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形勢逆転。
ゼストの脳内にその言葉だけが思い浮かんだ。
唇を噛み締め、強くリッチを睨み付ける。
幸い、リッチも然程魔力は残っておらず、こちらの急な劣勢にも気付いていないのか動く素振りを全く見せない。
双方、戦闘態勢は崩さないまま膠着の時間を迎える。
「子供」
「えっ? あ、はい!」
呼び掛けられたゼストが驚き交じりの声を上げる。
ルグルスはリッチへの視線を外さないまま、次の言葉を紡ぎ始めた。
「私が欠片程の威力の魔術を放つ。汝は其れに魔力を込めろ」
「……! えっ!!?」
つまり、ルグルスが使用する本来の魔術に必要な魔力の足りない分をゼストが補うということ。
一般人が一聞しただけでは何てことの無い補助と思われるそれは、魔術を独学で習得している少年にとってどれ程の難度たるか想像に難くなかった。
他者と他者が各々の魔術を発動してから融合し、数段格上の威力となる『合体魔法ユニゾンレイド』でさえ、熟練の魔術士と称される者達でも出来るか否かといった具合である。
中には合体魔法を経験すること無く生涯を終える魔術士も存在するのだ。
(いやもう絶対それよりも難しいでしょ!?)
そう。しかしながら、魔・術・を・発・動・し・て・か・ら・融合するそれと、魔・術・の・発・動・中・に干渉して威力を増幅するルグルスの案だと後者の方が圧倒的に難しいのである。
俄かにゼストの小さな顔が汗ばむ。
だが、子供に似つかわしくない思考を重ねるゼストはどうすればいいかなど既に分かっていた。
「分かりました。出来なくても怒らないでくださいね!」
「良い。放てる魔術に限りがあることを失念していた私に非がある」
「……お兄さんて一体何者なんですか……?」
「神だ。と言っても陪神に追いやられた身だが」
「はぁ!!?」
「何を驚いている、転生者。──まだ私は死ぬわけにはいかん。確り魔力を込めろ」
「え、ちょ、ま、何で、え……えぇぇぇぇ!!?」
今日はやけに驚く日になっていると、ゼストが他人事のように達観する。