第28話 暗殺者を仲間にしました
俺は高速で接近して《暗殺者の短剣》をぶん投げる。
この武器は俺には合わないからな。
しかし暗殺者はそれを軽々と避けた。
一応透明化して、3割くらいの力で投げたんだけどダメだったか。
どうやら相手を見くびり過ぎていたらしい。
俺は警戒度を1つ上げる。
自分の事がバレないように、俺は《阻害の仮面》を着けて暗殺者に話しかけた。
「どうもこんばんは。どちら様でしょうか?」
「……」
「あっ、無視してもらっても大丈夫ですよ」
俺がそう言うと、ピクッと顔が少し動く。
どうやら俺の言ったことを不審がっているようなので、暴露する。
「別に貴方が答えなくても、貴方がザーヴェラー家に雇われた暗殺者で、【死神】と呼ばれている凄腕の暗殺者というのは知っているので」
俺がそういうと、やっと会話をしてくれた。
「どうやら本当に私のことを知っているようだな……」
「それは勿論。どうせサラを殺せと言う依頼が届いたのでしょう?」
「……」
どうやら図星みたいだな。
しかしこれでコイツはサラのことをほとんど知らないと言うことがわかった。
そしてサラに恨みがある訳でもない。
これならあれをしても大丈夫そうだな。
「暗殺者に言うのも変な話ですが、ここで捕らえさせてもらいますね」
俺は自らの身体能力だけで【死神】の懐に入る。
そして俺にとっての優しいパンチを放つ。
「ッ!?」
死神はなんとか攻撃を避けると、【透明化】と【隠密】を使って姿を消した。
さて、何処にいるのかな……真正面かッ!
俺は何もない目の前に向かって正拳突きを繰り出す。
すると、今度はバレると思っていなかったのか、ガードもせずにモロに当たる。
そのまま吹っ飛ばされるが、力をいなしていたようで、大してダメージは食らっていなかった。
「ほお~流石【死神】ですね。今まで戦った人間で1番強いですよ」
俺は遠回しに貴方よりも強いモンスターとは戦っていますと伝える。
死神もそのことに気がついたのか、俺の前から再び姿を消してしまった。
死神だったらこの時どうする……?
死神は依頼を失敗するのを極端に嫌がる。
しかし今俺と戦ったところで勝ち目などない。
と言うことは、必ずサラを狙ってくるッ!
「【転移石】!」
俺はサラの部屋に予めおいておいた、一度しか使えない転移石の門にワープする。
するとやはり死神がいて、サラに近づいているところだった。
突然現れた俺を見て、死神の顔は驚愕で染まっている。
俺は4割くらいの速度で接近すると、速度だけ高めたジャブを繰り出す。
すると死神は反応できずに吹っ飛ぶ。
俺は一瞬だけ速度を上げて、サラの部屋の壁に当たる前に受け止めて。
「【スタン】【魔封じ】【スリープ】【スロウ】【グラビティ】」
サラがアルバートを止めた時よりも多くの魔法を使って動きを押させる。
「くッ!!??」
流石に大量のデバフをかけられて、声を出さずにいるのは不可能のようだ。
俺は1つだけ聞く。
「貴方以外に暗殺者はいますか?」
死神は首を横に振る。
【超感覚】には、悪意などの感情を感じないので、どうやら嘘をついている訳ではなさそうだ。
だが、俺は一応朝まで効果が続く、消耗用古代結界魔道具を設置して、サラを守る。
この魔道具は、古代魔法の結界の組み込まれた、ダンジョンでしか手に入らない物だ。
消耗品だが、その分効果は物凄い。
俺が7割の力で攻撃してもびくともしなかった。
まぁ闇夜と白夜の一閃には耐えられなかったけど。
しかしそれ以下の武器の攻撃には耐えられる。
この世にS+の武器なんて10個もないからな。
本当は最初から設置しとけば良かったのだが、それでは死神を捕まえれないので、問題の先延ばしにしかならない。
もしくは更に人数を増やされる可能性もあった為、このような形となった。
俺は床で伸びている死神を肩に担いでサラの部屋を出る。
「さて、これからが本番だな」
俺は自分の部屋に急いで戻った。
☆☆☆
俺は部屋に戻ると全てのデバフを解除してやる。
