与』を施すと言ってくれました。


 この『防刃』と言う『付与』一つでも、付与魔術の可能性が広がると思います。ただ、いたずらに、この『防刃』と言う『付与』を広めるのも如何なものかと考えました。テンマ君の『付与』は、付与魔術の歴史を変えると思います。でも、急激な変化は、敵も生み出し、テンマ君自身の身に危険が及ぶかもしれません。そうならない様に、2人の御力を御借りしたく、伺いました」


 2人は、マリオの説明を黙って聞いていた。マリオにとっては、重た過ぎる沈黙だった。いつまで続くのだろう。言葉をさらに重ね、2人の力が必要と説こうかとマリオが考えた時、イオが口を開いた。


「マリオよ。それは、魔術師ギルドゴメナ支部の学長であるイオじゃのうて、イオ・ガンダルフとしての力が借りたい。で合っておるか? エルンに対しても同じことを求めると?」


「左様です。我が師よ。私も、私達、大蛇(サーペント)も出来る限り、テンマ君を守る心算(ツモリ)はありますが、腕の長い者も()りましょう。そのような者たちからもテンマ君を守るのは、一介の冒険者では、(イササ)か、荷が勝ちます」


「分かったのじゃ。ただし、この事をテンマに。いや、マリオ、お前の仲間にも知らせる事を禁ずる。時が来るまでじゃがな。エルン、其方(ソナタ)もそれでよいか?」


「イオ・ガンダルフ様の御心のままに」


 2人の会話を聞いて、マリオは安堵の溜息を()いた。ここを訪れた目的が叶ったのだ。


 マリオは、偶然が重なって2人が貴族籍を持っている事を知っていた。しかも、イオが公爵家に連なる存在であることも。知った時は、我が身の不幸を呪いもしたのだが、今は、それを幸運に感謝していた。貴族の2人が、テンマの後ろ盾になると言ってくれたのだから。


 安堵の表情を浮かべているマリオにエルンが話しかける。


「マリオ。テンマ君は、他にどんな『付与』を施すと言っていましたか? 覚えている範囲で構いませんので、教えてください」


 エルンに言われ、マリオは記憶を手繰りながら話し出した。その話しをイオとエルンがメモを取りながら聞いていた。徐々に興奮して行く。マリオが話し終えるとイオが口を開く。


「『攻撃反射』、『表面硬度上昇』、『魔力操作上昇』、『使用魔力減少』、『魔術威力増大』、『貫通力上昇』、『炸裂』、聞いた事の無い『付与』のオンパレードじゃな。これだけの『付与』を施すのであれば、それなりの時間が必要じゃろう?それに、インクも。その辺りの準備は、どうなんじゃ?」


 イオの質問に、質問を返すマリオ。


「インクですか? なんのための?」


 その質問にエルンが答える。


「『魔術インク』の事ですよ。『魔法(ルーン)文字』を刻むために必要でしょ。『付与魔術入門』にも書かれていますよ」


 その答えに「えっ」と言う表情を浮かべ、マリオが聞く、


「『付与』とは、『言葉を具現化する』ことではないのですか?確か、『付与魔術入門』に書かれていたと記憶しているんですが、違いましたか?」


「それは、『付与魔法』の場合です。『付与魔術』は、『魔術インク』で『魔法(ルーン)文字』を刻む事で、『魔法(ルーン)文字』の効果を具現化できるのです。


 先ほど、乗馬ズボンに『素材強化』、『材質強化』、『防刃』、『衝撃吸収』、『防汚』、『防水』、『透湿』と7つの『魔法(ルーン)文字』が刻まれていました。『防汚』、『防水』は、中級以上の魔術書(グリモワール)に出て来る『魔法(ルーン)文字』で、『防』に『(フセ)ぐ』とか『備える』の意味がある事は分かっています。しかし、『刃』の意味が分かりませんでした。マリオの実演と説明で『刃物からのダメージを防ぐ』と言う『付与』と分かったのです。


 新しく『刃』の『魔法(ルーン)文字』を生み出したテンマ君の『付与』の才が高い事の証左でしょう。『衝撃吸収』や『透湿』の創造は尚の事。適当に書いても意味がない事も分かっていますから。


 だから、学長は『付与』を施すのに必要な『魔術インク』は十分に用意してあるのか? そして、どれぐらいの時間が掛かるのか? とマリオに聞いたのです。分かりましたか?」


「はい。理解はしました。・・・・・・でも、テンマ君は、『魔術インク』を持ってるとは思えません。それに、私達、大蛇(サーペント)全員の付与を昼過ぎには試しが出来る程度には終わらせると言ったのです。どういう事なんでしょうか?」


