038 武具屋ドラン
2025/7/13 改稿
マーニーの店を出たアルフは、慣れた足取りで冒険者ギルドへと向かった。だが、冒険者ギルドに立ち寄ることなく、そのまま裏手へと回ると、何の看板も掲げられていない一軒家に入っていった。リーフとマリオも気にするそぶりも見せずに入っていく。その様子に、天馬は戸惑いながらも中へと足を踏み入れた。
そこは武具屋だった。右手の棚には剣が整然と並べられ、手前の大きな籠には剣が無造作に刺してあった。壁際には槍や弓が掛けてある。左側には、様々な大きさの盾が並べられ、壁際には鎧やローブ着たトルソーが並んでいた。正面のカウンターの前には剣と槍が掛けてあり、左隣には、全身をプレートメイルで固めたマネキンがあった。
「テンマ、店主を紹介してやるよ。お前らは、好きにしてろ」
「はーい、弓矢を見てます」
「私は、小剣や短刀を見てますよ」
天馬を伴ってアルフは、奥にあるカウンター越しに声をかけた。すると、奥の部屋からずんぐりとした体躯に髭をたくわえた人物が姿を現した。
「おお、ドラン。相変わらず不機嫌そうだな。店番を置かない盗られるぞ。商品」
「盗られても気にせんよ。出してあるのは出来損ないが大半だからな」
「それは、ドワーフから見たら、だろ? 普通の奴には、十分に使える武具だろうに。そうだ、こいつはテンマ。今日はこいつの武具を揃えたくて来たんだが、良い武具はあるか?」
ドランは天馬を一瞥し、鼻で笑った。
「ふん。細いな。得物はなんだ?大剣か戦斧か? 戦槌もあるぞ」
「揶揄うなよ。武器は長剣、両手持ち。予備武器は小剣いい。鎧は革製で、1人で着脱できるやつがいいな。手袋と手甲、剣帯 も頼む。良いのを見繕ってくれ。最後は、こいつに選ばせるから」
アルフは、頼むものをあらかじめ決めていたかのように、よどみなく言葉を紡いだ。それを聞いたドランは、もう一度天馬をじっと見て、
「気に入ってんだな、こいつを」
ぽつりと呟くと、奥に消えた。
「テンマ。勝手に頼んで悪いと思うが、悪いようにはしないから、俺を信じて任せてくれ」
アルフの言葉に、天馬は頷くしかなかった。
姿を現したドランは剣帯2つと長剣、小剣をそれぞれ3剣ずつ抱えていた。それらをカウンターに置くと、すぐに奥へと戻っていった。
「テンマ。まず、剣帯だ。マーニーさんの店で買った魔法の皮袋のことも考えて選べ。選んだら、剣を佩いて振ってみろ」
アルフにそう言われ、天馬は『亜空間収納』から魔法の皮袋を取り出した。どちらの剣帯も魔法の皮袋のベルト通しに通ることを確認して、天馬は「剣帯は鎧と合わせたい」とアルフに伝えると、アルフも了承してくれた。
天馬は1本の剣帯に魔法の皮袋を取り付け、長剣を佩いて振ってみる。ドランが用意してくれた3本の剣は、それぞれ、重さと重心が微妙に異なっていた。その中で最も手に馴染む1本を選び、アルフに伝えた。同じ様に小剣も佩いて試し、1番しっくりきた物をアルフに伝える。
そこへ、ドランが革鎧を抱えて戻ってきた。アルフはその鎧を確認すると、剣帯を1本、長剣と小剣をそれぞれ2剣ずつドランに返す。ドランはそれを受け取ると、再び奥へと消えていった。
ドランが持ってきた革鎧は、肩当てと胸甲が別々に作られていた。肩当てを外せば頭から胸甲を被ることができ、脇と肩口にあるベルトを締めると、鎧の遊びがなくなるよう工夫されていた。
胸甲と背甲の間には柔軟な革が使われており、胸甲をきちんと身につけると、脇の下に拳一つ分ほどの隙間ができるだけだった。胸甲の丈はへその下まで、背甲は腰の上までと、身体の動きを制限しないように配慮されている。肩当ても大小のパーツが組み合わされており、腕の動きを妨げることはなかった。
