045 情報の確認と初めての付与
蟒蛇の寝床に戻ると、アルフ達は先に戻って夕食を摂っていた。天馬とマリオも席に座って注文した。料理と飲み物が揃うと、アルフとマリオが情報の確認と整理を始めた。
野外迷宮が、半径3㎞前後の円状に拡がっている事。
4つのパーティーが4方向から先行突撃を行い、その後にCランク、Eランクの冒険者が続く作戦である事。
冒険者ギルドと騎士団が、領都と王都に現状の報告と万一に備え、応援要請を出した事。
魔術師ギルドが、今回の討伐に妖術師を5人派遣する事。
教会が、浄化師を3人、治癒師を3人派遣する事。
集まった情報を聞いた天馬は、昼食の時にアルフが言っていた「脅威度」について聞いた。
脅威度は、冒険者ギルド、魔術師ギルド、騎士団がそれぞれの分野毎に定める。化物討伐なら冒険者ギルド。魔獣や魔物の討伐なら冒険者ギルドと魔術師ギルド。魔力災害なら魔術師ギルド。盗賊討伐や戦争は騎士団。
脅威度に応じて、強制依頼の報酬が決まる。脅威度DからSまでの5段階。脅威度Dが一番低く、Sが一番高い。脅威度が上がるほど報酬も上がる。脅威度Dで小銀貨5枚。脅威度Cで中銀貨1枚。脅威度Bで中銀貨5枚。脅威度Aで銀貨1枚。脅威度Sで銀貨1枚と防具の貸与。荷運び人の報酬は、脅威度に拘わらず小銀貨1枚。
アルフに代わって、マリオが説明してくれた。天馬は、マリオの説明を聞いて『不帰の草原』の死体、彼らは、脅威度Sの参加者だったのだろうと考えた。
食事が済んだ天馬は、まだ飲んでいるというアルフ達、大蛇と就寝の挨拶をして直ぐに部屋に戻った。
部屋に入ると直ぐに鍵を掛ける。そして、『亜空間収納』から『品質:良質』だった長袖、薄手の乗馬ズボン、レインコートと薄手のハイソックスを1足出した。
『付与魔術は、物質に対して施す魔術。
1の物質に付与できる数は、素材の種類と品質で決まる。
付与は、1の対象全体に作用する。
付与は、言葉を具現化する。
言葉は、6文字以内で効果を表す言葉でなければならい。
付与を外す場合は、対になる言葉を付与しなければいけない。』
天馬は、魔術師ギルドで読んだ『付与魔術入門』の序文を思い出していた。
本には、他にも書かれていた、品質と付与の関係、付与の方法、付与が出来ない物etc。天馬自身、『付与』のイメージが序文に集約してあったため、深くは理解していなかった。
そして、ハイソックス1足を持って、付与すると意識して言葉を紡ぐ。
「素材強化、・・・・・・・・・撥水」
天馬の中で、30秒の時間を空けて2つの言葉を付与として紡いだ。心臓の鼓動が聞こえて来る。
「『鑑定』」
『靴下-形状:ハイソックス 材質:リネン 状態:通常 品質:一般 付与:素材強化、撥水』
付与は成功したらしい。天馬は『鑑定結果』に安堵し、浴室に向かう。浴室に入るとハイソックスに水を掛ける。水が弾かれる事を確認して、意識して
「親水」
と天馬が言うとハイソックスが、水に濡れる。「乾燥」と唱え部屋に戻った。
部屋に戻った天馬は、レインコートに『素材強化』と『撥水』を付与した。そして、長袖と乗馬ズボンに付与する言葉を考える。
そして、『素材強化』、『防刃』、『衝撃吸収』を付与した。『防刃』を付与した後に、日本の防刃ベストを思い出す。硬い繊維で織られたベストの着心地は、良いモノでは無かった。恐々(コワゴワ)、長袖に袖を通す。肌触りに変化は無かった。これが、魔術?魔法?の世界の不思議なのだろうと天馬は納得した。
