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赤毛の子

「何をしているのだ?」


 教会神判の日。

 赤毛はマリアの股ぐらを覗く老人をみて首を傾げた。

 マリアの想像する以上に、赤毛は近くにいたのだ。

 具体的には気配を消し、マリアが神判を受けている天井の裏に。

 

 パールサの教会の総本山となる聖堂教会は、その権威を象徴するかのようにギルモアの居城の隣に位置していた。

 身を聖水で清め、裸身の上に真っ白な絹のローブだけをまとったマリアは、教会のもっとも深奥にある窓の無い個室に通されていた。


 窓の無い個室である以上、マリアの身を案じる赤毛としては、ここ(天井裏)しか居場所がなかったのだ。

 その個室には教皇とギルモア、マリアの着替えを手伝っていた修道院長の3人がいる。


 マリアは、教皇の前で祈りを捧げたあと、部屋の中央に用意された寝台に静かに横たわったのだ。そして羞恥に耐えながらもゆっくりと両脚を開いた。


「ふむ、間違いありません。マリア様の身は清いままです。神の名のもとに立証します」

「よかった」

「ですが!」


 覗き込んでいた教皇が顔を上げ、ギルモアにそう告げた言葉に続いて、修道院長が被せるように口を開いた。


「恐れながらギルモア閣下。マリア様は妊娠しておられます」

「馬鹿な」

「なんだと……」


 処女であることを確認した教皇と、その言葉を聞いて安堵していたギルモアは、修道院長を唖然としてみつめた。


「何を根拠に?」

「先ほど、事前の検査で下腹部を確認しました。脈とは別に心音がします」

「馬鹿な……」


 ギルモアと教皇が慌ててマリアのローブに包まれた下腹部を見る。

 特に膨れてはおらず、外見からは妊娠の兆候はわからない。


「そもそも心音など、こんな段階からわかるものなのか? 間違いではないか?」


 ギルモアの疑問に修道院長は首を横に振った。


「わかりませぬ。ゴブリンの生態など知りませんから」

「修道院長!」


 ゴブリンの子を宿したとでも言うような修道院長の言葉を教皇が止める。

 状況が状況なだけに、教皇と修道院長にはギルモアからマリアの逃避行について説明がされていたのだ。

 だからこそ、これから帝位に就こうという者に対する教会神判は機密性をもって実施された。


「修道院長は教皇が下した教会神判を否定するのか?」

「ですから、私にはわかりませぬ。事実としてマリア様は妊娠されています。処女であることが証明されることと、どう矛楯無く説明できるのか。神ならぬ身にはわかりかねます」

「教皇! どう考えればいいのですか!」


 3人は多少ヒステリックに会話を続けた。

 だが当事者のマリアはそれどころの心境ではなかったのだ。


(まさか、あの時)


 そしてマリアは、赤毛と抱き合った際に下腹部に飛び込んできた光を思い出していた。


(あれが子種? ここにワンさんの子供が? でも一度もそういうことは……どういうこと?)


 混乱したマリアは、ふと赤毛の気配をどこか近くに感じ慌てて起き上がろうとしたが、神判を受けるという精神的疲労と突然起き上がったことで貧血を起こし、そのまま意識を失ってしまった。

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