042 テンマについて その2
天馬が席を立ち、階段を上がって行くのを確認したアルフが、声を潜めてマリオとリーフに話しかけた。
「テンマの事、どう思う」
「どう。って、素直で良い子。金銭感覚は、貴族? お金持ちなのは、間違いないと思うよ」
「私も素直な子だと思っていますよ。ただ、得体の知れないところもあります。何を考えているのか分からないですよね」
「そうなんだよな。いや、服をまとめ買いするのは、まだ、納得できなくも無いんだが。アイツ、魔法で洗濯できるだろ。トップスやボトムスを形を変えて、予備も含めて3着買うのは分かるんだが、下着を5着買うのは、多いと思った。
逆に靴は、1足ずつしか買わないし、マーニーの店じゃ、時計も買ってる。ドランの店では、剣を3本、鎧を2つだぜ。何を考えているんだか? 今日だけで中銀貨5枚は使ったじゃねぇか、アイツ」
「そんなに使ってたんですか? マーニーさんのお店で支払った金額も驚きましたけど、ドランさんのお店でも、そんな買い方をしたんですか?」
「そうだよ。ドランの店だけで小銀貨3枚、払ってたぜ」
「テンマ君って、ホントにお金持ちなんだ。ギルドにも積立てしてて、それで、あれだけ買えるんだもん。何処かの国の貴族とか?」
「積立てと言えば、私たちのお金も積立てたんですが、見送りは無かったですよ。多分、感覚的には、銀貨を積立て、やっと見送りが付くか、どうかじゃないですかね。そう考えるとテンマ君は、銀貨1枚以上を積立て、まだ、銀貨1枚相当を持った事になりますね。
彼の性格から宿の支払い等、見えてる金額に不安を感じるような使い方しないでしょうから、まだ、小銀貨を何枚かは持っているんでしょうね」
そう言って黙ってしまったマリオ。何を考えているのか気になったリーフが、マリオに聞く。
「テンマ君の事で、何かあるの?」
リーフの疑問は、アルフも持っていたのだろう。アルフもマリオの言葉を待つ。長い沈黙の後、マリオは、小さい声で、天馬の可能性を口にした。
「彼、付与を使えるのかもしれません。鑑定も」
「マジかよ?」
「ホント?」
「可能性の話ですよ」
マリオの言葉に、驚きの声を上げた2人に「可能性」と告げるマリオ。でも、マリオ自身は天馬が付与を使えるか、使えるようになろうと思っていると考えていた。
エルンに付与に関して聞いた事、天馬の買い物の内容、そして、天馬の『賢者』に至れる可能性を持っている事。それが、マリオの考えを確信に近いモノにしていた。
「まぁ、テンマ君は、悪い子じゃないですし。もし、付与を使えるのなら仲良くしておいて損は無いでしょ? お金持ちみたいですし」
「そうだな。マリオの言う通りだ。そこでだ、お前、明日はテンマと行動しろ。お前が居れば、大抵の事は片付くし、テンマも安心だろ?」
「体の良い監視役ですか?」
「違うぞ。『後輩を教え、導くのは先達の務め』ってどっかのギルドが言っていたじゃないか」
「そうでしたね。では、私も、もう寝ますね。明日、ギルドの方はお願いしますよ」
そう言って、マリオは席を立ち、残った2人は、追加の酒を注文した。




