はじまり
俺の名は「桃太郎」。
お婆さんが川で洗濯をしていたところ、俺が入った大きな桃を拾ったらしい。
お婆さんもお爺さんも貧しいながら、赤子の俺を育ててくれた。
大きな桃は俺が成長するごとに、金色に変わっていった。
やがて金の塊になり、俺たちの生活は豊かになった。
ただ、金を得た父は性格が変わってしまった。
お金ですべて解決し、権力を手に入れ、振りかざす。
母には一切目もくれず、若い女性の側近を立てる。
あんなに優しかったのに。俺のせいで…。
母は心労のせいか病に倒れ、俺と2人静かに暮らしていた。
しかし、俺は「鬼退治」に抜擢されてしまった。育ての親によって。
死ぬかもしれない戦いに、自分の手柄のために育ての息子を送る。
ああ、もう「息子」ではなく「駒」とみているのだろうか。
胸の奥につんとした気持ちが突き刺さる。
明日は出発の日。震える手を押さえ、眠りについた。
台所の音で目が覚めた。
病の母が朝食とだんごを作っていたのだ。
動きは遅く、辛い表情をしながら、死ににいく俺のために。
病気で動かない身体を一生懸命動かしながら、手際よく準備をしている。
そんな姿を見て、自分のほほに涙が伝う。
「母上、ありがとう」
母はこちらを振り向き、にこやかにしていた。
腰に刺した刀。赤い鎧。白い鉢巻。母のキビ団子。
「行って参ります。」
不安そうな母を背に、俺は鬼退治に向かった。