次に、剣帯から小剣を外し、次いで、剣帯も外す。『亜空間収納』から、ドランの店で買った物を全てとマーニーの店で買ったブーツを出す。
まず、天馬はブーツに『防刃』、『防腐』、『透湿』、『軽量化』を付与した。
『ブーツ-材質:翼竜の革、火蜥蜴の革 状態:通常 品質:良質 付与: 材質強化、防滑、防水、防汚、防刃、防腐、透湿、軽量化』
次に、防具すべてに『素材強化』、『材質強化』、『防刃』、『防汚』を付与した。そして、考えた末に『品質:上質』の胸甲に『攻撃反射』を。肩当てに『衝撃反射』の付与を施した。
付与を終えた物を『収納』して、天馬は、長剣、小剣とその鞘を前に悩んでいた。
『鞘-形状:長剣用 材質:牛の革、鉄 状態:通常 品質:高質』
『鞘-形状:小剣用 材質:牛の革、鉄 状態:通常 品質:高質』
『鞘』に付与する言葉は『素材強化』、『材質強化』、『防腐』、『軽量化』と決めていた。それで、十分だと思ってもいる。しかし、剣に対しては鋭利化とかを付与すると握った瞬間に手を切りそうで怖い。そんな事を考えつつ、長剣を握る。掌に違和感がある。握り(グリップ)を見ると、日本刀で言う目釘の様なモノが打たれていた。その目釘に集中して『鑑定』と唱えてみる。
『ピン-形状:ピン 材質:鉄 状態:通常 品質:良質』
天馬は、これを外せないか考える。無理に外せば、長剣の品質が落ちるかも知れない。どうすれば良いか。一つの可能性に思い至る。錬金魔法。錬金術は、理解、分解、再構築と〇の錬金が言っていた。
天馬は、ピンに意識を集中していく。すると握り(グリップ)の透視図が見えるように感じ、ピンが細く変形していく様をイメージする。「ポトッ」と音がして、ベッドにピンが落ちた。同じ事を繰り返し、ピンを抜いた天馬は、慎重に剣身を引き抜く、結果、長剣が、剣身と柄、ピンに分かれた。
分かれた剣身と柄、それぞれを『鑑定』してみると
『剣身-形状: 長剣 材質:鉄 状態:通常 品質:高質』
『柄-形状: 柄 材質:鉄 状態:通常 品質:高質』
と出た。分かれた部品に『素材強化』、『材質強化』、『防錆』を付与し、柄には、『防滑』。剣身には、『表面硬度上昇』を付与して、組み立てる。組み立てに際し、ピンが、柄と剣身を一体とするようにイメージしながら錬金魔法を使う。「出来た」と言う感覚に、数回、振って感触を確かめる。
「『鑑定』」
『剣-形状: 長剣 材質:鉄 状態:通常 品質:高質 付与:素材強化、材質強化、防錆、防滑、表面硬度上昇』
天馬は、鑑定結果に満足して、他の武器も同じように付与を施していった。ピンと柄の品質は、最初の1剣と同じだったので同じ付与を施し、『品質:上質』の剣身には、『内部靭性上昇』、『品質:最上』の長剣の剣身には、『内部靭性上昇』に加え『鋭刃鋭利上昇』を付与した。
満足の行く付与を施したと思った天馬は、時計を見る。0時を回っていた。天馬は、明日の過ごし方を考える。
もし可能なら、明後日、日付の上では明日、大蛇のみんなが、身に着ける武具に付与を施したいと。
多分、エルンとマリオは、僕が付与を出来ると確信しているだろう。アルフとリーフも知っているかもしれない。大蛇のみんなに恩を返すのも良いだろう。死なれるのも後味が悪い。
天馬は、明日の朝、大蛇のみんなに『鑑定』と『付与』が使える事。可能なら『付与』させてもらいたい事を伝えようと決めて眠りについた。
天馬は、今夜も気付かなかった。




