剣は未だ鈍っている
ウィル「はぁ、なんだったんだあれ?」
エクス「あの決闘のこと言ってたし、動画撮られてそれが拡散してるのかもな。」
ウィル「マジかよ・・・」
なんとかペルセポネのギルドハウスまで逃げ込めたおれととエクスだったが。
???「まあ、特異な存在というのは嫌でも注目を浴びてしまうものさ。それにそれだけの実力があれば更に観客の目を引いてしまう」
ロビーの階段から降りながら話しかけて来たのは一人の吸血鬼だった。
吸血鬼とは言っても黒マント無く、洒落た服装と鋭い牙だけがらしさを醸し出していた。
髪は金髪で目は紅い。
エクス「リーダー!すみませんここに逃げて来てしまって」
???「いいよ、いいよ。むしろここに来てくれたお陰でウィル君と縁が出来た。」
ここに逃げ込んだら俺とペルセポネは関係があると言っている様なものなので好奇心旺盛な人が詰め寄ってくるだろう。
しかしリーダーであるヘルメスは良い取引をした後の様に和かに笑っていた。
ヘルメス「初めましてウィル君、私はヘルメス。
ギルドペルセポネのリーダーさ。君のことはエクス君から聞いているよ。君の鬼神の如き活躍を。」
ヘルメスはウィルに詰め寄った後に仰々しく挨拶をした。
俺ははそれに戸惑いながらも挨拶を返した。
ウィル「は、はあ。初めまして。エクスから何を聞いていたのか気になりますけど・・・」
ヘルメス「ヤバい奴だと聞いているよ。」
ウィル「おい」
エクス「俺は何も間違った事は言ってないから」
爽やかな笑顔で誤魔化そうとしたエクスを俺は一発蹴りをお見舞いした後、仲がいいねとヘルメスが笑う。
ウィル(しかし何があったんだ?このままだと街中でも詰め寄られてめんどくさいな。)
ウィル「・・・エクス、調べたい事が出来たからログアウトするわ。」
エクス「俺もそうする。どんなおもし・・・大変な事になってるか気になるしな!」
コイツ今面白い事って言おうとしなかったか?
俺は訝しんだがログアウトを優先した。
ウィル「今日はマジでありがとう、楽しかった。ヘルメスさんもありがとうございます」
エクス「良いってことよ。」
ヘルメス「気にしなくていいよ。君に出会えたからね。」
大袈裟の人だなぁと、ウィルはログアウトボタンを押すと
アナザーワールドから消失した。
ヘルメス「嬉しそうだねエクス」
エクス「え?そうですか?」
ヘルメス「うん。いつもゲームをしている時は嬉しそうだけど今日はその何倍も嬉しそうだ。ウィル君が来たからかい?」
エクス「そうですね、それもあります。ようやくアイツとVRの世界であそべるんで。それと」
ヘルメス「?」
エクス「この世界でリベンジができるのですっっっごっく楽しみなんですよね」
ヘルメス「・・・君も負けず嫌いだね。」
明「・・・はぁぁ、マジか」
深いため息が出た理由は一つあの決闘が撮影されておりネットで拡散されていた事だ。
専用フィールドはデフォルトの表示設定が閲覧可能だった為
周りから見られていたみたいだ。
しかも動画撮影の許可もOKのままだったし。
もっと設定を見ておくんだった。
俺も啖呵切ってたし、ライズも煽ってたしなぁ・・・
気になった人が多かったんだろう。
名前は初期設定では非表示で映ってはいないがそれが逆に好奇心を煽る様な結果になってしまった様でネットでは俺を探そうと奮闘している様だ。
ぷるる、と携帯の着信音が鳴ると陽助からだった。
いつもの様に右手で取ろうとしたが右手は動かせないので
左手をマウスを離して着信ボタンを押す。
陽助「掲示板みてるか?人気者だぜ」
明「見てる、知ってる。嬉しくねぇ・・・」
切実な思いで明は言ったが現実は変わらない。
パソコンの画面にはアナザーワールドの掲示板があり
様々な憶測が立てられ、調査隊や本人だと名乗る偽物まで現れるお祭り騒ぎだった。
陽助「しっかしヤベェな・・・ここまで騒ぎになるとわな」
明「本当にな・・・どうしてこんなになってるんだ?」
陽助「なんだもう記憶を無くしたのか?レベル1のプレーヤーがトップギルドの戦闘員をほぼ完封して勝利したという非現実的な話が本当にあったんだ。騒ぎになるのも無理はないがここまでとは・・・」
明「あれはテオの作った武器が良かったんだよ。あの武器じゃあなかったらもっと苦戦してただろうし。」
陽助「・・・そこで倒せなかったとか言わない当たり流石としか言いようがないよ。」
あの決闘は白亜の大剣のパッシブ、アクティブどちらとも優秀で、武器自体の攻撃力も高かったからあそこまで戦えたのだ。
陽助「お、ネットじゃあ開発関係者かプロゲーマーで別れてるみたいだな。・・・ふふ白騎士だってさ」
明「何が?」
陽助「ウィルのあだ名。名前は映っては無かったからね。」
そういえばヨヨと呼ばれたあの子が言ってたな。
