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13/30

1-13 夜の本屋

本日も連投中!

「ちょっとだけ寄っていっていい?」


 花の苗を買ってホクホクの帰り道。予約していた本をついでに受け取って帰りたいということで、馬車は街の本屋の前で止まった。


 日が暮れたばかりの夜の街はまだ賑やかで、沢山の人が行き交っている。キラキラと光る街の灯り。その街の中心にある大きな本屋は、柔らかなオレンジの光を灯して、私達を迎え入れてくれた。


『すごい、大きい本屋だね』


「あぁ、この国で一番大きいらしいよ。珍しい本も取り扱ってて―――」


「デューク?」


 ふと、可愛らしい声がデュークを呼んだ。振り返ると、綺麗なブロンドの髪の毛を丁寧に編み込んだ、育ちの良さそうな若い女の人がいた。こちらをびっくりしたような顔で見ている。


「やっぱりデューク!ビックリしたわ、いつ髪切ったの?」


「あぁ……数日前に」


「まぁ、もうそんなに時間が経ってるの?あなた全然学園に来ないんだもの。そんなに雰囲気変えたのなら、命の恩人に一声ぐらい声かけてくれてもいいのではなくて?」


「髪切りましたってわざわざ言うのか?」


「何でもいいのよ!とにかく声かけなさいってことよ」


 ちょっと拗ねたように笑うその表情が、とても可愛らしい。そして、口調からしてこの国の貴族のお嬢様なのだろう。


 多分、私は混ざったらいけないやつだ。そう、自分に言い聞かせて、そっと気配を消すように、後ろに下がる。


 すると、背後で様子を見ていたご令嬢の付き人の方が、にこやかにご令嬢に話しかけた。


「カリーナ様。先程の件、デューク様に選んで頂いたらどうですか?」


「あら、それはいいわね!ちょうど植物学のレポートで追加の参考図書を探していて。もし時間があればお願いしたいのだけど……」


 そうして、ちらりと私の方を伺われる。


 わかってる。この視線は、お前は誰だという表情では無い。デューク様の予定は空いているのか?という、付き人への視線だ。


 私は、微笑みながら、サラサラと小さなボードに文字を書いて、デュークに見せた。


『待っていますから、探して差し上げてください』


「いや、でも」


 戸惑うように否定の言葉を口にしようとするデュークに、また文字を綴って、少し強い視線で主張する。


『お世話になった方なんでしょう?』


「………見えるところにいろよ」


 不安げなデュークに、コクリと頷く。使用人に配慮させるわけにはいかなかった。二人からそっと離れるように距離を取る。


「デューク、本当に都合大丈夫だった?ごめんね、そんなに難しくないと思うけど」


「……いや、悪い……なんの課題?」


「これなんだけど………」


 二人が話しながら本棚の中へ入っていくのを眺める。カリーナ様、と呼ばれたその人は、きれいな所作で、嬉しそうにデュークと本を手に取っている。


「すみませんね、急に予定外のお願いをしまして」


 カリーナ様に付き添っていた二人女性が、私の側にやってきた。申し訳無さそうなその顔に笑いかけると、サラサラと文字を書いて見せる。


『大丈夫です。お気遣いありがとうございます』


「……あぁ、そうでした。声が出ないのでしたね」


「デューク様のところで働かれているということで、お優しい方のところでお仕事ができて良かったですね」


 代わる代わる話しかけてくる侍女のような女性二人に相槌をうつ。二人とも、にこやかに話を続けた。


「カリーナ様は、お声が出ないメルルさんを働かせてあげて、やはりデューク様はお優しいと感動されていましたよ」


「皆様、他国の魔術には慣れないのでデューク様を敬遠される方が殆どですが。カリーナ様は以前から、お優しいデューク様を慕ってらっしゃいますからね……」


 チクリと胸を指すようなその言葉を、微笑みながら頷いて受けとる。二人は満足そうに話を続けた。


「少し前の話ですが、砂浜で倒れているデューク様を見つけた時には肝が冷えました。あの時のカリーナ様の慌てようといったら……」


「急いでお屋敷に運んだのですが、デューク様は高熱を出してしまって。カリーナ様が寝ずに看病なさったのです。デューク様が言うには、妖魔に襲われて死にかけていたそうなのですが。カリーナ様は看護の知識もお持ちですし、献身的な看病をなさって。それで、デューク様はお元気になられたのですよ」


