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1-11 部屋の外

「いやーまさかデュークに髪を切らせるとか。流石だねシャルロッティちゃん」


 数日後。また部屋にやってきたマーカスさんは、なぜだか感動の面持ちだった。


「こいつね、昔から髪切るの嫌いだったんだよ。ズボラというかなんというか。だから、大事なイベントがある時に渋々切らせるしかなかったんだけど。まさかこの何でも無いタイミングで切ってくれるなんて、親友としては最高に嬉しいよ」


 来て早々にペラペラと話し始めたマーカスさんは、今度はデュークの肩に腕を回してニヤリと微笑んだ。


「で、どういう心境の変化?」


「そんなに妖草が好きならお前の部屋に送りつけてやろうか」


「悪かった。とても似合うよデュークくん。そう、髪なんて突然切りたくなるものだよね」


 突然手のひらを返したマーカスさんは、そう言うとデュークと距離を取った。本当に妖草が苦手なようだ。その様子がおかしくて思わず笑ってしまう。声は出ないけれども。


 そんな声を出さずに笑う私を見て、マーカスさんはニコニコと嬉しそうに笑った。


「まぁ、とにかくこうして超超超久しぶりにデュークが身なりを整えてくれたわけだし、こんなとこに籠もってないで、ちょっと二人で出かけてきたらどうかな?」


「……あまり危ないことはしたくない」


「なに、まだ妖魔のこと気にしてるの」


 その言葉にハッとする。そう、デュークは子供の姿をした人ならざるもの――妖魔に襲われていたのだった。デュークを呪ったあの妖魔は、まだ近くにいるのだろうか。


 デュークの様子を窺う。デュークは、硬い表情のまま、静かに口を開いた。


「ここにいるなら安全だ。でも、俺の結界が無い場所で一緒に襲われたら、シャルを守りきれるか分からない」


「そう。んじゃ、俺がシャルロッティちゃんのこと外に連れてってあげようか」


 ニコニコと私に笑いかけたマーカスさんは、次いでデュークの方を向くと、悪い笑顔でニヤリと笑った。


「何だよ。不満か?」


「……国に婚約者のいる男が他の女と二人で連れ立って歩くのは良くないだろ」


「あぁ。婚約者ね。俺ら、婚約解消したから」


 何のことなく飛び出したその言葉。デュークも初耳だったのか、驚愕の顔をしている。


「な……んで、急に」


「別に俺らの国じゃ珍しい話じゃないだろ。俺がこっちに留学している間に他に好きな男ができたんだとさ。泣きながら謝られたよ。でも、別にどうってことない。俺もこっちに好きな女がいるからね」


「は…………?」


「あぁ、断じて不貞はしてないよ?好きだなと思ってただけだ。諦めるつもりだったけど」


 そして、マーカスさんは、デュークを真面目な顔でじっと見た。


「―――こうなったらもう、俺は諦めないから」


「なに、言って……」


「は、簡単に狼狽えんなよ。で?どうすんの?俺がシャルロッティちゃんのこと外に遊びに連れてってもいい?」


「………なんで、お前が」


「デュークが連れてかないからだろ?」


 マーカスさんは、挑発するような顔で間近でデュークの顔を覗き込んだ。


「大体さ。妖魔に目をつけられてるお前と一緒にいる奴らが、みんな危険にさらされるってんならさ。この場所以外で会ってる学園の奴らも、お前を慕ってる奴も、俺や城の奴らだって、みーんな危ないんだよね。シャルロッティちゃんだけここに特別に閉じ込めておく理由なんてある?」


