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1-21 入学

気分がノッてきた作者の深夜のもう一話投稿です!!!

『今日からですか!?』


「制服どころか教科書とノートに鞄まで届いてますね……」


「…………………」


 朝。いつもよりずっと早い時間。その日の朝食は、留学生として必要なもの一式と一緒に、怒涛のように運ばれてきた。


 ちなみに、ご丁寧にアルフォンス殿下からのメッセージ付きだ。『学園で君と学べるのを楽しみにしているよ』と美しい文字で書いてある。


『というか、デューク制服なんて着てたっけ?』


「……あるけど、着用自由だから着てない」


『そうなんだ』


「確か半分ぐらいの方しか制服を着ていないんですよね?新入生は殆どの方が着ていますけど、ぼっちゃまのような最終学年だと、特に男性の方々は窮屈がってあまり着ないと聞いています」


 なるほどと頷く。確かに着心地がいいかというと、パリッとした生地だし、リラックスはできなさそうだ。


 でもなぁと、残念な気持ちになる。


『デュークとお揃いの制服で登校してみたかったな』


「着る」


 予想と違う返事が即答で返ってきた。マーサさんが驚愕の表情になっている。


「ぼっちゃまが制服着るんですか!?」


「着るけど」


「あんなに息苦しいから嫌だって言って一回しか着てないのに?」


「余計勿体ないし、着たほういいだろ」


 当然のように言い放つデュークに、なんだか今度は申し訳ない気持ちになった。


『なんか付き合わせてごめん』


「…………そんなんじゃない」


 今度は何だか残念そうな表情になってしまった。デュークが、昨日からなにか変だ。どうしたんだろう………と思ったところで、昨日のアレを思い出してしまった。呆然としながらも爆睡して、朝からこの騒ぎで今に至るので、意識する間もなかったのだけど。目覚めた脳みそで急にリアルに実感してしまい、顔が熱くなってきてしまう。


「シャルロッティさん」


 ツンツンとマーサさんが私をつついてきた。ハッとしてマーサさんの方を見る。


 マーサさんは、ちょっと貸してくださいと言って、ボードを指さした。何だろうと首を傾げながら、ボードとペンを差し出す。


『こういう時って、ごめんじゃなくて、ありがとうの方が嬉しかったりしません?』


『確かに』


『ね、ぼっちゃまにありがとうって笑顔で言ってあげて下さい。ぼっちゃまは多分、シャルロッティさんを喜ばせたくて制服を着るって言ってるんですから』


 それを見て、あ、と心の中で声を上げる。


 そうだ。知ってたじゃないか。デュークはなんだかんだ優しいんだって。


 こんな風にぶっきらぼうな言い方だから分かりにくいけど……これはきっと、照れてるんだろう。


 私は少し考えてから、また文字を書いてデュークに見せた。


『デュークとお揃いの制服とかなんかいいね』


 そしてものすごく簡単に、制服を着た二人の絵を書いてみた。幼児の絵のようなそれに吹き出しそうになりながら、絵の上に『ありがとう』とコメントを追加してデュークに見せる。


