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1-25 王太子

「…………へぇ」


 偽の婚約届を見たマーカスさんは、ニコリと笑ったけれど。なんだかめちゃくちゃ怖かった。


「良かったよ、これで躊躇なく妖魔を血祭りにあげられる」


「俺より頭にきてないかマーカス」


「ハッ、流石察しの悪いデュークだな。まぁいいや、今日はお前の働きに免じて許してやる」


 凄みのある顔をしていたマーカスさんは、今度は意地の悪そうな顔でニヤリと笑った。


「で?報告してもらおうか」


「…………は?」


「さっきのあの状態で何もないとは言わせねぇよ」


「…………何がだ」


「…………シャルロッティちゃんー!こいつでいいのほんとに!?結構バカだよ!?」


 呆れたマーカスさんが私に縋ってきた。確かに、マーカスさんの言いたいことはわかる。


 私はほんのり赤くなりながらカリカリと文字を書いた。


『察しの良すぎるデュークも嫌です』


「………確かに?」


『このまんまがベストです』


「わぁ、愛されてるねぇデューク」


「っあい………!?」


 突然びっくりしたような声を出すデュークが可愛い。ふふふと声なき声で笑っていると、マーカスさんがによによと私とデュークを交互に見た。


「で?」


『デュークに好きって言ってもらえました』


「よっしゃぁぁぁーーー!!!おめでとう!!!よくやったデューク!!!」


 凄まじく喜び始めたマーカスさんに驚く。もはや自分のことのように達成感に打ち震えたようなマーカスさんは、満面の笑みでガッツポーズをした。


「何なんだお前は……」


「別に友の幸せを喜んだっていいだろ。で?お前もシャルロッティちゃんに好きって言ってもらえたんだろ?」


「……………まぁ………うん………」


「やめろ照れるな俺まで恥ずかしくなってきた」


 お腹いっぱいという様子で顔をしかめたマーカスさんは、ガシガシと頭をかくと、再び偽の婚約届に目を落とした。


「まぁ……これがきっかけで、じれったかった二人がやっとくっついたのは良かったけど。もう少しこの偽の婚約届については整理しよう。特に目的がはっきりしていないのが怖い」


「そうだな………俺を殺そうとするんじゃなくて、俺の周辺をちまちまと搔き乱す感じはするんだが」


「まず、シャルロッティちゃんへの攻撃があったよね?」


 マーカスさんは、デュークに窺うような視線を投げた。


「お前、どのぐらい防いだの?」


「…………10回。その後はピタッと止まった」


『え?10回って何?』


 話が読めず、驚いてデュークを振り返る。


「…………デューク、まさか何も言ってないの?」


「怖がらせるだけだろ」


「いやいや……そういうとこだぞ」


 一体何の事だ。デュークの腕を掴んでグイグイと揺すると、デュークは少し言いにくそうに口を開いた。


「……前、突然胸が痛くなってただろ。何度か同じ攻撃があって、10回ぐらい防いだ」


『防いだりできるの!?』


「………簡単じゃないけど、何とかなった」


 いつの間に。まったく気づかなかくて、呆然とデュークの顔を見つめる。


「デュークはね、これでもかなりの魔術の使い手だから。じゃないと危ない妖魔退治のためにわざわざ他国までこないから」


『凄いですね』


「でしょ?ほら、もっとアピールしとけば良かったのに」


「……自慢するようなことじゃない」


「お前なぁ……まだ昔のこと気にしてんのか?」


 呆れたようにそう言ったマーカスさんは、次に気を取り直したように足を組み直した。


「で………度重なるシャルロッティちゃんへの痛いだけの嫌がらせ攻撃、カリーナとの偽の婚約届、それから錯乱して魔術を暴発させた男か。あいつはカリーナに攻撃してたんだよな?」


