035 お買い物(衣料品と靴)
2025/7/13 改稿
「おう、テンマ。口座は作れたか? それより、さっきのあれは何なんだ」
アルフが、天馬に見送りの理由を尋ねた。
「積立てをしたからだと思いますよ」
「積立てか? 口座を作った時に説明されたが、よく分からなくてな。一体どういう意味があるんだ? あと、預託金というのもあったか?」
天馬は、ガダンから聞いたことをアルフ達に教えた。その話を聞き、アルフ達が相談を始めた。どうやら、今回の依頼の報酬から何割かを積み立てに回すかで話し合っているらしい。
「よし。今回の報酬から小銀貨5枚を6ヶ月、積み立ててみよう。マリオ、手続きをしてきてくれ。俺らは、テンマの買い物に付き合う。マーニーさんの店で待ち合わせな」
「分かりましたよ。じゃ、行ってきます」
「テンマ、こっちだ」
マリオと別れ、歩き出すアルフ。天馬はそれに続く。振り返ると、商業ギルドに入っていくマリオの背中に、なぜか哀愁を感じる天馬だった。
「まずは、服だな。どこが良い? リーフ、お薦めの店はあるか?」
「普段着は、『衣料のザービ』、きちんとした格好や質のいいものなら『服のイアン』かな。とりあえず、『ザービ』でいいんじゃない。気に入らなければ、『イアン』に回ろうか」
リーフの先導で、『衣料のザービ』に到着した。橙色の壁に覗き窓の付いた扉、掲げられた看板に「衣料のザービ」と書かれていた。
店に入ると、リーフは奥に進む。アルフと天馬は一緒に店内を見て回った。右側には男性用、左側には女性用の服が並んでいる。
天馬は男物のカットソーを手に取り、手触りを確かめる。素朴で自然な肌触りだった。サイズを選び、値段を見ると中銅貨1枚とある。トランクスもカットソーと同じ素材らしく、腰のところを紐で締めるタイプだった。カットソーの長袖とタンクトップを5枚ずつ、トランクスも同じ数を持ち、どうしたものかと天馬が考えていると、
「テンマ君、それ買うの? そしたら、奥に清算台があるから置いてくるといいよ。それで、また服を選ぶ。これを繰り返すのよ」
戻ってきたリーフにそう言われ、天馬は店の奥を目指した。奥へと歩きながら天馬は、このお店の商品の配置が考えられていたことに気づいた。店先から奥へと下着、トップス、ボトムス、アウター、最後に靴下、帽子や小物が並べられていた。
天馬が持っていた品物を清算台に置くと、店員がその上に札を置いた。札には「1」と書かれていた。店員に、
「次からは、この札を見えるようにしてください」
と言われた天馬は、頷いてトップスを見に向かった。
トップスは、麻やリネンに近い物で縫製された薄手のシャツと、コットンに近い厚手のものが豊富にそろっていた。値段は中銅貨3~8枚で、厚手の物の方が高価だった。天馬はアルフか、リーフが近くにいないかと、店内を見回し、アルフを見つけると手を振って呼んだ。
「今の時期はこれでいいと思うんですが、これからのことを考えるとどうしようかと思って」
薄手の長袖を持ちながら、天馬がアルフに尋ねる。
「暑くなるからな。七分袖や五分袖、袖無しも有りだな。ボトムスは、町中なら七分丈か五分丈だな。町の外では、上はそんなに気にしなくてもいいと思うぞ。どうせ鎧と手甲、グローブを身に着けるからな。ボトムスは、このあたりがおすすめだ。」
アルフがそう言いて見せてくれたのは、乗馬ズボンだった。
「これは、ブーツを履くときに裾が気にならない」
結局、天馬は、長袖、七分袖、五分袖を色違いで3着ずつ、ズボンを3本、七分丈と五分丈、乗馬ズボンを生地の厚手、薄手で2本ずつ買うことした。
天馬は、ボトムスの前と後ろにポケットが付いているものが多いことに驚いた。
それらを清算台に置いて、アウターを見に天馬が戻ると、戻ってきていたリーフが、アルフと一緒になって、「これが良い」と勧めてくるアウターが二つあった。
天馬は、一つ目のお勧めを手に取って見てみた。膝丈のケープ、というよりレインコート。聞くと防水の付与が施された物らしい。今からはこれで十分とのこと。
もう一つは羊毛のケープで、合わせの部分にも羊毛の布が付いており、合わせを留めると上半身がケープの中に隠れるようになっていた。防寒と防水の付与が施された物だそうだ。値段的には「底値の掘り出し物」だと二人が力説した。値段もそれなりに高い。
膝丈のケープが小銀貨1枚と銅貨5枚。羊毛のケープは底値で小銀貨4枚と銅貨5枚。二人の勢いに負けて、天馬は購入を決めた。それ以外にもサマージャケット風を1着買う事にした。