 デュークはそれを見て、またあの少年のような嬉しそうな笑顔になり、ぷっと吹き出した。


「何この絵」


『制服着た私とデューク』


「下手すぎるだろ」


『雰囲気が分かればいいのよ!』


「お前の顔歪んでるけど」


 確かに勢いで書いたその絵は、なんだかひしゃげていた。


『リアルがこんなに可愛いんだから大したことないでしょ』


 バカにされたのがちょっと悔しくて大きく出てみる。正直、制服を可愛く着こなすなんて、できる気がしないけど。


 これから着替えるから、マーサさんに手伝ってもらわなきゃと頭を切り替えた。


「……そうだな」


 デュークから肯定の言葉が聞こえてきた。何の話だっけと首を傾げる。


「何だよ、お前が言ったんだろ」


『何を?』


「リアルが可愛いって話」


 その言葉に、ピタリと動きを止める。


 可愛い?何が、だっけ……


 恐る恐るデュークを見上げて首を傾げる。デュークは、ちら、と私を見た。


「………なんだよ」


『え、何が可愛いの?』


「……………お前」


『私が?』


「………………シャルの、そういう変な絵書いたりとか、表情豊かな所とか……結構かわいい」


 ガタンとボードが手から滑り落ちた。私は今何を聞いたのだろう。からかわれているのかと思ってデュークを凝視するが、プイと背を向けられてしまった。


「……ほら、着替えてこい。今日から学園に行くなら、もう準備しないとだぞ」


 呆然としながらコクコクと頷く。デュークは、じゃあ後でと私の頭をわしゃっと撫でると、また別室へと行ってしまった。ポカンとその背中を見送る。


「シャルロッティさんー!着替えますよー!」


 いつの間にか遠くにいたマーサさんが私を手招きしている。私は赤くなった顔をパタパタとあおぎながら、制服を抱えてマーサさんの元へ向かった。



 ………で。慌ただしく出発の準備を整えた訳だけど。


 私とマーサさんは、部屋から出てきたデュークに、また目を丸くした。


 デュークが爽やかな感じの学生になっている。そしていつものけだるげな感じが、微妙に色気を出していて目に毒だ。


「……なんだよ」


「いえ……ぼっちゃまはてっきり、適当にボタン全部閉じて野暮ったい感じに制服を着てくるんだろうなと思ったんですが」


「流石にそんな格好の奴はいない」


「まぁ……ええ、そうですね……やっぱりぼっちゃまは素材は良かったと………」


「『素材は』とはなんだ、マーサ」


「ホホホ、すみません。マーサはぼっちゃまがオシャレに目覚めてくれて嬉しいですわ」


 マーサさんが嬉しそうに笑うのを眉間にシワを寄せて眺めたデュークは、ため息を吐くと手を差し出した。


「遅れる。行くぞ。今日入学手続もするんだろ」


 そうだった。コクコクと頷いて、流れで差し出されたデュークの手を取る。


「じゃあ行ってくる」


「ふふ、行ってらっしゃいませ〜!」


 なんだかとてもにこやかにマーサさんに送り出されてしまった。頭をかしげながらデュークとともに外に出る。


 朝の潮風はまだひんやりと冷たくて、サァっと私達を掠めるように気持ちよく流れていった。


 気持ちいいね、と知らせようとして文字が書けない事に気が付いた。


 手が、繋がれている。


 そうだ、さっき手を差し伸べられて、流れで掴んでそのままだった。優しく握られてるのに、妙にしっかりとしたデュークの手が、男の人の手に感じてしまってソワソワとする。


「……あぁ、ごめん、文字が書けないか」


 その言葉に、どっと力が抜けた。デューク朝苦手だもんね。きっと寝ぼけて手を繋いだままだったんだろうと納得した。


 が、手は離されなかった。変わりにボードを差し出された。


「ん」


 私の右手はペン。デュークの左手はボード。そして残りの手は繋いでいる。


『なんでデュークがボード持つの?』


「だから、こうしないと書けないだろ」


『手離さないの?』


「は?ダメだろ。危ない」

 何故か即全否定された。そして危ないって何。よくわからず首を傾げる。


「………お前、これからどこ行くか分かってるの」


『学園』


「そう。なんたってこの国の学園だからな。あんな獣のような男ばっかりの場所にノコノコ出かけてみろ。一気に群がってきたらどうするんだ」


『獣!?一気に!?』


「一人のときもあれば集団のときもあるだろうな」


 信じられない話を聞いて気を引き締める。この国は欲深い行いばかりで、そんな獣のように襲いかかってくる恐ろしい人々がいるとはおもわなかった。


『襲いかかって来たら蹴ってもいいのかしら』


「酷いことをしてきたら金の玉を蹴ってもいい」


『そんな反則技を!?』


「先にルール違反してきたのは相手だからいい」


『ルールを破る前提なのね……』


 何ということだろう。こんなに恐ろしい国だとは思わなかった。でも、ここまで来て負けるわけにはいかない。私は闘志を燃やした。


『大丈夫、護身術ぐらいはできるわ。この身体でやるのは初めてだけど』


 馬車に乗り込み、窓から見える爽やかな朝の海を眺めながら決意をデュークに伝えると、デュークはじっと私を見てから、真面目な表情で私に伝えた。


「……なんかあったらすぐ呼べ」


『私叫べないから無理でしょ』


「その指輪に向かって、心の中で叫べば大丈夫」


『指輪に?心の中で?』


「それは魔道具だ。身体の魔力の流れはしっかり察知するようにできてる。お前の微細な魔力でも、心の中で指輪に意識を向けて叫んだり、そうじゃなくても強い恐怖心が生まれれば俺にもわかるようになってる」