「たまたまかもしれないけどな……シャルの方にも氷の刃が飛んでたし」


「それもお前が防いだの?」


「全部蒸発はさせたけど……」


「けど?」


「アルフォンスが、シャルの横にいたから………」


「……………へーぇ?」


 そう言うとマーカスさんはニヤリと笑った。


「なんか想像ついたわ。っふ、デューク……お前、ヤキモチ焼くなよ」


 デュークがヤキモチ?ぜひその表情を見たいと、横に座るデュークの顔を覗き込んだが、ぺちっと顔に手を乗せられて防がれた。見たかったんだけどな。


「っふは、あー面白すぎる!!ていうかさ、なんでアルフォンス殿下がそこにいたの?」


「……知らん」


『カリーナ様が準備してくれたテラスの席に、突然現れました』


「なんか随分シャルロッティちゃんに絡むね……?」


 その言葉に、デュークが余計不機嫌そうな顔になる。そうか、デュークは私がアルフォンス殿下を好きだと勘違いしてたから………と思ったところで思い出した。


『さっきアルフォンス殿下が温室の窓のところに来て、婚約届が届いてるはずって私に言ったんです』


「………は?」


「えっここに来てたの!?」


『デュークの結界で中には入れないから、窓から話しかけたって……昨日婚約届が回ってきたから届いてるはずだけど、聞いてないのかって』


「確かに、この国の貴族の婚約であれば、アルフォンス殿下のところにも事前にお伺いが来るだろうけど……」


「偽の婚約届が正式に婚約届の承認ルートに乗ってたっていうのか?」


「………カリーナの署名も偽物だったんだろ?じゃあ誰が届け出たんだ」


「妖魔がカリーナの親族に取り憑いたか、操っていたか………もしくは………」


 少し沈黙が訪れる。デュークとマーカスさんが、何か意味深な視線を交じわらせた。


「これだけじゃ断言はできない。もう少し情報収集が必要だな」


「……シャル、アルフォンスは他に何か言ってたか」


 次いで、そう私に問いかけるデュークの視線が重い。何を言っていたか思い出して書こうと思ったのだけど………非常に言い辛い内容な気がしたてきた。


『色々と言っていました』


「……詳しく」


 デュークの圧が強い。怖い。助けを求めてマーカスさんの方へ視線を投げたが、マーカスさんは半分真面目に、そして半分面白そうにニヤけながらウンウンと頷いてしまった。


「大事なことだからね。洗いざらい話してもらわないと」


 もはや味方はいない。私は、何だか気まずい気持ちになりながら、ぬるぬると文字を綴った。


『ずっと温室の中にいる私を見て、これじゃあ、レオナルドに飼われていた時と変わらないじゃないか、とか』


「………は?」


「まぁまぁデューク。シャルロッティちゃん、それ続きあるでしょ」


『君はこの温室の鳥籠の中で、二番手以降の女で居続けるのか?って』


「二番手、だと?」


「デュークがカリーナと婚約するならシャルロッティちゃんは愛人ってことだよね。違うよね、知ってる。落ち着いてデューク。わかってるから。で、それから?」


 デュークが怖い。でも、どうどうとデュークを抑えてくれているマーカスさんを信じて、これは伝えねばならないことかもしれないと、えいやー!と文字を綴る。


『私のところに逃げておいで、とのことでした』


 ガタン!とデュークが立ち上がった。


「まー!まー!まー!まー!落ち着いてデューク!ね、ほら、シャルロッティちゃんは逃げない。シャルロッティちゃんが好きなのはデューク。そうだよね?ね?」


 闇落ちしたような恐ろしい表情になったデュークにビビりつつ、必至でコクコクと頷く。


 あとは……こんなもんだったはずだ。もう言うことはないと、『以上です』と文字を綴る。


 ゆるゆるとソファーに座ったデュークに、これは後でフォローを入れねばならないと心に決めつつ、ちらりとマーカスさんを見る。


 マーカスさんは、思ったよりも真剣な表情で何かを考えていた。


「真面目な話だけど。シャルロッティちゃんは、アルフォンス殿下にその話を聞いて、やっぱり自分はデュークの二番手なんだろうなってショックだったんだよね?」


 直球で言われると恥ずかしいが、間違いないので、そうですと頷く。


「………少し前の話に戻るけど、アルフォンス殿下に氷の刃で守ってもらった時に、キャー素敵みたいに思った?これ、真面目な話ね」


 何聞いてるのかと凄い表情で顔を上げたデュークを、マーカスさんがさっと止めた。


 デュークが、今度はずぶ濡れの猫のような絶望した雰囲気で私を見つめている。そんなにアルフォンス殿下が気になるのだろうか。そんなことよりも……と、少し躊躇しつつペンを走らせる。