天馬はアルフに聞きながら、1人で革鎧を身につけ、肩を回したり、腰に佩いた剣を抜いて振ったりして、動きやすさを確かめた。
ドランは、最後に手袋と手甲を持って戻ってきた。手甲にもベルトが付いていたが、革鎧のそれよりも幅が広い。その理由は、天馬が手袋はめた時に理解できた。手袋越しでは、細かな作業が難しい。そのため、手甲のベルトは幅広に作られていた。
手甲を装備し終えた天馬は、この店に入って初めて注文を付けた。
「指が出ているタイプの手袋無いですか?」
ドランは奥へ入ると、すぐに戻ってきた。その手には、フィンガーレスの手袋と手甲を持っていた。
天馬は付けていた手甲とグローブを外し、ドランが持ってきたものへと付け替えた。前の手甲と比べると、こちらはベルトが細く、手甲自体も手首の下まで覆う形になっていた。天馬にとって、こちらのほうが好みの形だった。
全ての武具を身につけて動きを確認した天馬は、それらを丁寧に外してカウンターに置いた。
「これで良いか?」
ドランが確認するように問う。その言葉を聞いたアルフが、
「いくらだ。まとめてではなく、品ごとの金額を教えてくれ」
「面倒なことを。剣帯が銅貨8枚。長剣が小銀貨5枚。小剣が小銀貨3枚と銅貨5枚。革鎧が小銀貨7枚。手袋が小銀貨1枚と銅貨5枚。手甲が小銀貨3枚。合計で中銀貨2枚と小銀貨1枚。払えんのか?」
値段を聞いた天馬は、ドランに質問する。
「ドランさん、付与は無いんですか?」
「無いな。付与が付いたのが欲しいなら他へ行ってくれ。うちの武具は、付与付きにも負けないと自負してるからな」
「そうだな。ここの品は、付与付きに負けない武具だ。でも、正直に付与ができないって言ってもいいんだぜ?」
二人の会話から、天馬はドランが付与の技術を持たないか、あるいはドワーフ族全体が付与を使えないのだと理解した。
「ドランさん。長剣と小剣、革鎧と手甲、同じ物の在庫はありませんか?」
天馬の質問に、二人は揃って怪訝な顔をした。
「在庫はあるが、・・・どうする気だ?」
ドランの答えを聞いた天馬は、さらに言葉を続け、
「長剣と小剣を2剣ずつ、革鎧と手甲を1組、追加で買わせて下さい。お願いできますか?」
「買ってくれるって言うなら売るが、・・・転売目的なら断るぞ」
「心配しないでください。自分で使います。約束します」
「そうか。剣に誓うか」
「誓います」
ドランと天馬のやり取りを見ていたアルフが、口を挟んだ。
「テンマ、大丈夫なのか? 支払い。結構使っただろ、今日」
「大丈夫ですよ」
そう言って、天馬は、ドランの店から剣帯1つ、長剣3剣、小剣3剣、革鎧を2領、手袋 1つ、手甲を2組を購入した。合計で中銀貨4枚と小銀貨7枚、銅貨8枚を中銀貨5枚で払った。
ちなみに、「大蛇」の面々は午前中に引き続き、ここでも何も買わなかった。
アルフに勧められ、剣帯に小剣を佩いてドランの店を出る。言われてみれば、「大蛇」の面々も防具は身に着けていないが、アルフは剣を佩いていて、リーフは弓と矢筒を肩に掛けて、マリオも杖を持っていた。
天馬が理由を聞くとアルフが、
「冒険者は、犯罪を見たら捕まえなきゃなんねぇ。そのために、武器の携帯は半ば義務なんだよ」
と教えてくれた。
あとで、マリオに詳しい内容を聞いた天馬は、冒険者と傭兵は普段から自警団の立場にあり、そのため武器の携帯が許可されていて、犯罪に遭遇した時には協力義務があると説明された。
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