019 天馬君、やらかす。
2025/6/22 改稿
最初の戦闘と異なり、アルフも天馬もゴブリンの返り血を浴びていた。
「それよりもこの匂い、きついですね。何の匂いでしょう?」
と天馬は顔を顰め、不快そうに尋ねる。
「これはゴブの血の匂いだよ。服に付くと中々取れない、厄介な代物だ。テンマ、お前も返り血を浴びたんだろ。ご愁傷様。その服、良さそうに見えるけど、捨てるしかないな」
とアルフは答えた。それを聞き、
「そうですか?『洗浄』」
天馬がそう唱えると、光に包まれた。光が消えると、鼻につく匂いも汚れも消えて、気持ちよさそうにサッパリとした表情を浮かべた天馬。その様子を見たリーフが、
「えっ。何したの」
「『洗浄』の魔法ですよ。一般的な」
天馬は当然の事のように答えた。それを聞いたリーフは、
「いやいや。そんな魔術、普通じゃない!って言うか、魔法! 魔術じゃなくて魔法!?そんなの私は知らない! アルフは知ってる?」
「知らん。魔術ならマリオに聞け。おーい、マリオ!」
アルフは馬車を降り、近づいてくるマリオを大声で呼んだ。
「みなさん、回収もしないで、突っ立っておしゃべりですか」
マリオの苦言に、二人は渋い顔をする。誤魔化すように、
「マリオ。『洗浄』の魔法って聞いた事ある? 今、テンマ君が使ったんだけど。凄いのよ! 汚れも匂いも取れちゃったの。ゴブの血のよ!」
リーフの言葉を聞いたマリオは顔色を変え、テンマに詰め寄った。
「魔法ですか? 魔術じゃなく? テンマ君、貴方は魔法が使えるのですか? 魔術じゃなく?」
「はい。水魔法と生活魔法が使えます」
天馬の答えに、マリオは額に手を当てて天を仰いだ。その口から「フッフッフッフッ」と笑いが漏れる。次の瞬間、勢いよく天馬の両肩を掴んだマリオが、血走った目で、
「魔法、見せて下さい! 教えて下さい!お願いします! 何でもします! だから、お願いです!」
必死に迫るマリオを腕で押し止めつつ、
「落ち着いて下さい、マリオさん。魔法なら、マリオさんも使ってたじゃないですか」
「使ってません! 使えません! だから、お願いします! 教えてください! 見せて下さい!」
マリオは矢継ぎ早に言葉を並べる。興奮状態のマリオに、
「魔法と魔術は、違うんですか?」
と、素朴な疑問を口にした。その言葉を聞いた途端、マリオは「えっ?」と言う表情で思考停止してしまった。
「しっかりしろ!」
アルフがそう言って、マリオの頭にアルフが拳固を落とした。その痛みと衝撃で、マリオが再起動した。
「テンマ君は、魔法と魔術の違いが分かってない? と言う事、ですか?」
「多分、そうだと思います」
天馬の言葉を聞いたマリオは、数瞬、思案を巡らせて、
「分かりました。アルフ。御者を代わって下さい。テンマ君に魔法と魔術の違いを教えます。その前に、テンマ君の魔法を見せて下さい」
マリオの言葉にアルフが手を挙げて、
「俺で頼む。さっきの『洗浄』とか言う奴」
「良いですよ。じゃ、『洗浄』」
テンマが唱えると、今度はアルフを眩い光が包み込み、やがて消え去った。リーフが、クンクンと顔を寄せてアルフの匂いを嗅ぐ。
「臭くない! ゴブどころか、汗の匂いもしない! アルフ、感想は?」
「何か、スッキリした」
アルフの感想を聞いたマリオが、感嘆の声を漏らして、
「これが、『洗浄』ですか?凄いですね」
何が凄いのかピンとこない天馬に、アルフが声を掛ける。