 なるほど。自分の魔力はあまり感じたことは無かったけど、デュークがそう言うならできるんだろう。とりあえず試しに、指輪に向かって心の中で思いっきり、デュークのばーーかぁぁぁぁと叫んでみる。


「………悪口叫ぶな」


『何叫んだかまで分かるの!?』


「魔力で分かるわけ無いだろ。お前の分かりやすい表情だ」


『申し訳ございません』


 可笑しそうに笑うデュークは、なんだかちょっとご機嫌そうだった。お揃いの制服でふざけ合うなんて、本当に学生みたいだ。


 そうして遂にやってきた学園。想像していたよりも立派な門構えに少しビビりつつ、デュークの手を取り馬車を降りる。


「とりあえず入学手続だな。あっちの―――」


「おはようシャルロッティ。あとデューク」


「………おはようございます」


 振り返ると朝日の中で金髪をキラキラとさせたアルフォンス殿下が笑っていた。


「シャルロッティ、似合うじゃないか制服。すぐに手配して良かったよ」


『素敵な制服をありがとうございます』


「こちらこそ着てくれてありがとう。私が贈ったものを着てくれて感無量だよ。ねぇデューク」


「……素早いご対応ありがとうございました」


「ふふ、いいよ。じゃあ行こうか」


 そう言うとアルフォンス殿下は私の手を取ろうとした。……のを、デュークが間に身体を滑り込ませて止めた。


「あれ、ダメだったかな?」


「お戯れはおやめ下さい殿下」


「別にふざけてないよ?」


「余計ダメです」


 デュークは一歩も引かない。私は助かったと思いながら、デュークの背に隠れて二人の様子をうかがう。


「厳しいなぁ……まぁいいや、早く行こう。あまり時間ないよ?」


「殿下はご一緒じゃなくて大丈夫です」


「やだなぁ。僕が学長にお願いしたんだから、一緒に行かなくちゃ」


「もう話が通ってるのに必要ありますか?」


「礼儀だよ礼儀」


 デュークの背中からイラッとした何かを感じる。やばい、これこそ国家間の危機だろうか。そんなに争うような事はないと思うんだけど。


 私はもう面倒になってきて、ボードに書いた文字を見せた。


『もうみんな一緒に行きましょう?』


 そうして連れ立って学長室へ行き、なんとか手続きも済んだわけだけど。



 手続きを終わらせて一息ついた学園のカフェテリア。マーカスさんと合流すると、マーカスさんは面白そうににやにやと笑った。


「いやーー面白かったな、朝から」


「見てないで加勢しろよマーカス」


「いやいや余計ややこしくなるから」


 デュークが心做しか不機嫌だ。そして、新参者が珍しいのか、ものすごく視線を集めているようで居心地が悪い。


『すごく見られてる気がするんですが、私そんなに珍しいですか?』


「いや、そうじゃなくて。聞いてない?朝のアレが皆になんて噂されてるか」


『噂?』


「青い目の美しい女子留学生が、王太子殿下と謎のイケメンをはべらせて学長室に乗り込んだ。きっと女は魔女だろうって」


『魔女!?』


「あれだけ目立てばねぇ……」


 確かに朝から学園の豪華なエントランスでかなりの注目を集めたのは自覚がある。でも魔女って。


『そんなにオドロオドロしい雰囲気は出してないつもりだったんですが』


「いや、キモい魔女じゃないからね?美魔女だよ、シャルロッティちゃん」


『お上手ですねマーカスさん』


「いや、本当に分かってないみたいだけど、これお世辞とかじゃないからね?今君たち注目度大だから本当に気をつけて。シャルロッティちゃんも………デュークも」


 マーカスさんが横目でデュークを見ると、デュークは相変わらず不機嫌そうな様子で眉間にシワを寄せた。


「俺は別に何もないだろ」


「お前、俺の話聞いてた?」


「聞いてた。シャル、そんなに注目集めてるんならやっぱり同じ授業を受けよう」