それを聞いて掲示板を見ると所々にその名前が見られた。
どうやら白い剣を持っていたかららしい。
125 匿名のアナザー民
やっぱ白騎士、チーターだろ。
初心者であの動きはあり得ない。
このゲーム終わったわ。
適当に開いたスレッドでこんなコメントを見つけてしまう。
明「・・・チーターね」
この言葉は聞き慣れたとも言って良い。
最強になってからは多くの対戦相手から送られた言葉だ。
高度に発展した科学は魔法と見分けがつかないとは言うがそれと同じで卓越したゲームセンスはチートと見分けがつかないのだ。
即死チートや無限チート程理不尽では無いがそれでも自分の攻撃が一切当たらず、俺の攻撃は予知をしたかの様に当たる。
相手からすればチートと考えてしまうのも無理はない。
相手の癖や行動から次の手を予測する行動予知
攻撃のリーチや技の発動タイミングや回避のタイミングなどを瞬時に理解する完全把握能力。
見えていない場所でも鋭利に物事を感じ取れる感覚
磨き抜いた反射神経と今までの経験から勘づく第六感、
そして磨き上げた演算能力でそれらをまとめ発動する未来予知にも似た能力。
これらはゲームの中で俺が必死に勝つために磨き上げて来た物だがそれをチートと言われるのは心にくる。
やっぱりこのゲームも俺を受け入れては・・・
陽助「分かってねなぁコイツら。アナザーがどれだけチート対策してるかちょっと調べれば分かるだろうに。」
俺の心を察したかの様に陽助は言う。
陽助「大丈夫だぜアキ。祭り状態になってるだけでみんなすぐにアキの実力だって気づくはずさ。」
相変わらず気遣いが上手い奴だ。
その割には彼女を怒らせている様な気がするが。
明「お気遣いありがと、その半分でも良いから彼女に与えてやってくれ。この前もどうしたらいいの?ってメッセ来てたぞ。」
陽助「おま、乙女心は難しいんだぞ!てか、菜々子にまた俺の昔話しただろ!」
明「うん、お礼にお高いジェラート奢ってもらった。」
陽助「親友を売って食うジェラートは美味いか!?」
明「俺が食べた中で1番のジェラートだったよ。」
陽助「ちくしょう!」
陽助の彼女である菜々子さんは俺とも知り合いでよく甘味に釣られて陽助の昔話をしてる。
菜々子さんは乙女な人で好きな人の事はなんでも知りたいらしく教えてくれたお礼として甘味を奢ってもらっている。
陽助は好きな人の前ではカッコつけたいらしいが菜々子さんはありのままを見せてほしいみたいなのでそれに協力している。
菜々子さんも同じゲーマーで陽助の話以外にもたまにゲームの話もするが陽助の話の方が喜ばれる。
俺の陽助以外で気軽に話せる人であり、陽助の事でよく相談に乗っている。
ジェラートの味は今でも思い出せる・・・あぁまた食べたくなって来たな。
今度は何の話をしようか。
陽助「この時だけはアキの記憶力の良さを恨むぜ。」
俺の記憶は興味の無いものに対してはニワトリもビックリする程忘れっぽく、興味のあるものに対しては隅々まで覚えているので陽助に対する記憶はほぼ頭に残っている。
陽助「その話は置いといて、明日もやるだろ?何時からやる?」
陽助が誘ってくれているが明日は2時からリリアに色々聞かなくてはいけないし、初心者っぽかったからまた決闘をやるなら基本的な事とか教えないといけないし・・・
明「いや・・・今日会ったリリアと会う約束してるから合流出来そうならするって感じかな。」
陽助「・・・」
明「陽助?」
急に黙ってしまったので携帯の画面を確認するがミュートにはなっていなかった。
陽助「あ、あのアキが・・・」
明「?」
陽助「アキが知り合ってまも無い人と遊ぶ約束してる!!?」
明「悪いか」
陽助「天変地異だよ!!明日世界終わるんじゃない!?」
明「失礼な!そこまでか!」
陽助「嘘だあのアキが・・・重度の人見知りとコミュ症のアキガ・・・」
ブツブツと失礼な事を言う親友をほっときつつ側にあるあの黒服達の持って来た封筒を見る。
明日のリリアに聞くことがいっぱいだ。
もし、彼女が俺の家族や友達に傷つける様なマネをするなら
許さない
聖羅「ふふ、白騎士」
明「悪いか」
聖羅「いえ、似合ってるわ。」
明「はいはい、どうも。そんで今回紹介するのは大剣スキルだ」
聖羅「あなたのメインスキルね」
明「一撃の重いものが多く行動阻害やタメのあるスキルがあるのが特徴だ。連続技が少なく、自己バフは攻撃力系が多め。大剣自体振りが遅いし、ヒットアンドアウェイで戦うのがいいだろう。」
聖羅「あなたはガンガン攻めるけどね。スキルとしては使いやすい<スカルクラッシャー>や複数を巻き込める<ラウンドエッジ>など単発スキルは多めだけど有用なのが多いわね」
明「お気に入りのスキルだな。まあ、タメるスキルが癖強いんだけどなぁ。」