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ゴブリンの総意

「東ならあっちだ」

「お世話になります」


 出発しようにもマリアは現在地の正確な位置も解らず、また目的となるパールサまでの行き方もはっきりとしなかった。


 そこで赤毛はマリアにパールサの場所を確認した。

 それによると目指すパールサはフラート帝国の東端部の街であった。

 

 幸いにも赤毛は星や太陽の位置を見ることで正確な方角を知る知識があった。

 大勢の非常食と語り合ったことは無駄ではなかったのだ。


「まっすぐ東に向かえば、海という塩水の水溜まりにぶつかる。そこまでいけば、どっちに行けばいいかわかるか?」

「海は水溜まりでは……でも、海に出ればわかります。右です。それに人が住んでいる街に行けば、詳しい場所なども……ただ……」

「ただ?」


 赤毛の問いにマリアは言い淀んだ。

 だが隠しても仕方ないのだろう。


「私は命を狙われています」

「命? 命とはなんだ?」

「命は命です。命が無くなると死にます」

「死ぬとマリアはどうなる?」

「いなくなります」

「大変だ!」


 赤毛は慌てて周囲を見合わす。


「おい、お前たち! マリアの命を狙っているのか?」

「ゲチャ! ゲチャ!」


 ゴブリンたちの声がかなり遠くから聞こえる。

 赤毛の動きに危機を感じたのか、一斉に遠ざかったのだ。


「マリア、ゴブリン(おれたち)は命を狙わない」

「いえ、あなたたちではなく、私の命を狙っているのは人間です」

「人間? 人間がなぜマリアの命を狙う? 人間はマリアのおれたちではないのか?」

「オレタチ? すみません。わからない言葉でした。人間同士という意味でしょうか?」

「人間同士? マリア、意味が分からない」


 マリアと赤毛は顔を見合わせ、お互い首を傾げる。


「その話は置いておきましょう。私たちは帝都アッカドから逃げてきました。キュロス陛下が弑逆(しいぎゃく)され、その血筋である王子、王女たちも殺されました」

「わからないが、わかった」

「ええ、そうですよね。先を続けます。私はパールサの藩王ギルモア・ベレスフォードの娘なのです。ベレスフォード家は、先々代皇帝の血筋であり、キュロス陛下とは遠縁になります」

「……わかった」

「わかっていないですよね」

「ごめん、マリア。わからないけど、覚えた。マリアは皇帝の遠縁でパールサの藩王の娘」

「そうです。私は去年からキュロス陛下の後宮へ入っておりました」

「そうか」

「そこで将来の妃になるべく、パールサから一緒にきたエレンたちとともにジュリエッタ先生に、作法などを学んでおりました」


 赤毛は後宮がどんなところかも理解していないが、知識としては皇帝と紐付く建物であり、そこに人間の雌が多く住んでいることを知っていた。


「叛乱が始まってすぐ、私はジュリエッタ先生たちとともに後宮から脱出しました。護衛もいたのですが、追っ手に追われ散り散りになり、やむを得ず森に入ったところ、ゴブリンに襲われたのです」

「誰がマリアを襲ったのだ!」


 赤毛は顔に結果を浮かべ、怒りの形相で周囲を見回す。

 さきほどより更に遠くから「ゲチャ! ゲチャ!」とゴブリンたちの声が聞こえてくる。


「いえ、私を襲ったゴブリンはもういません」

「そうか」


 早々に赤毛によって肉塊になっていた。

 そしてその死体もすでに別のゴブリンの腹の中だ。


「私はなんとしても生き延びて、アッカドでおきた悲劇をお父様に伝えなければなりません。そして陛下の仇を……」

「わかった。マリアはパールサに行く。俺は一緒に行く。なんの問題も無い。方向も決まった。さあ、行こう」

「はい」


 遠くで「グゲ、グゲ」という声が響く。


「あ、あの……ゴブリンたちも付いてくるのですか?」

「駄目か」

「ええ」

「わかった。おまえたちはここで待機!」

「あと、もう人間を襲わないように」

「わかった。もう人間を狩っては駄目だ!」


 遠くで不満そうな声が響くが、赤毛がもう一度「駄目だ!」と怒鳴ると、その声も静かになった。


ゴブリン(おれたち)は人間を襲わない。これでいいか?」

「はい、ありがとうございます」


 この瞬間、全てのゴブリン(おれたち)は人を襲うことを止めた。

 王の意思はゴブリンの総意なのである。

 

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