044 強制依頼と天馬の想い
アルフの「ゴブがまずい」を聞いたマリオが。
「まずいとは? どう、まずいんですか? その説明では、伝わりませんよ。アルフ」
「わぁ~ってるよ。これから説明するんじゃねぇか。ここから徒歩で1日のとこに廃村があるらしい。マリオ、知ってたか?」
「知りませんよ。どうせ、廃村になって30年以上でしょ。30年以内ならギルドに記録があるはずですし、そうでなければ村名を言うでしょ。で、その廃村とゴブがどう繋がるのですか?」
「その廃村がゴブの巣窟、その上、野外迷宮になっているそうだ。それで、2日後の朝、討伐隊を編成して向かう事になってる。俺らにも参加要請が来た。
今回も冒険者が廃村の中。外を騎士団と衛兵、傭兵が担当する。ゴブを掃討したら教会が浄化を掛けて、野外迷宮を消す計画だそうだ。どう思う?」
「どう思うも何も、どうせ、強制依頼なんでしょ? それより他の冒険者はどうなんですか? Cランク以上のパーティーって我々以外に何チームが町にいるんですか?」
「うちを含めて5チーム。白の光、黒の蟷螂、青い風、黄色い熊だ。それ以外にCランクのソロが8人、Dランク以上のパーティーが8組。Eランクのソロが25人。強制依頼の対象だ。因みに、Fランクで強制依頼になってるやつが1人いる」
天馬は、アルフとマリオの会話を聞きながら、野外迷宮なんてものもあるんだと思い、この世界の迷宮は、浄化で消せると聞いて驚いていた。そして、Fランクで強制依頼対象になる不幸な人もいるんだなと同情した。字づらを見ると強制、どうせ、真面な物じゃないんだろうなと考えていた。
強制依頼と野外迷宮について天馬が、アルフに質問する。
「強制依頼っていうのは、城壁を持つ町の統治者以上の権力者が町に在るギルド、教会等に出せるモノなんだよ。出されたギルドも所属している奴に同じ様に出す。出された奴に拒否権は無いって代物だ。
野外迷宮は、・・・・・・迷宮は、魔力とか瘴気が集まって出来るモノだ。その中で、森や草原が迷宮化した時に、野外迷宮と区分するんだ。
時間が経てば経つほど迷宮は力を持ち、最終的には、迷宮核とその守護者が生み出される。だから、迷宮を発見したら、なるべく早く潰す事が必要になる。特に野外迷宮際限なく広がるからな」
「そうなんですね。また大変そうな話ですね」
天馬の言葉を聞いて、アルフが、溜息交じりに天馬に告げる。
「テンマ。何で他人事の様に言ってるんだ? お前も参加するんだぞ」
「ヘっ。僕も、ですか?」
「ああ、お前も、だ。言っただろ、アイテムボックス持ちは、貴重だって。150人3日分の糧食の運搬をお前と商人ギルドからの出向者で、現地まで運ぶ強制依頼が出ている。それと、ゴブの掃討作戦は、俺達大蛇の一員として参加するとギルドに伝えてある。不味かったか?」
「不味いとは言いませんが、運搬は別にしても、討伐参加は、事前に聞いてほしかったです。マリオさんを経由すれば、僕に連絡とれたはずですし、何より、大蛇に入ると言ってもいないんですよ。皆さんに良くして貰ってる事は、感謝してますが」
「悪かったよ。怒るなよ、テンマ。どうしてもって言うなら、討伐参加は、拒否してもかまわない。ただ、運搬は断れない。それは、理解してくれ」
「分かりました。両方に参加します。アルフさん、貸しですよ。僕の貸しは高いですよ。それで良いですね」
アルフの話を冗談を交えながら了承した天馬。その答えを聞いて、アルフは、次の話をする。
「分かったよ。借りておく。大蛇としてな。取りあえず、今日中にギルドへ顔を出せ。お前のアイテムボックスに入らなかった分を明後日の朝、商人ギルドの奴が、運ぶことになってる。それで、お前のアイテムボックスの容量ってどれぐらいなんだ?」
アルフの問いに、天馬は正直に答える。
「分かりません。今まで、一杯になったことが無いので」
「そっか。もし、可能だったら全部を入れてくれ。その方がギルドの助けになるし貸しも作れる」
「どうしてですか? もう、商人ギルドに手配してあるんでしょ?」
「強制依頼って言うのは、基本、先払いの依頼なんだよ。で、ギルドの中と外だと支払う金額が違うらしいんだ。