その後、天馬は悩まずに厚手と薄手のハイソックスを5足ずつ。薄手のソックスとアンクレットを3足ずつ買うことに決めた。それぞれ、中銅貨1枚、小銅貨8枚、小銅貨6枚、5枚とお手頃に思えた。あと、ギルドカード用の紐を選んだ。
帽子を見て、「どうせ買う事になるんだから」と、トラッパーも一つ買った。当然、防寒と防水の付与が施された物をリーフに選んでもらった。
清算台に全てを置くと、店員が会計をしてくれた。
カットソーの長袖×5 (中銅貨5枚)
タンクトップ×5 (中銅貨4枚)
トランクス×5 (中銅貨5枚)
長袖×3 (銅貨1枚と中銅貨8枚)
七分袖×3 (銅貨1枚と中銅貨5枚)
五分袖×3 (銅貨1枚と中銅貨2枚)
ズボン×3 (銅貨2枚と中銅貨7枚)
七分丈ズボン×2 (銅貨1枚と中銅貨6枚)
五分丈ズボン×2 (銅貨1枚と中銅貨4枚)
乗馬ズボン(厚)×2 (銅貨2枚と中銅貨8枚)
乗馬ズボン(薄)×2 (銅貨2枚)
膝丈のケープ(レインコート)×1 (小銀貨1枚と銅貨5枚)
羊毛のケープ(防寒着)×1 (小銀貨4枚と銅貨5枚)
ハイソックス(厚)×5 (中銅貨5枚)
ハイソックス(薄)×5 (中銅貨4枚)
ソックス(薄)×3 (中銅貨1枚と小銅貨8枚)
アンクレット(薄)×3 (中銅貨1枚と小銅貨5枚)
紐×1 (小銅貨9枚)
トラッパー×1 (小銀貨2枚と銅貨2枚)
合計で小銀貨9枚と銅貨9枚、中銅貨7枚、小銅貨2枚となった。購入金額が大きかった為か、店員は小銅貨2枚をおまけしてくれた。
天馬は購入した全てを『収納』して、店を後にした。
「次は、靴だな。ブーツの良いのは、マーニーさんの店で買うとして、サンダルと靴だな。それは買わないと。俺らの行き付けでいいか?」
天馬の答えを聞かず、アルフは歩き始めた。リーフが呆れた顔で後に続く。天馬も諦めて二人を追った。
「靴のハイジ」と書かれた立て看板がある店に入る。中から若い女性が出てきて、
「あら、アルフ。帰っていたの?」
「ああ、昨日な。エーファ、今日はこいつの付き合いだ。靴とサンダル、ブーツを見せてくれ」
エーファと呼ばれた女性が天馬にサイズを尋ねる。しかし、天馬は答えに詰まってしまった。すると、奥から数枚の足形を持ってきて、
「お客様、こちらの椅子に座って、その靴を脱いでいただけますか?」
とエーファに言われ、天馬が言われた通りにすると、跪いて天馬の足を足形に合わせていく。そして、何かに納得してエーファは奥に下がると、すぐにサンダルと靴を持って戻ってきた。
「これを履いてみて」
と言って、サンダルを天馬の足元に置いた。
置かれたサンダルを見た天馬の印象は「便所サンダル」だった。
木製の底板に獣皮が踝 を覆うように鋲で固定されており、別に紐で結ぶタイプのヒールバンドが付いていた。
天馬がサンダルを履き、エーファに促されて椅子の周りを一周する。「悪くない履き心地だ」と天馬は感じた。
「うん。サイズは8ね。次はこっちを履いてみて。その間にブーツ取ってくるから」
そう言い残して、エーファは再び奥に消えた。
靴も底板は木製で、つま先が平たく、4枚の革を縫い合わせてある。広めの履き口から別の皮が伸び、折り返されていた。バスケットシューズに近い形。
天馬はサンダルを脱ぎ、靴を履いてみた。足を入れ、「これも履き心地は悪くない」と思いながら椅子の周りを歩き、遊びが少ないことを確認する。「普段履くならこれで十分だな」と天馬は納得した。
奥からブーツを抱えたエーファが戻って来た。
ブーツは、履き口から伸びる皮が膝下まであること以外は、先ほどの靴と違いはなかった。天馬はブーツに履き替え、椅子の周りを歩いて履き心地を確かめる。すると、アルフが尋ねてきた。
「テンマ、どうする? 買うか? エーファ、全部で幾らだ?」
天馬が答える前に、エーファが金額を告げた。
「毎度、全部で銅貨6枚と中銅貨6枚かな。サンダルが銅貨1枚と中銅貨2枚、靴が銅貨2枚と中銅貨4枚、ブーツが銅貨3枚」
アルフは困ったように天馬を見て頭を掻いた。その様子に「買わない」と言い出せない雰囲気が流れ、天馬は結局、3足すべてを購入してしまった。
店を出ると、リーフがニヤニヤしながら、
「アルフ、エーファに良いところを見せられて、良かったじゃない。どうせなら、アルフも何か買えば、もっと良かったんだけどね」
「エーファは関係ねぇー。変な事を言うなよ。テンマが誤解するじゃねぇか」
二人の会話を聞いて、天馬は納得した。「要するにダシにされたということか」と思い、アルフを生暖かい目で見ると、「何だぁ。その目?」とアルフに突っ込まれた。
ブクマ、評価、リアクションお願いします<m(__)m>