 そう私を説得するように言うデュークだが。魔術は前世でも殆ど使えなかったのだ。ムリムリと首を横に振る。


「大体、お前普段殆ど授業受けてないだろ………」


 マーカスさんが呆れたように言うと、デュークは不機嫌そうに言葉を返した。


「今更受ける必要ないだろ」


「内容はそうだろうけどさ……今日、お前があの男は誰だって言われてんのは、ちゃんと顔覚えられていないせいだからな?素材はいいんだから普段からそうしてりゃ良かったのに」


「お前もマーサみたいに素材素材言うんだな」


「国では周知の事実だろうよ………」


 再び話に出た素材話が気になった。確かに、ちゃんと身綺麗にしたデュークはとてもかっこいい。


『もしかしてデュークは美形の血筋だったりするんですか?』


 二人がハッとしたように目を合わせた。何だろうと首を傾げた私に、マーカスさんはいつもの調子になって、にこにこと教えてくれた。


「そう、こいつのパパもお兄ちゃんも凄い美形なんだよ。だからデュークも磨けば光るのに、磨いても面倒くさがってすぐ元のむさい男に戻る」


『髪切らないとか?』


「そうなんだよ〜こいつ癖っ毛でしょ?ワカメの中に男がいるみたいになっちゃうからさ……」


 出逢った頃のデュークを思い出して、あれかと笑ってしまった。確かに一般的にはかっこいいとは言われないだろう。モジャモジャの黒猫みたいで可愛かったけど。


「これからはちゃんと切るよ」


 デュークがボソッとそう言った。マーカスさんがびっくりしたようにデュークを凝視する。


「は!?ほんとに!?」


「そう言ってるだろ」


「シャルロッティちゃん効果すげぇ……」


「そんな事よりそろそろ授業の時間だ。シャル、送ってくから行こう」


 それはありがたいと、コクコクと頷いてデュークの手を取る。デュークは、ほんのりご機嫌な様子で私の手を引いて立ち上がらせた。


「デュークお前その顔………俺なんか胃もたれしてきたんだけど」


「そうか。帰って寝ろ」


「冷た…………じゃあシャルロッティちゃん、頑張ってね授業」


 マーカスさんは手をプラプラと振って別方向へ行ってしまった。デュークをちらりと見上げる。


「ん?」


 何のことないその自然な顔が妙に甘く感じて、心臓が跳ねて慌てて目を逸らした。なんとなくだけど、この間からデュークの様子が何か違う気がする。


 そうして混乱しているうちに、あっという間に教室に着いてしまった。


「じゃあ……何かあったら呼べよ。必ず」


 分かったとコクコクと頷くと、デュークは心配そうな表情で私の頭をポンポンと撫でて、行ってしまった。


 遂に一人になった。ドキドキしながら振り返って教室の中を見る。


 農学部の一限目の授業。そこにはびっくりするほど筋肉隆々の、そして鋭い目つきでこちらを睨む、こんがりと日に焼けた男たちがいた。


お読み頂いてありがとうございます。

いいねブクマして下さった方ありがとうございました!

モチベ爆上がりです!!!


短期留学性になったシャルのクラスメイトはゴリマッチョたちでした……!

「イチャイチャからの落差がww」と笑ってくれた素敵な読者様も、

「マッチョたちの金の玉が危ない!?」と健全男子の未来を心配してくださった優しい貴方も、

いいねブックマークご評価なんでもいいので応援頂けると嬉しいです☆彡

ぜひまた遊びに来てください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] シャルがきっぱりと、デューク一筋なところが良いです。 [気になる点] アルフォンス殿下が不穏・・・ [一言] シャルさんが、甘言に騙されないよう、祈っております。
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