四十二日目 食事のお代わり~作業小屋予定地を視察
鉢を割って今日は完全にお休みモードのマサの代わりに、ぼくが簡易寝台の補強用の樹皮を採る。
ぼくだって今日はお休みなんだが、これだけはやっておきたい。
今晩のんびり寝台の上でくつろいでいる間に、いきなり寝台がぐしゃり、なんてのは御免だ。
それが気にかかってしまうので、これだけはやっておく。
補強用の紐にする樹皮は、まだ季節的に少し早いが、既に或る程度伸びている若木が多数あるので問題ない。
簡易寝台一つにつき、紐の長さで六尋もあれば充分なので、若木を五本だけ採って、樹皮だけ持ち帰る。
この程度なら、採るのも持ち帰るのも、疲れた体であってもそんなに辛くはない。
樹皮を剥がした丸太は次に来た時に薪として使うので、ここに置いて帰ればよい。
のんびりと焚火へ戻ってきたが、土器作りはまだ終わっていなかった。
採って来た樹皮からはすぐに繊維を剥がしとって紐にする方が良いので、焚火で温まりながら、樹皮裏の繊維を剥がしとって、マサに渡す。
自分の分も剥がし取り、二人して撚って紐にしてゆく。
単純作業なので、目は土器を作る様子を見て、少しでも覚えようとする。
出来上がった土器は、川から拾い上げた適当な石の上にのせて、燻し場の枝の屋根の下に安置。
一仕事終えたので、トモトヨの二人は手足を洗い、一休み。
その後、二人にも樹皮の紐を撚るのを手伝って貰った。
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今日はのんびりする筈なのに、食べる為にはどうしてもこんなところまで来なくちゃならない。
「折角来ているのだから、もう少し食べて行かない?」
「そう、それ」
「でも一か所であんまり捕るのは……」
「ちょっと谷川へ行かない?」
トモコが頻りに勧めるので、ぼくらだってお腹がいつも空いてることもあり、それに今日は他にはもうこれ以上何もする予定がないし、行く事に決まった。
川沿いに、冷えた空気の中を、青空の下、小部落より奥へ続く谷川を少し遡上する。
トモエコが熾火を手にしている。
そこでトヨが魚影を確認し、すぐに獲る。
とりあえずそこのポイントだけで、五、六尾も仕留めると、
「ふーっ、もう疲れた、帰るべ」
とトヨが言い出したので、トモが
「ここら辺に新しく焚火場所を作りましょうよ」
「いや、ここだと完全に山蔭じゃないか」
「今はね。そのうち陽が周って来るでしょ」
「明るくなるの、夕方だけじゃねえの……」
と言いつつも、トモコがひく様子が無いので、少し斜面を上がったところに焚火場所を設置することに決まった。
仕方ないから、ぼくとトヨとで切り拓いた。
石を適当に拾ってきては敷き詰めて簡易舗装し、焚火を開始。
頭上には大きな木が茂っている。
もわもわと立ち上る煙がその枝の間に消えて行く。
壺に納めておいた魚を捌き、串に刺して炙り焼いて貰う間、ぼくとトヨは川辺に下りて、冷たい勢いのある流れで汚れた手足を洗う。
「なんかあんまり此処は好きじゃねえな」
「北側斜面で暗いからねえ」
「そそそ」
「暑くなってきたら、特に、ね」
「蟲で病気とか厭だよ、オレ」
と駄弁ってると、上から女の子が
「ねえー、もっと獲ってー」
「今日はちゃんと食べましょ」
と云ってくるので、洗うのを中止して、また獲りに出かけた。
一人が二尾食えるだけ獲って来て、捌いたあと、また川辺に下りて泥と砂と水でよく汚れを洗い流す。
焚火まで上り、石の上に円座を置いて座り、冷たくなった手足を焚火にかざして温める。
それから女の子に既に焼き上がってるのを取ってもらい、取り分を食べ、草を煎じた汁を飲んでさっぱりした。
マサの鉢がさっき割れて無くなっちゃっていたから、ぼくのを貸した。
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その後、帰り支度をして、いつもの焚火場所に戻り、ぼくが集めた若木の丸太を立てておく。
樹皮は既に各自の籠に若木一本分ずつ分配して入れてある。
結構嵩張るので、籠の内側にぴったり貼り付くように巻いて収めた。
高低の起伏や左右の曲がりくねり具合を愉しみつつ、戻って小部落の前まで出てくると、道を挟んで小部落と向かいあう場所の前に立つ。
作業小屋の建設予定地だ。
「ここら辺ね。あそこの周りに、あの辺りの木をそのまま柱に使って、丸太を積み上げて壁を建てられるでしょ」
「その前にぃ、草刈りと土均しかぁ……道具がほしいなぁ」
「土均しの道具なら、考えてあるよ」
「どんなの~?」
「えっとね……」
ぼくがエコちゃんに、こんなの、と地面に枝でレーキの絵を描いて説明している間に、トヨは
「ここら辺な、物置場にすんの」
と、地面に高低差がある場所の上に生えてる木の下の、少し地面が奥へ引っ込んだ場所を指さす。
見れば、たしかに、そのままでも雨宿りにはうってつけの、何もしなくても雨風を避けられそうな場所だ。
何か少し足して調えれば、それだけで充分っぽい。
「いいね、ここ。どんな風にするの?」
「とりあえず、杭を打って、縄……いや、紐を張る」
「縄張り宣言かあ。うん、それでいいのかな」
マサは頷くが、トモコは
「一応、丈の高い草か何か被せて、隠すようにしたら?」
「ああ、それもいいかもな」
部落の人々は良い感じだったが、他の者はどうか分からず、何時入り込んでくるか分からないからな。
石を投げつけて来た村の子供が来るには、ジンメ川のこちら側の道は少し石ころが多くて、裸足にはキツイから、あいつらはあまり来ないかもしれないけれど。
拙作をお読み頂き、実に有難うございます。