041 雑談と宿屋の常識 鑑定結果の変化
「エルン師、分かりやすい説明ありがとうございます。テンマ君も勉強になりました。友人が飽いておりますので、今日はこの辺で失礼させていただきます。宜しいでしょうか」
アルフとリーフを見て、溜息を吐いたエルン。
「仕方ないでしょう。『知識は求める人に与えられん』ですか? 今日は、ここまでとしましょうか? 二人とも気を付けて、帰ってください」
エルンに挨拶をして、アルフを起こして部屋を出る。他の魔術師に捕まることなく、無事に魔術師ギルドを後にする天馬と大蛇の面々。
蟒蛇の寝床へ向かっている帰り道。
「なぁー、マリオ。さっきの付与って、お前、使えんのか?」
「出来ませんね。私がギルドに入った時に無属性について教えて貰い、試した気がするんですが、忘れてしまいました。忘れたという事は私に才が無かったか、私自身興味が無かったのでしょう」
「そうなのか? 今から、勉強しようとは思わねぇのか?」
「思いませんね。『付与魔術』を学ぶくらいなら『鑑定魔術』を学びます。その方が冒険者稼業には役に立ちますから」
「そうなんだな。いや、お前が付与を使えるなら装備を整えるのが楽だと思ってよ。あと、エルンが言っていた魔装具と巻物ってどんな物なんだ?」
「魔装具と巻物ですか? どっちも小銀貨1枚からの販売ですね。買うんですか?」
「いや、高位のパーティーがどうのこうのと言われてな、気になってよ」
「そうですね。巻物は、迷宮探索には、役立つと思います。『光』は便利ですし、『帰還』があれば、危険度は格段に下がると思います。
魔装具は、私たち大蛇が、今後、何を目指すのか。で必要か否かが分かれると思いますよ。例えば、属性を持っている魔獣と戦うなら、苦手属性の魔装具を使って攻撃する意味はあります。火に対して水の矢尻とか。でも、護衛や普通の討伐依頼をして行くなら無用でしょうね。まぁ、リーダーに任せますよ」
「そうか。俺次第か?」
そう答えてアルフは、黙り込んでしまった。
アルフとマリオの会話を黙って聞いていた天馬が、マリオに
「マリオさん、魔術を使うと、みんなが分かるモノなんですか?」
と質問した。マリオは、天馬の質問の意図が分からず、詳しく話すように促した。
天馬は、マリオと初めて会った時、冒険者ギルド、修練場で感じた事を話す。それを聞いたマリオは、深く、本当に深く、溜息を吐いた。
「はぁ~~~~~。やはり、分かっていたのですね。で、テンマ君の質問は、みんなが、テンマ君の様に魔術を使われたら分かるか、否か。で合っていますか」
「そうですね。加えて言うなら、他の人が、僕以外に魔術を使っても僕が気づく事は、あるんでしょうか?」
「魔力を感じるのは、センスとしか言えないですね。私は、分からないですが、アルフは、項の辺りがむず痒くなると言っていましたね。他の人が、別の誰かに使った場合も同じですよ。分かる人は、分かるんじゃないですか?」
「そうなんですね。ありがとうございます」
そんな事を話していると、蟒蛇の寝床の路地が見えて来た。
蟒蛇の寝床に着くと、早速、空いているテーブルに座る大蛇の面々、天馬もそれに倣う。昨晩と違い、テーブルにメニューが載っている。
メニューを見ずに、アルフは、ステーキとエール。リーフは、から揚げとサラダ、エールを注文する。そんな2人をマリオが、呆れている。
「いつも、いつも。同じメニューでよく飽きませんね」
そう言いつつ、天馬にも見えるようにメニューを拡げてくれた。メニューを見て、マリオは、串焼きと野菜のスープ、エールを、天馬は、肉のスープにから揚げ、サラダ、エールを注文した。
先に飲み物が来たので、みんなで乾杯をして杯をあおる。誰とはなしに、明日の予定が話題になった。アルフ達は、冒険者ギルドに顔を出し、ゴブリンに関しての情報収集と適当な依頼があれば受けると話している。そんな話の流れで、天馬も明日の予定を聞かれた。
天馬は、町を散策すると答える。それを聞いてアルフが、町の北側には近づくなと忠告してくれる。理由を聞くと治安が悪く、貧民街化していると教えてくれた。
料理が揃うと、みんなで美味しくいただいた。大蛇の皆は、まだ、飲んでいると言うので、天馬は、先に部屋に戻ると伝える。
その時になって、天馬は部屋の鍵を持ち歩いていたことに気付き、ルイズに謝るべきかアルフに聞いた。アルフは、天馬の言っている事が良く分からず、マリオが間に入って解説をしてくれ、やっと、天馬が何を言っているのか理解したらしく、大声で笑う。