「……レオナルド王子もシャルを狙ってるだろ」


「お前この間完璧にやり込めたじゃん。それこそ俺よりお前の方が安心だし、やっぱりここに閉じこもる理由にならなくない?」


 そして黙ったデュークに、ニヤリと悪い笑顔で笑いかけた。


「別に誰もお前にオシャレなデートして来いなんて言ってないし求めてないから。そんなんされても困るだろ?ねぇシャルロッティちゃん」


 デュークがオシャレなデートを!??確かにそれはちょっとどうしていいか分からないし私もオシャレなお店とか慣れてないし困る。


 ていうか、突然デートとは何事か。間違いなく泡になって死ぬ。


 それはいかんと慌てながらコクコク頷くと、マーカスさんはにこりと笑った。


「だよねぇ。大丈夫、そんな二人の初お出かけにピッタリの、素敵な提案をしてやろう」


 そう言うと、マーカスさんはぴらりと一枚のビラを手渡してくれた。


『ビオラルのお花の品評会』と書いてある。詳細を見ると、新しい花色や形の育成種の他に、痩せた土地でも育つ強健な種類や土壌改良用の品種、食用の品種もあるようだった。


「ほら、珍しい品種の花とか展示するって書いてある。温室好きならこういうの好きなんじゃん?シャルロッティちゃん」


 正直に言おう。めちゃくちゃ好きだ。ぜひ行きたい。


 若干の期待と共に、デュークをちらりと見た。


「ほらね?デューク、連れてってあげなよ」


「…………絶対に俺から離れるなよ」


「っおおう、待て、ちょっと刺激が強いから後は二人でやって」


 そう言うとマーカスさんは、じゃあそういう事でと口走ると、何故か風のように去っていった。


 ポツンと二人残される。


 品評会のチラシを再び見る。とても行きたい。だけど………


 やっぱり負担をかけてしまっただろうかと、申し訳無さと少しの胸の痛みとともに、ボードを手に取った。


『無理しなくていいよ?』


 そう、私はただの、デュークに雇われている身なのだ。デュークには、私を遊びに連れて行かないといけない理由も義務もない。少しの夢を見させてもらったなと思いながら、ペンの続きを走らせる。


『私が人魚なのがバレるのも心配してくれてるんでしょ?大丈夫、ここに居るだけでもちゃんと楽しいから。匿ってもらってる身だし、第一雇われの身なんだから、』


「―――違う」


 否定する声が聞こえて顔をあげる。デュークは、何だか申し訳無さそうな顔をしていた。


「……ただ、俺が出かけるのが苦手だっていうだけだ。確かに、シャルが人魚だとか、妖魔が心配というのもあるけど………ほとんど言い訳だ」


 言い訳……?掴みきれずに首を傾げる。でも、デュークが嫌なことを無理やりやらせる理由はない。


『お出かけが好きじゃないなら、なおさら無理に行かなくても』


「いや、行こう。マーカスの言うとおり、俺が一緒にいて人魚のシャルを守れるなら、シャルがここに閉じこもる必要性は無い」


『いいの?大丈夫?ほんとに、無理し――』


「無理してない。……俺もシャルと行きたい」


 その言葉に、ドキリと胸が跳ねた。デュークを見ると、デュークは少し照れたように目を逸らした。


「少し準備しないといけないから、今すぐは無理だけど……明後日でいい?」


 コクリと頷くと、デュークはじゃあ明後日な、と言ってどこかへ行ってしまった。


 一人部屋に取り残されて、ぽす、とソファーに座る。それから、頭を抱えた。


 ―――俺もシャルと行きたい


 じゃなあぁぁぁぁぁいぃぃぃぃ!!


 だめだだめだと頭を振る。それなのに、頭の中ではさっきのデュークの声がこだまし続けている。


 本当に、勘弁して欲しい。田舎王女の私は耐性無いんだから。


 そう、何たって―――ちょっと優しくされただけでバカみたいに期待して、傷ついた挙げ句、処刑されたんだから。


 ちゃんと、学ばないと。そんな美味しい話なんてない。こんな、土いじりが好きな跳ねっ返りの田舎娘に本気の愛を囁く人なんて、そうそう現れやしないのだから。


 ズキリと胸が痛む。この痛みは、海の魔女の魔法の影響なのか、それとも呪いの残渣の痛みなのか。


 私はその日、自己暗示をかけるように、胸の痛みを抱きしめて眠りについた。


お読み頂いてありがとうございます!


「そんな美味しい話があるんだな」とドヤ顔して下さった読者様も、

「俺もお前と行きたい…って言われたい」と妄想が膨らんだお友達になれそうな貴方も、

いいねブックマークご評価なんでもいいので応援頂けると嬉しいです☆彡

ぜひまた遊びに来てください!

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