010 貰ったら怒ります?
2025/6/17 改稿
走り出した天馬は、三歩進むごとに「鑑定」と唱え、『死体』と表示されるたびに「収納」と唱えて『亜空間収納』へと収めていった。
小一時間ほど走り続けると、「鑑定」で『死体』が表示されなくなる。周囲の植生も変わり、草の高さは腰高ほどになっていた。
天馬は水を出して喉を潤すと、すぐに『収納物』を確認した。
『ザッツ草×163,853』『鉄の剣(損傷)×18』『鉄の剣(破損)×37』『魔鉄の剣×1』『魔鉄の槍×1』『鉄の鞘(損傷)×54』『魔鉄の鞘×1』『鉄の盾(破損)×11』『魔鉄の盾×1』『魔鉄の兜(損傷)×47』『魔鉄の兜(損壊)×8』『革の兜(損壊)×1』『鉄の鎧(損壊)×30』『魔鉄の鎧×1』『魔鉄の鎧(損傷)×10』『魔鉄の鎧(損壊)×14』『革の鎧(損壊)×1』『革の鞄-中(損壊)×1』『皮袋-小(損壊)×55』『特殊な皮袋-小×1』『銅貨×402』『銀貨×66』『金貨×1』『羊皮紙:子牛の皮×1』『布のマント(損傷)×1』『布の外套(損傷)×1』『金の指輪×1』『人族の死体(♂) ×56』
「あれ、魔鉄の武器を持ってる者がいたのか・・・・・・、土塊創造」
天馬がそう唱えると、辺りに厚さ5cm、2.0m▢の土の平板が現れた。その上に、魔鉄の剣と槍を持った二体の「死体」が仰向けで現れる。これまでの『死体』とは異なり、彼らは上を向いて横たわっていた。
魔鉄の剣を持つ『死体』は、どうやら盾も持っていたようだ。天馬がそう判断したのは、その左腕の骨が四つに分かれ、その先に魔鉄の盾があったからだった。左手の薬指には豪華な金の指輪が光っている。鎧の正面には三か所、平行に抉られたような傷跡が見て取れる。背中にはマントを羽織っており、腰の皮袋は損傷していない。しかし、剣の鞘は見当たらなかった。
槍を持った『死体』は、頭蓋骨が正面から深く穿たれていた。その傷は頭蓋骨を貫通するに留まらず、被っている魔鉄の兜さえも貫いていた。身に着けているのは前が大きく開いた綾織りのケープで、腰には剣を佩いたままだった。破れた皮袋は下に、金貨と数枚の硬貨がこぼれていた。
「あれ、鞘は?」
魔鉄の剣はあるのに、その鞘が見当たらない。もしかして、と思った天馬は腰高に伸びた草叢に向けて「鑑定」と唱えた。すると予想通り、その中5~6m入った場所に『魔鉄の鞘』の表示が出た。天馬は迷わず「収納」と唱え、先ほど『展開』した剣の横に鞘を出現させた。
「洗浄」
天馬がそう唱えると、光が二つの『死体』を包み込み、ゆっくりと消えていった。光が完全に消えるのを確認した天馬は、二つの『死体』を収納し、改めて「鑑定」を行う。
『魔鉄の剣-状態: 通常』
『魔鉄の鞘-状態; 通常』
『魔鉄の盾-状態; 通常』
『魔鉄の槍-状態; 通常』
『魔鉄-状態; 通常』
『魔鉄-状態; 通常』
『魔鉄の鎧-状態; 通常』
『魔鉄-状態; 通常』
『酸化銅-状態:通常』
『酸化銀-状態:通常』
『金の指輪-状態:通常』
『金貨-状態:通常』
『魔法の皮袋(小) -状態:通常』
『牛の皮-状態:通常』
『絹のマント-状態:通常』
『羊毛のケープ-状態:通常』
「おおっ。魔法の皮袋。異世界アイテムだよね。どうやって使うんだろう?」
天馬はそう呟きながら、見つけた「魔法の皮袋(小)」を手に取った。試しに手を差し入れてみると、驚くべきことに、頭の中にその中身の目録が浮かび上がる。
『金貨×5、銀貨×9、銅貨×8、命令書×1、印章×1』
天馬は、浮かび上がった目録から金貨、銀貨、銅貨を一枚ずつ取り出すと、続けて、命令書と印章も取り出す。
金貨は他の硬貨より一回り大きく、それ以外の違いはなかった。全ての硬貨には同じ紋様が両面に描かれている。印章は5㎝〇位の判子だった。
命令書はすでに封蝋が割れており、天馬は何の躊躇もなく羊皮紙を広げて中を確認した。
要約すると、メリーカナ王国の国王ルイス・メリーカナからローデリッヒ・フォン・バルツァへの命令書だった。内容は、魔物氾濫から領土を守るように、というもの。日付は新太陽暦476年10月8日と記されていた。
「ローデリッヒさん、あなたは最後まで逃げずに戦い抜いた。その証かもしれない『魔法の皮袋(小)』やこの剣を貰ったら怒ります?」