 デュークの呪いを解いたあの日。朝日が登って、デュークを見つけてくれたのは、この人たちだったのか。熱を出していたと聞いて、すぐに見つけてもらって良かった、と思う。


 それなのに、胸が痛むのは、どうしてだろう。


 そんな気持ちは間違っていると、心のなかでふるふると頭を振る。


「わたくしたちは、そんなお二人に早く幸せになって欲しいなと思っているのです」


「カリーナ様は王妹殿下のご長女、デューク様は国王様の近縁の由緒ある家のご子息と聞いております。お二人共、王家の血筋が交じる家柄ですし、家格もぴったりですしね」


 やっぱり、デュークは高貴な家柄の人だった。少し遠くでカリーナ様と二人並ぶその姿が、なんだか遠くに感じた。


「メルルさん、良かったらご協力くださいね?」


 そうにこやかに言う二人に、私も努めて穏やかな笑顔で頷く。そして、何か文字を書こうと思ったのだけど。


 上手く書ける気がしなくて、結局そのまま笑顔で誤魔化した。


 二人は、そんな私の微笑む様子に安心したのか、ほっとした表情をした。


「良かったですわ。心配したんですよ、レオナルド様の次は、デューク様に乗り換えられたのではと……」


「まぁ、お止めなさい。デューク様はそのようなふしだらな事はされませんよ。弱者の雇用を守られている、献身的な優しさを穢してはなりません」


「すみません、そうですよね……配慮が足らず申し訳ございません、メルルさん。何かお困りごとがあれば、ぜひ私達にもお声がけ下さいね」


 その言葉に、私はまた笑顔で頷いた。


 次いで、本を手にした二人が、本棚の間からこちらに向かってきた。


「ごめんなさい、お待たせしてしまったかしら。無事に目的の本は購入できました。メルルさん、急に申し訳ございません。お時間を作って頂いてありがとうございました」


 ただの側仕えの者に対して、丁寧に謝罪をするカリーナ様は、とても良い方なのだろう。


 私は、とんでもございませんと言う風に首を振ってから、また笑顔で頭を下げた。ホッとしたような様子のカリーナ様は、デュークに笑いかけると、お時間ありがとうと言って二人の侍女風の女性たちと去っていった。


「ごめん、待たせた。俺らも帰ろうか」


 そうだね、という風に笑って頷いて、デュークと本屋を出る。同じ馬車が待っていて、先に乗ったデュークが、私に手を差し出してくれた。


 その差し出された手を、本当に取っていいのかと躊躇する。


「……シャル?」


 ハッとして手を伸ばすけど。やっぱり触ったらいけない気がして、手を止めた。


「……………帰るぞ」


 少しの間を置いて、デュークの手が、宙で止まったままの私の手を掴んだ。それから馬車にグイッと引っ張り上げられる。


 そのまま柔らかな座席に、ぽすんと座らされた。


「どうした?……疲れた?」


 気を遣わせてしまったことに気がついて、ふるふると頭を振った。でも、どうしていいか分からなくて。気持ちがずっと乱れたままで。


 私は少し呼吸を整えてから、ペンを手に取った。


『やっぱり、ちょっと疲れたかも』


 小さなボードにそう書いて、デュークの方にその顔を見ないまま差し出す。デュークはそれを見て、少し間をおいてから、心配の滲む声で言葉を返した。


「着いたら起こすから、ちょっと寝とけば?」


 この落ち着かない気持ちの中、その申し出はとても有り難かった。


 私は素直に頷いて、デュークの顔を見ないまま、逃げるように目を閉じた。


お読み頂いてありがとうございます!


やっぱりデュークを助けた美女が現れました(´;ω;`)

「っくそー!シャルが助けたのにぃぃ!!」とハンカチを噛み締めてくれた優しい読者様も、

「おいデューク、ヘタれんなもっと攻めろ」と荒ぶってくださった攻めモードな貴方方も、

いいねブックマークご評価なんでもいいので応援頂けると嬉しいです☆彡

ぜひまた遊びに来てください!

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