『どちらかというと、カリーナ様を守るデュークを見て、やっぱり二人はそういう関係なんだろうなって、寂しくなりました』


 驚いたように目を見開くデュークに、何となく恥ずかしい気持ちになる。


 これって嫉妬、なんだろうな。


 ちょっともうデュークの顔を見れない。


「―――もしかして、だけどさ」


 少し間を置いて、マーカスさんがぽつりと口を開いた。


「精神攻撃してるんじゃないか?」


「……精神攻撃?」


「妖魔はもうシャルロッティちゃんがデュークの弱点だって知ってるってことだよ」


 驚いたように目を見開いたデュークは、私を呆然と見つめてから考えるように俯いた。


 マーカスさんは難しい顔をしながら眉間を揉んだ。


「偶然とも思えなくもないけど……俺には、意図的にデュークとシャルロッティちゃんの関係性を混乱させているように思える」


「………そんな、やり方………」


「あわよくばシャルロッティちゃんとデュークを仲違いさせて、デュークの戦意を削ぐか……取り憑く隙きを探してたのかもしれない。流石、人の負の感情で成長する妖魔だな」


 そう言うと、マーカスさんはよいしょと立ち上がった。


「完全に納得はできないが、もうこれ以上は推測の域だ。とりあえず、デューク、今日のお前の仕事はシャルロッティちゃんとの仲を深めることだ。妖魔の精神攻撃なんて蹴散らせ」


 マーカスさんはポンポンとデュークの肩を叩いて、ぺらりとテーブルの上の婚約届を手に取った。


「この婚約届はなんとかしておく。じゃあ、くれぐれも仲良くな」


 そして、マーカスさんは私にニコニコと笑いかけながら、デュークをよろしくね〜と言って去って行った。


 また二人になった部屋の中。なんとも言えない空気が流れる。


 デュークは、俯いたまま、動かない。


 私はボードをぐいっとデュークの俯いた顔の下に差し込んだ。


『おーい?どうしたの?』


「…………ごめん」


『なにが?』


「完全に………巻き込んだ」


 その言葉にきょとんとする。


 そうか、デュークはやっぱり、私を巻き込みたく無かったのか。


 なるほどと納得する。デュークは優しい。だけど………


『もしさ、元々妖魔に命を狙われてるのが私だったとしたら、デュークはどうした?』


「え………」


 デュークはゆらりと顔を上げた。


「ありとあらゆる手を使って妖魔を倒そう」


 また闇落ちしたような顔になった。目から光が消えている。怖い。怖いよデューク。例えが極端すぎただろうかと……しかしうっかり事実である可能性が高いことに震えながら、次の文字を綴る。


『ほらね!私も同じ気持ちなの!』


「………同じ気持ち?」


『私だってデュークを守りたい』


「俺を……?」


『そうだよ。私にとってデュークは、大事な人だから』


 デュークが驚いたように私を見つめる。


 そう、それに、私の気持ちはずっと変わらない。


『言ったでしょう?妖魔と戦えるデュークと、妖魔に取り憑かれた国で処刑された王女の生まれ変わり。一緒に組んで戦うにはピッタリじゃない?』


「……………」


『確かに魔術は使えないけど、私だって何もできないわけじゃないわ』


 そう文字を綴ってから、少し悩んだ。私が人魚の魔法を使えると言えば、日没とともにその力は無くなり、切り札として使えなくなるだろう。それに、もし、またデュークが呪われてしまったら。その時、人魚の魔法を使えなかったとしたら、私はきっと、ひどく後悔するだろう。


 人魚の魔法の事はデュークに伝えない。だから、私がデュークの力になれると示すには、人魚の魔法以外のもっと他の何かが必要だ。私はやや逡巡したのち、もう一度ペンを走らせた。


『今、妖魔が取り憑いているのは、アルフォンス殿下なんじゃないの?』


 私の綴った文章を見て、ピタリと動きを止めたデュークは、少し間を置いてから私の方を見た。


「………そうだとしても、やる事は変わらない」


『本当に?』


「………何が言いたい」


『もし私の予想が当たったとしたら、アルフォンス殿下に取り憑いた妖魔を倒す場合、それはアルフォンス殿下ごと攻撃して、葬る事になるんじゃないの?』


 そう書きなぐってデュークを強い視線で見ると、デュークは少し辛そうに目を細めた。


「…………覚悟は、できてる」


 その表情に、あぁ、やっぱりこの人は優しいなと思った。


 少なくとも、デュークとって、アルフォンス殿下は知人ではあるはずだ。その人を、手に掛ける。それは、デュークにとって、どれほど辛いことなのだろう。


 そんなデュークに、私ができること。そう、ただ、あなたを悲しませたりしない。私は、覚悟を決めて、再び文字を綴っていった。


『もし、この国がアルフォンス殿下に妖魔が取り憑いていると知らない状態でデュークがアルフォンス殿下を葬ったりしたら、国同士の大問題になって、デュークは責任を問われる可能性があるわ』


