012 異世界で初めての その1
2025/6/20 改稿
「鑑定」と唱えながら、胸丈の草を剣で薙ぐ。その剣の切れ味に、天馬は驚嘆していた。
薙いではいる。剣を振るたびに草の丈が短くなる。でも、手応えが無い。空を切っているように、何かを切っていると言う感覚が無い。
「『切れ過ぎると不安になる』って、誰かが言っていたけど、ホントだな」
歩きながら空を見上げと、日が左に傾いて来ている。
「日本だと15時ぐらいかな? そろそろ抜けたいな」
そう言って、天馬は歩くペースを上げた。
風の匂いが変わり、金属を叩き合う音が天馬の耳に届いた。天馬は音がする方に目を向けると、50mほど先に荷馬車があった。その周りで人が何かと戦っている。草の間から緑の頭が見え隠れしていた。
腰を低くして音を立てないように近づいた天馬は、10mくらいまで近づくと小さく「鑑定」と唱えた。
そこにいたのは人間が2人。いずれも職業は冒険者。魔物は、ゴブリンが7匹。馬が1頭。幌付きの荷馬車4輪-状態:通常と表示された。「鑑定」では種族と職業しか分からなかった。
天馬は悩んだ。助けに入るか、入らないか。助けに入るとしても、武器を使うか。魔法を使うか。悩んで末、意を決した天馬は、一番右側にいたゴブリンの後ろに回り込んで、
「加勢します」
と大声で叫びながら、草叢から飛び出し、背後からゴブリンに切り掛かった。
最初のゴブリンを袈裟切りで倒した天馬は、その出現に混乱するゴブリンを続けて3匹、撫で切る。直後に振り返って、向かって来たゴブリンの胴を薙いだ。天馬が周囲を確認すると、最後の1匹が剣士に斬り捨てられたとこだった。
改めて魔鉄の剣の切れ味に呆れた天馬は、自身の剣の腕より道具の性能で勝てたと思い、じっと剣を見つめた。そんな天馬に、体躯の良い青年が声を掛けてきた。
2025/5/17 修正