040 天馬君の言い訳と付与と品質
2025/12/31 改稿
エルンに連れられて、2階の廊下を進む。廊下の突き当たりにある「学長室」と書かれた扉をエルンがノックすると、中から入室を促す声が聞こえた。エルンは扉を開けて中へ入る。天馬が入室したのを確認すると、エルンは扉を閉めた。直後、「カチャ」という鍵の閉まる音が天馬の耳に届いた。
室内には、応接セットに座るイオとマリオの姿があった。テーブルにはお茶と茶菓子が並べられている。二人の視線は、エルンと天馬を交互に行き交い、何事かと訝しげな表情を浮かべている。そんな中、エルンは努めて冷静を装い、口を開いた。
「学長、ご報告します。当ギルドから『賢者』、伝説の等級が誕生しました。彼、テンマ。この方です」
イオが固まり、マリオは手にしていたティーカップを膝の上に落とした。
「あっちーーー!」
マリオの悲鳴で、イオが再起動した。
「『賢者』じゃと? 本当か? 本当なのか? ギルドの記録でも、過去100年は出ていない『賢者』が出たのか?」
「はい、出ました。間違いなく『賢者』です。テンマ君。カードを」
そう言って、天馬がギルドカードを出すのが待ちきれないエルンは、天馬ごとギルドカードを引っ張り、イオの目の前に掲げた。カードの組紐からやっとの思いで首を抜いた天馬は、固まっている3人を見つめる。
頭の中では、嘘を吐かずにどう言って切り抜けるか、必死に考えを巡らせていた。
「テンマ。この結果に心当たりはあるか?」
「何とも言えません。僕も驚いていますので」
「他の属性魔法を使ったことはあるのか?」
「先ほどの『生活魔法』、『洗浄』が光属性なら、僕は他の属性も使えます。学長の意見が正しければ」
多少、怪しい言い回しを含むイオと天馬のやり取が終わり、沈黙が支配した。しばらく天馬の目を黙って見つめていたイオが、口を開いた。
「いや、今までマリオとテンマの魔法の才に関して意見交換をしておったんじゃが、将来は、『賢者』も夢ではないかと話していたんじゃ。それが、こんな形で現実になるとは。
テンマは、Fランクの身で、既に魔剣士のジョブを持っている。これは、マリオから聞いたのじゃが、凄く珍しいことじゃと。つまり、テンマは、いい意味でイレギュラーな存在なのじゃろうな。ようするに、『賢者』に至れる素養と才能はある。じゃが、今は『賢者』じゃないという事にはならんか? エルン」
「そうでしょうか。テンマ君が嘘を吐いていることもあり得るのではありませんか?」
「大丈夫じゃよ。修練場で『鑑定』を数人で使って、結果も皆、同じじゃった。それに、この部屋の中では、嘘は吐けん。お前らも知っておるじゃろ」
「そうですか。テンマ君は、『賢者』の卵と言ったところですね。今後を楽しみしていますよ。それより、この事をアルフが知ったら、真剣にパーティーに勧誘するのでしょうね。どうですか、『大蛇』に加入しませんか?」
マリオが冗談めかして天馬に話しかけた。そのおかげで、部屋の空気が軽くなった。天馬も笑顔を浮かべて、
「今は、『大蛇』に入る事は考えていません。将来は分かりませんが。『賢者』のことは秘密にしてください。この部屋にいる方にお願いします」
と返した。天馬の言葉を聞いて、イオもエルンも頷いている。マリオは、天馬の瞳をまっすぐに見つめいた。
「エルン、テンマの学びが滞ることのないよう、配慮するのじゃ。研究室の方にもワシの名で触れを出せ。差し当たり、ワシの遠縁で特別扱いとすれば良いじゃろう」
「畏まりました。そのようにいたします」
「我が師よ、今日は、この辺で失礼いたします。皆も待っていると思いますので」
そう言ってマリオが席を立つと、それを合図にしたようにエルンが部屋のドアを開けた。イオも席を立ち、3人を見送る。
階下に向かって歩いている途中、天馬はエルンに質問をする。
「エルンさん、付与について教えてもらいたいのですが」
「今ですか? あと、教えを乞うときは、師と呼ぶのが常識ですよ。それで、何を知りたいのですか?」
「今日、魔道具と武具を購入したのですが、その際に、普通の素材だと付与は3つまでと聞いたのですが、3つを超えて付与した場合は、その物はどうなるのでしょうか? あと、素材の区分とかが、あるなら、それも知りたいと思います。エルン師」
「そうですね。テンマ君、無属性に対して適性を持っていますか?」
「分かりません。でも、僕が『賢者』に将来なれるのなら、『使えるようになる』ということですよね。使えるかどうかではなく、知識として知っておきたいと思ったのですが、いけませんか?」
「良い心がけだと思います。マリオ、貴方も無属性に適性がありましたね。部屋に戻り、マリオの友人が許可を下さったのなら、簡単に教えて差し上げましょうか」
「ありがとうございます」
「エルン師、私もよろしいのですか?」
「構いませんよ。教えると言っても、付与術師なら知っていて当然の内容。秘匿する必要のない知識ですから」
1階の部屋に戻り、待っていた2人と合流した。天馬とマリオが、2人に時間を割いてもらえるよう、その理由を含めて説明し、許可を得た。
「それでは、付与に関して教えて差し上げます。先ほどテンマ君は『普通の素材』と言いましたが、付与を施すにあたって、素材の種類と品質は重要です。
素材は、素材自体が元来有している魔力量によって、4つに分類されます。まずは、一般。植物や動物の素材や鉱石などですね。次は、魔含品。これは魔力の多い場所で採れる植物や動物の素材、鉱石で、魔鉄はこの分類になります。3つ目は、魔品。魔樹や魔獣の素材や鉱石で、トレント、魔法銀など該当します。最後が高魔品。一部の魔樹や魔物から採れる素材、鉱石で、エルダートレント、ドラゴン、オリハルコンなど伝説級の品々です。
品質は、低い方から順に粗悪、悪質、一般、良質、高質、上質、最上、絶品、珍品と高くなっていきます。珍品の上には伝説という品質もあると言われています。鑑定魔術のLvが高くなると、品質が判別できるようになります。
素材ごとに、『一般』の品質に付与できる数が決まっています。一般が2つ。魔含品が5つ。魔品が7つ。高魔品9つ。品質が1段階上がるごとに付与できる数は1つ増え、逆に1段階下がるごとに1つ減ります。
品質に合わない数の付与を施すと、元の品質から超えた数だけ、その品の品質が下がってしまいます。例えば、『一般』品質の一般素材に5つの付与を施すとその品は、形を保てなくなります。これは、実験で確認済みです。
これが、付与と品質の関係です。鑑定魔術のLvが高い者の補助があれば、上限まで付与を施せますが、通常は、一般は3つ、魔品は7つで付与を止めます。
これは、付与を施す対象が魔道具や武具として使用することを前提としているためです。一般素材の場合、『一般』品質以下ではないことは間違いありません。魔品の場合は、万が一、上の品質でなかった時に付与術師が賠償することになるからです」
天馬とマリオが真剣にエルンの説明を聞いていた。一方、アルフとリーフは飽きていて、アルフに至っては目を瞑り、船を漕いでいた。
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