「………仕方ないだろ」


『そんなの嫌よ。簡単に諦めないで』


 私は殴り書きすると、キッと強い視線をデュークに送った。


『私は明日からも学園に行くわ。きっとアルフォンス殿下が近づいてくるだろうから、妖魔が取り憑いていることを暴けないか、情報収集する』


「っだめだ、シャルまで命張らなくていい」


 やっぱり止められた。デュークのことだから、もう学園に行かないで安全なこの部屋にいたほうが良いって言うんだろうけど。


 でも。ただ守られているだけなんて嫌だ。頭にあの光景が蘇る。子供の姿の妖魔の前で、デュークは全身を呪いに染められ、がくりと砂浜に膝をついて倒れた。あの姿は、もう二度と、見たくない。


 私だってデュークを守りたい。


 本当は、デュークの命だって賭けて欲しくないのだから。


『ほんとうにやるべき事を考えて。アルフォンス殿下に今最も接触しやすいのは私だよ』


「でも」


『使えるものは使って。それに、私だって、デュークに頼って欲しいし、役に立ちたい』


「っだけど、これ以上巻き込むわけには」


『私はあなたのなんですか!!???』


 ブチィ!と堪忍袋の尾が切れた気がした。なんなの!?巻き込みたくないって。私は目をカッと見開いた憤怒の形相で、ガリガリガリとハイスピードでボードに書きなぐった。


『私は他人ですか!?』


「い、いや……」


『じゃあデュークにとって私はなんですか!?同居人!?使用人!?部下!?』


「た……大切な人……」


『でしょう!?赤の他人じゃないわよね!?さっき好きって言ってくれたし、もう恋人同士ということでいいですかね!?」


「いい、です……」


『よかったわ赤の他人じゃなくて!それで!?大切な恋人の私が辛くて悲しくて痛くて苦しいときに、デュークに助けてって言わなかったらどう!?』


「………頼って欲しい」


『でしょう!?ほら、一人で何でもかんでもやろうとしない!』


 私はプンプンとしながら勢いよくペンを走らせ続けた。


『ということで、私は明日からもしっかり学園に行って、アルフォンス殿下に会ったら何か情報をゲットできないか話してみます』


「………っそ、そんなに直接、やり取りする必要あるか?」


『どうせ向こうからまた、よく分からないちょっかいかけてくるだろうし』


 そう言うと、デュークはなんだか随分と嫌そうな顔をした。


「………俺は……あまり、シャルにアルフォンスと接触して欲しく無い」


『でも、妖魔が人の身体から出ていってくれる手がかりだって掴めるかもしれないでしょう?』


 デュークはその文字を見て、ぐっと言葉を飲み込んでから、私を見た。なんだか、ものすごく嫌そうだけど。


 でも、もしかしたら、人魚の魔法でアルフォンス殿下から妖魔を引き剥がすことができるかもしれないと思ったのだ。ただ、仮に妖魔を身体から引き剥がせたとしても、魂が壊れているのだとしたら廃人になってしまう。最低でも、まだアルフォンス殿下の自我が残されていないといけないはずだ。それは、会話してみないと分からないだろう。会話しても分からないかもしれないけど。


『とにかく、接触さえすれば何か分かるかもしれないじゃない。……私はデュークが辛い思いをするのを、黙って見てるなんて嫌よ』


「………俺は、」


 デュークは何か言おうとしたのか、少し口を開いてから、もう一度口を閉じて引き結んだ。それが、デュークの心情を物語っているようで、辛い気持ちになる。


 デュークは、やっぱり優しい。私がアルフォンス殿下と接触して、危険な目に合うのが嫌なんだろう。甘い表情をされたり、抱きしめられたりするぐらいならまだしも、今度は攻撃をしてくる可能性だってあるのだ。


 だからこそ、心配なのだ。デュークにだって、もう傷付いてほしくない。私はもう一度ペンを走らせた。


『それに、そもそも本当に妖魔がアルフォンス殿下に取り憑いているかどうかも調べないといけないんだし。やっぱり何かしら接点を持つのが一番手っ取り早いはずよ』


「……っシャルに、何かしてくるかもしれないだろ!」


 珍しく焦ったように大きな声を出すデュークに、そんなに心配してくれるなんてと思いつつ、心を強く持って鋭い視線を投げ返した。


『そしたら守ってよ、俺の女に手を出すなって』


 そう殴り書きすると、デュークは目を見開いて私の方を見た。


『何よ、違うの?』


「…………いいん、だな?」


『いいに決まって』


 突然パシッと手を掴まれた。それから、おもむろにグッと身体を引き寄せられ、ぼふ、とデュークの胸の中に収まる。


 耳元で、デュークの息づかいが聞こえて、ドクンと胸が鳴った。


「………俺は……アルフォンスが、シャルに近づくだけで、嫌だった」


 耳元でデュークの囁くような声が聞こえた。それは妙に甘い響きを伴っていて、息が止まる。


「触るなって、近寄るなって、そう、言いたくて」


 まさか、そんな風に思っていたなんて。


 もしかして、さっき、あんなに嫌がってたのは―――嫉妬、なんじゃ。


 思ってもみなかったデュークの嫉妬心に気がついて、ドキドキと胸の音がうるさい。まさか、デュークが、そんなに……?