ギルド内、冒険者や職員に対しての運搬報酬は、小銀貨1枚。討伐参加報酬が、今回は中銀貨1枚。脅威度Cの判定になったからな。あとは、別途計算で討伐報酬。でも、外のギルドに運搬を頼むと当然、運搬する本人は、小銀貨1枚。そして、その人間の所属ギルドにも依頼料を払わないといけねぇんだ」
アルフの話を聞いて、天馬は不思議に思った。
「今回の依頼って、エライ人からの依頼なんですよね? 街全体で対応する依頼では無いんですか?」
「合ってるぜ。街、ゴメナの統治者からの依頼だ」
「アルフ。テンマ君が聞いているのは、そう言う意味では無いですよ。今回の依頼は、多分ですが、冒険者、傭兵各ギルド、教会にしか出ていないでしょう。
そこで、冒険者ギルドは、冒険者に対して強制依頼を発布した。これは、冒険者ギルドの事は、冒険者ギルドで面倒を見ろという事になります。つまり、運搬についても、冒険者の分は冒険者で運べと。今回の150人分の糧食は純粋に冒険者用の糧食。それを運ぶ冒険者がいないのなら、冒険者ギルドで用意する。そこに商人ギルドと言う選択肢がある。という事なんです」
「分かりました。マリオさん」
マリオの説明で天馬は、納得をした。マリオが言葉をつなぐ。
「テンマ君、今回の強制依頼。私達と動くとしても、万が一に備える事を薦めます。具体的には、遺書を認める事ですね。認めた遺書は、冒険者ギルドで保管して貰うのが一般的ですね。私達もそうしています」
「遺書ですか? でも、相手はゴブなんじゃ?」
天馬の言葉を聞いて、アルフが口をはさむ。
「あー。テンマ。俺達は、冒険者だ。冒険者は、冒険者だけじゃねぇが、命を落とす危険は、普通の人間より近いとこに在る。街中で生活していても、階段から落ちて死ぬこともあるだろ。それよりも、俺達は死の近くにいる。ゴブでも油断は出来ねぇし、数が多ければ、それこそ終わりだ。テンマも100を超えるゴブに囲まれたら、覚悟するだろ?」
「そうですね」
アルフの話を聞いて、天馬は、改めて、異世界に来た事を実感した。同時に大蛇のメンバーやマーニー、ルイズ。この世界に来て、出来たつながりを失う事が怖くなった。
「アルフさん。魔鉄の剣、使っても良いですか?」
「おっ、テンマ、怖くなったか? でも、あれは・・・、出来るなら使わない方が良い。ヤバい時は、仕方が無いと思うが、やっぱり、あれは目立つからな」
「そうですか。使えませんか。・・・・・・分かりました。なるべく、ドランさんから買った武器を使います」
「テンマ君、午後はどうすんの? ギルドに行く?」
3人の話し合いが一段落したと思ったのか、リーフが聞いてきた。
「うーん。百科全書の残りを読みます。終わって、時間があったら魔術師ギルドで魔術書を読みたいと思っています。その後に、冒険者ギルドに寄るつもりです。マリオさん、魔術師ギルドの図書館って何時まで開いてます?」
「24時間、開いてますよ。夜しか来られない人もいますので」
「そうなんですね。時間によっては冒険者ギルドに寄ってから魔術師ギルドの順になるかもしれません」
マリオの答えを聞いた天馬には、思う所があった。それを素直にマリオに聞いてみる。
「マリオさん、付与魔術って無属性の適性があれば使えるものですか?」
「えっ、テンマ君、付与魔術に興味があるんですか?」
「ええ、僕の生活魔法が無属性なら使えるかなと思って」
「そうですね。使えるかもしれませんね。私は、魔術師ギルドに先に行って、テンマ君を待っていますよ。ギルドに話す事も出来ましたから。アルフ達は?」
「俺らか? 俺らはギルドの依頼で買い出しだ。その為の魔法の皮袋と金も預かっているからな」
そう言いて、自分の魔法の皮袋を叩いて見せた。
揃って席を立ち食堂を後にした。天馬は図書館へ。マリオは、魔術師ギルドに。アルフ達は、冒険者ギルドの方角に消えた。
図書館に戻った天馬は、残りの百科全書を読み、最後の一冊を棚に返して時間を確認する。4時過ぎ。図書館を出て、魔術師ギルドに向かった。
魔術師ギルドに着くとエルンがカウンターで待っていて、昨日と同じ部屋に通される。机の上には、1冊の魔術書が載っている。タイトルを見ると付与魔術入門と読めた。天馬がエルンを見る。エルンは、頷いて静かに部屋を出て行った。