「ッッ!!」
するとすぐに俺から距離を取って戦闘体制に入った。
俺は部屋の椅子を2つ用意して座る。
「どうぞ椅子に座ってください。あ、もしかして男の部屋に入ったから緊張しているのですか?」
俺がそう言うと、彼女がビクッと震える。
「いつから気付いていました……?」
「まぁ初めからですよ。そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ、何もしませんから」
そう、世界でも有名な【死神】は、まだ俺とそこまで変わらない年齢の少女なのだ。
ゲームの時にそれを知った時、物凄くびっくりした。
俺は《隠密のマント》と《阻害の仮面》を外して、手を挙げる。
するとやっと俺に敵意がないことが分かったのか、ゆっくりと椅子に座った。
「よし、それでは貴女に聞きたいことがあります。まず、貴女の名前と年齢。そしてなぜ暗殺者になったのかです」
俺がそう言うと、観念したのか少しずつ話し始める。
「……私の名前は、エレノア・モイヒェルメルダーです……。年齢は18で、暗殺者の名門のモイヒェルメルダー家の三女として生まれました……。そして物心ついた時から暗殺の極意を教えられ、2人の姉に小さい頃から私は練習台にされていました。またさ……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
俺は話を遮る。
え、何? 暗殺者の名門? そんな話初めて聞いたんですけど。
それに2人の姉に練習台にさせられていた?
「暗殺術の練習台にされてたってこと?」
「はい。関節のキメ方や人間の弱点、毒の効果の確認など、大抵全てのことをされました」
「え、でもそうなったら死にそうになるんじゃないの……?」
「いえ、私には【全耐性】があるので毒の類で死ぬことはありません。それに致命傷を与えられることはなかったので」
「……」
俺の思った以上に酷かった。
俺はてっきり貧乏だったから暗殺に手を染めたと思っていたんだけど、もっと酷かったな……。
「なら1つ聞きたい」
「なんでしょうか?」
「俺の仲間にならないか?」
「……は?」
エレノアは、全く意味がわからないと言う顔をしている。
「どうして私を……?」
「俺には1つの目的がある。その目的の為には、学園の外で活動できる仲間が必要なんだ。必ず暗殺はやらせないと誓う。家族に復讐したいなら手伝う。だから……」
俺は一旦エレノアの目を見てから、頭を下げる。
「だから……俺の仲間になってくれませんか……?」
俺がそう言って、手を差し伸べる。
するとエレノアが急に涙を流し始めた。
「えっえっえっ、あ、あのど、どうしたんだ?」
俺があたふたしていると。
「すいません。少し嬉しくなって……。今まで雑巾のように使われていただけだったので……」
エレノアは、止まらない涙を拭く事なく立ち上り、俺に頭を下げる。
「私、エレノア・モイヒェルメルダーは、貴方様に忠誠を誓います。私を貴方様の仲間にしてくださいっ!」
俺の手を握り、大量の涙を流しながらも笑顔で言ってきた。
「あ、ああ! これからよろしくね!」
「はわっ!?」
俺は嬉しくなって思わずエレノアを抱き締めると、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
結局その夜は色々な話をエレノアとした。
どうやら家族への復讐は無しでいいようだ。
俺はあれだけ酷いことをされてたら、絶対に復讐しようと思うけどな。
こうして俺は頼れる仲間を手に入れた。
読者の皆様へ
この作品が、面白かった!続きが気になる!などと思っていただけた方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にしてくださると嬉しいです。
勿論、★☆☆☆☆でも良いので入れてくれると作者が喜びます。
またブックマーク登録やいいね、よろしくお願いします!
ではではまた次話で。