天馬は知らなかったのが、この世界の宿屋は、アパートや寄宿舎に近い存在で宿泊している間は、鍵の返却は不要。むしろ、返す行為は、宿屋に不満があると言う意味を持つと教えて貰った。マリオから。
マリオは、大蛇は、1週間の滞在予定で宿泊している事。天馬も同じ条件で宿を取ってある事を教えてくれた。延長する際は、前日までにカウンターに告げるのがマナーであることも教えてくれる。
天馬は、大蛇の面々に挨拶をして、カウンターで食事代を支払い、起床時間を告げて部屋に戻った。
部屋に戻った天馬は、部屋の鍵を掛け、ベッドの上に今日の成果を並べいく。
『亜空間収納』から買った商品を1つずつ取り出し、『鑑定』をしてベッドに並べる。カットソーから始めて、ズボンの『鑑定』をした時、『鑑定』の結果が変化した。
『麻のズボン-状態:通常 品質:一般』
品質の項目が増えた事に嬉しくなった天馬は、鑑定を終えた物も再鑑定をする。すると10個に1つぐらいの割合で良質があった。
内訳は、上着は長袖と五分袖が1着ずつ、ズボンが1本、乗馬ズボンは厚手の薄手それぞれ1本、レインコート、トラッパーも良質で、ケープは、高質だった。ただ、付与されている魔術は見えなかった。一旦、「良質」以上の物を残して、「収納」した天馬。
次は『靴のハイジ』で買ったサンダル、靴、ブーツを『鑑定』する。靴だけが良質だった。靴を残して「収納」した。
最後に、ドランの店から買った武具を『鑑定』する。ドランの態度から期待はしていた天馬だったが、ドランの武具は天馬の予想を超えていた。ほとんどが『高質』、長剣と小剣が1剣ずつ、革鎧と手甲が1つずつ『上質』、長剣の1剣が『最上』だった。
天馬は、ふっと思いついて革鎧を胸甲と肩当てに分ける。それを別々に『鑑定』する。
『革の胸甲-状態:通常 品質:上質』
『革の肩当て-状態:通常 品質:高質』
『革の胸甲-状態:通常 品質:高質』
『革の肩当て-状態:通常 品質:上質』
天馬は、品質の同じ物を組にしながら、最初に革鎧としての鑑定結果との違いの理由を考える。
「物を作っている中で、大きい方に鑑定結果は、引っ張られる。のかな? それぞれに別の付与を施して、組み合わせる事が可能? 考えると楽しくなってきた」
天馬は、ベッドの上に並んだ「良質」以上の物を「収納」して、マーニーの店で買った物を並べ『鑑定』する。
『魔法の皮袋-形状:ベルトポーチ 材質:紅火牛 状態:通常 品質:良質』
『魔法 の水袋-形状:水筒 材質:竹 状態:通常 品質:高質』
『ブーツ-材質: 翼竜の革、火蜥蜴の革 状態:通常 品質:良質』
『携帯時計-形状:ハンターケース 材質:金属(魔鉄と鉄の合金、魔法銀、魔石) 状態:通常 品質:良質』
『鎖-材質:魔法銀 状態:通常 品質:良質』
『スパイダーシルク-材質:森蜘蛛の糸 状態:通常 品質:良質』
『組紐-材質: 翼竜の革 状態:通常 品質:良質』
鑑定結果を見て「やっぱりか」と天馬は思う。
自分が使っている「鑑定魔法」のLvが低いのか、付与魔術自体が隠蔽の性質を持っているのか分からないが、付与魔術の存在を見られなかった事を残念に思っていた。
付与が見られるなら、付与魔法を試してみようと考えていた天馬は、まずは『鑑定魔法』のLvを上げる事にして、マーニーの店から買った物、時計を残して「収納」すると、『亜空間収納』から『不帰の草原』で手に入れた物を出し、只管、『鑑定』していく、「酸化鉄」は、『還元』を掛け、「鉄の剣」に戻し、もう一度『鑑定』をする。そうして、最後に魔法の皮袋(小)を鑑定した時、鑑定結果に変化が現れた。
『魔法の皮袋-形状:腰袋 材質:紅火牛 状態:通常 品質:良質 付与:内部空間拡張 材質強化 劣化防止 重量軽減 防水 防汚 内部時間停止』
鑑定結果に付与の項目が増えて喜んだ天馬だったが、付与の内容を確認して首を捻る。
「『内部空間拡張』、『内部時間停止』、空間拡張に時間停止?」
マーニーの説明には無かった。と記憶を手繰る。もしかしたら、空間拡張は付与されていて当たり前の事。だから、説明が無く。時間停止は、特別仕様と思うこととして、時計を見る。
深夜1時を過ぎている事に気付いて、慌てて「収納」して、ベッドに横になる天馬だった。
この時、天馬は気が付いていない事が在った。後々、その事実を知った天馬は、驚愕して、不平を零した。