天馬が魔術書を読み終え、部屋を出てカウンターに向かう。カウンターでは、エルンとマリオが話し込んでいた。マリオが天馬に気付いて、手を挙げる。エルンも振り返って、天馬を見る。
「エルン師、付与魔術入門を準備しておいて頂き、ありがとうございました。大変、参考になりました」
「それは、良かったです。今、マリオと話していたのですが、明後日の討伐に魔術師ギルドも参加を決めました。聞いたら、術師がいないパーティーがあるという事なので、妖術師を5人派遣します。冒険者ギルドに伝えておいてください」
そう言って、エルンは、天馬に言伝を頼み奥に消えた。天馬は、マリオと連れ立ち魔術師ギルドを出て、冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドに入った天馬は、普段と変わらない雰囲気に違う意味で驚き、ピリピリと言うか、緊張感があっても良いんじゃないかと思った。そんな天馬を他所に、マリオがカウンターに近付き、受付嬢に声を掛けていた。
「大蛇のマリオですが、テンマ君を連れて来たとギルドマスターに伝えてください。あと、魔術師ギルドより、今回の討伐に妖術師が5人派遣される事も併せてお願いします」
マリオの言葉を聞いた受付嬢は、奥に消え、代わりにガルフが姿を現した。
「おう、マリオ。妖術師の参加はありがてぇが、費用は?」
「今回は、魔術師ギルドが自主的に参加を決めたので、冒険者ギルドに負担は生じません」
「そうか。尚更、ありがてぇ。が、イオの爺さんは、何を考えている?」
「はて、我が師、イオの御考えなど、不肖の弟子には分かるはずもないでしょう。それより、テンマ君を呼んでおいて、このまま帰すつもりですか?」
「おう、そうだったな。テンマと言ったな。付いて来い。立ち合いにはマリオとケーナ。下に行くぞ」
そう言って、歩き出すガルフに付いて行くマリオと天馬と受付嬢。彼女がケーナと呼ばれた人かなと考えながら、天馬はガルフについて階段を下りて行った。
下りた先は修練場だった。客席は無く、腰高の壁が丸く地面を囲んでいる。その中央に積まれた物が、今回の糧食なのだろう。小型のワイン樽が100個あった。
「これが今回の糧食だ。現地までの運搬、どれぐらい持てる? アルフは、知らんと言っていたが本人なら知っているんだろ?」
ガルフに聞かれた天馬は、アルフに答えた事と同じ事を答えた。
「分かりません。今まで、一杯になったことが無いので」
それを聞いて、樽の前を天馬に譲るガルフ。どうやら、やってみろという事らしい。天馬は、樽に触れて『収納』と唱えた。
その一言で、樽が消えた。天馬は、特に何も感じなかった。天馬を見ていた3人は、言葉を失っていた。
「テンマ。それが、お前のアイテムボックスなのか?」
「ええ、『収納』した物を出しましょうか?」
そう言って、天馬は『今、収納した物』とだけ意識して『展開』と唱える。100個の樽が現れる。現れた樽をガルフが揺すり、ケーナが、叩いて回っている。それぞれが10個もそんな事をした後に、もう一度、天馬に収納するように言うので、天馬は『収納』した。
「テンマ。体に異常はないか?まだ、大丈夫なら樽の蓋を10枚、頼みたい」
ガルフのお願いを二つ返事で承諾した天馬は、それも『収納』した。
「じゃあ、修練場の隅に二段で積み置きしておいてくれ」
ガルフの言葉に従って、修練場の隅に樽を出して、
「僕が、持って帰る訳じゃないんですね」
「当然だろ。お前が死んだら、その場にアイテムボックスの中身は残るんだ。今回は、干し肉や水、エールだから、命を狙われることは無いとは思うが、念のためだ」
「そういう訳があるんですね。あと、これを買った時に使った魔法の皮袋は使わないんですか?」
「そっちは、不具合があった時の備えだ。仮に、遠征の道中でテンマが死ねば、そこから先の運搬に使う。他にも理由があるんだが、部外者に言えねぇことだ。取りあえず、明後日の早朝、また、取りに来てくれ」
「分かりました」
そう言って、マリオと一緒に冒険者ギルドを後にした。