 デュークの息遣いと、少し掠れた低い声が、耳元で響く。


「――ずっと、シャルが……俺のだったらいいのにって、思ってた」


 デュークが、ギュッと腕に力を込めて、もっとしっかり私を抱きしめる。


「……独り占め、したかった」


 独り、占め……そう声にならない吐息で、その言葉を繰り返す。


「――アルフォンスが、シャルを抱きしめて、氷の刃から守っていたのを見て………何度も俺が隣りにいたらって、思ってた」


 あの時、そんな風に思っていてくれたんだ。じわりと心が熱を持つ。


「シャルの手を握るのも、抱きしめるのも、俺以外の奴には、させたくない」


 静かに耳元で響くデュークの声が、妙に甘さと切なさを含んでいて、息がうまくできない。


「俺の独占欲が暴走したら、怒ってくれていいから―――」


 そして、少し身体を離したデュークは、熱を持った縋るような眼差しで、私の目を覗き込んだ。


「俺のシャルに、してもいい?」


 じわりと、デュークの熱が私に移ったような気がした。ふわふわして、くらくらして。デュークの深くて甘い沼の中に落ちて、溺れてしまいそうだった。


 私はそんな沼のような甘い夢の中に迷い込んだような気持ちで、デュークの熱い瞳を見つめたまま、コクリと頷いた。


「……シャル」


 デュークの熱くて少し硬い手が、私を優しく抱き寄せている。


 コン、と額と額が合わさって、二人の前髪が混ざった。


「――もうアルフォンスには、触れさせないからな」


 ドキドキしながら、またコクリと頷く。


「他の男にも、触らせない」


 そう言って間近で私を見つめたデュークは、吐息のかかる距離で、とろりと熱を持った視線で私の瞳を捉えた。


 なんだかもう、私は胸がいっぱいで。でも、文字も書けないし、声も出せなくて。


 私は、溢れ出す気持ちを、そのまま吐息と一緒に吐き出した。


 ―――大好き


 そうして、間近なところにあるデュークの瞳をを見上げると、デュークはぴたりと時が止まったように、私の口元を見つめていた。


 まさか、今ので伝わった……?ほんのり首を傾げでデュークの様子を窺う。


「………やばい」


 そう呟いたデュークは、ゴン、とまた私と額を合わせた。


「これ、現実だよな」


 なんだそれ。おかしくなって身体を震わせる。


「………笑うなよ」


 拗ねたような声が聞こえて余計おかしくなってしまった。近い距離でデュークのため息が聞こえる。


「………全然、実感がない」


 何でそんなに信じられないのだろうか。不思議に思ったところで気がついた。


 私は、今もほとんど何も伝えられていない。


 声が出れば、もっと気持ちを伝えられるのに。デュークに、心配させたくないんだけどな。


 少し悩んで、私はそっと体を離した。


「……シャル?」


 そして、少し背伸びをして、不思議そうに私の名を呼ぶデュークの頬にチュッとキスをしてみた。


 どう、だろうか。


 少しは伝わっただろうか。


 慣れない事をして、いや、やり過ぎたかもなと急に恥ずかしくなってきて俯く。


 どうしよう、もう、デュークの顔が見れない。


 何も言わないデュークの事が気になるのに、顔を上げられないまま、ギュッとデュークの服を握る。


 少し、沈黙が流れて。それから、そっと頬にデュークの手が乗った。


 反射的に視線を上げると、デュークの綺麗な瞳が、間近にあって。頬の手が、滑るようにゆっくりと、後ろ髪に差し入れられた。


 ゆっくり、顔が近づいて、吐息が混ざって。それから、柔らかく唇が重なった。


 それはなんだか、思っていたよりもずっと優しくて。まるで私を壊さないように触れるデュークにとろけそうになりながら、ふわふわとデュークと唇を重ねる。


 少しして離れたデュークは、私の顔を見て嬉しそうに、幸せそうに柔らかく笑った。それから、また私をギュッと抱きしめて、頬にも優しくキスを落とした。


お読み頂いてありがとうございます!


珍しく攻め攻めなデュークさんでした!

「成長したなデュークよ……」とデュークの成長を暖かく見守ってくださった賢者のような読者様も、

「んなことよりアルフォンスだよ!?」とこの先の不穏な展開に手に汗握ってくれた優しい読者様も、

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