太るのは胸だけ
「今夜はケーキ食べるか」
「え?」
「せっかく住友さんが来たんだから、祝いたいし。俺の奢り」
隼人は表面上はそう言うが、普段はなかなかケーキを食べる機会がないので、自分が甘いものを食べたいという狙いだった。
そんな狙いはつゆ知らず、香澄は驚きつつも喜びに目を躍らせていた。
そこで、隼人は香澄にどのケーキを食べたいか尋ねる。
「なにケーキが一番好き?」
「うーん……」
隼人の言葉で、香澄の目が、クリスマスだからか新設されているケーキコーナーの棚中を探しまわった。
ケーキコーナーに陳列された無数のケーキはどれも美味しそうに見えて、しかも廉価である。隼人に選ぶことは出来なかった。
そんな中、香澄の目はそのうちの一つに留まった。
隼人も香澄の視線の先にあるケーキを確認すると、それはおそらくチョコケーキだった。
実際はチョコケーキではなくてガトーショコラかもしれないが、隼人には違いが判らなかった。大して変わらないので、見分けがつく必要はない。
「チョコケーキが好きなのか?」
「食べ過ぎたら太っちゃうって、わかってるんだけどね。甘いものがないとストレスが溜まっちゃう」
「それ依存じゃん」
言いながら隼人は、香澄の身体を再び確認し、胸元に目が留まる。
甘いものや太りやすいものをどれだけ食べても、本体は太らずそこだけ大きくなるんだろうなと考えた隼人は間違いなく最低だった。