「マリオ、テンマ君が『魔術インク』を持っていないと思うのは、何故ですか?あと、テンマ君が『付与』を施す物の数を教えて下さい」


「はい。ゴメナに入ってから、私達は、テンマ君と行動を共にしていました。テンマ君が、1人で行動したのは、昨日の午後だけです。その時、彼は教会の図書館で読書をしていたはずです。テンマ君がゴメナに入って以降、『魔術インク』を買う機会は無かったはずです。だから、テンマ君は『魔術インク』を持っていないと思うのです。


 テンマ君が『付与』を施す予定の数は、・・・・・・550を超えると思います。私達3人の服と武器、防具。仲間の弓使いの矢、全てに『付与』を施すと言っていましたから」


 マリオの答えを聞いて、イオとエルンは、呆気にとられた。


「あっ、エルン師『付与』って簡単に外せるものですか?」


「はっ?」


 2人は、間の抜けた顔をして、揃って溜息を()いて、


「マリオ。『魔術インク』は、物や紙に定着すると見えなくなります。見えない物をどうやって消すと言うのですか? しかも、『魔法(ルーン)文字』による『付与』は、『付与』を施された時点で対象の物、全体に効果を表します。『付与』を外すなど、まるで『付与魔法』ではありませんか?」


「『付与魔法』なんじゃろ。おそらく。テンマは『付与魔法』を使える。と考えなければ説明が付かんじゃろ? それなら、新しい『魔法(ルーン)文字』の説明が付く、『付与』を外せる事も然りじゃ」


「それでは、テンマ君は『付与魔法』を使えるとお考えですか? 師よ」


「そうじゃ。新しい『魔法(ルーン)文字』の創造。500を超える数の付与を1日も掛からず行えるという言葉。『付与』を外せる事も『付与魔法』が使えなければ説明できんじゃろ? エルン、『付与魔術』の権威として、其方(ソナタ)は1日に500を超えるが、可能だと思うか?」


「不可能ですね。精々、400っと言ったところでしょうか。それも、私が得意な『魔法(ルーン)文字』を刻み易い物に施す。ならば」


「そうじゃろうな。だから、テンマは『付与魔法』が使えると考えるのが自然なんじゃ」


 2人の話を聞いて、テンマ君が、自分の想像以上に凄い事をしたのだと痛感した。同時に、2人の助力を得た自分を褒めた。気が付くと、ギルドカードが、熱を持っていた。懐からギルドカード出して確認をした。マリオが、ギルドカードから視線を戻すと、イオとエルンが微笑みを浮かべていた。


「のう、我が弟子よ。試すんじゃろ? テンマの『付与』を。どこで、いつ、試すのじゃ? ワシとエルンは、立ち合いを望むんじゃが、まさか、断ったりはせんじゃろ?」


「当然です。我が師よ。ぜひ、立ち合いをお願いしたく思います。そこで、相談なんですが、ギルドの修練場を御借り出来ませんか?


 実は、冒険者ギルドの修練場を借りる予定だったんですが、今ほど、こちらを使えないか問い合わせがありまして、向うの立会人は、ギルドマスターのガルフさんだけ。試し切り用の巻藁、矢のマトは向うで持ってくるそうなので、こちらは岩と矢のマトになりそうな物の準備を頂けますか?」


「構わんぞ。ただし、条件が1つ。今回の討伐が終わったら、マリオ。貴様は、1週間、毎日、朝から夕までギルドに顔を出し、貴様の装備、全て、研究資料として提供する事を命じるのじゃ。テンマを同伴しても構わんぞ」


「テンマ君については、本人の意思次第。私の装備は、返して頂けるのなら、問題はありません」


「当然、返す。朝、預かって、夕方、お主が帰る時に返すのじゃ。テンマについては、仕方ないのう。そうじゃ、『付与』した『魔法(ルーン)文字』と意味の提供をお願いしてくれればそれでも構わんぞ」


「聞いてみます。では、アルフに伝え、一度、宿に戻ります。では、2時過ぎに修練場で、我が師よ」


 そう言って、マリオは部屋を出て行った。残った2人は、マリオの出て行った扉を見つめ、深い溜息を()いた。


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― 新着の感想 ―
内緒に、と言われた筈なのに『契約魔術付けるから』と言って触れ回る奴ら。主人公、友達は選びなよ、、、
>魔術師ギルドゴメナ支部の学長であるイオ 今更ですけど、何故「支部長」ではなく「学長」なのでしょう? 違和感が半端ないです。 支部長兼どっかの大学の学長なのか、 あるいは、魔法学か何かの権威で「長…
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