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神様転生  作者: るち山 るち汰
第1章
3/5

 ルグルスは意識を失った少年を抱え、動物や魔物の気配の無い所へ連れだった。

 ある程度開けた場所に辿り着くと、魔術で地面を柔らかくするに加え、植物の成長を促し天然のベッドを作り出して寝かせていた。


 数刻。

 日も傾いて、森の中も陰りも深まった頃。



「……ん……………んぅ……」

「起きたか、子供」

「ぅぇ……? …………! ぇあ、おはようございます!!」



 少年は勢い良く上体を起き上がらせると、意識も朧気に溌溂とルグルスに挨拶する。

 当の本人と言うと腕を組んだまま木に凭れ掛かっていた。


 ルグルスは少年を一瞥すると、最初に問おうとしていた疑問を投げ掛けた。



「汝は何処から来た?」

「あ……えと、あの……」

「……」

「ごめんなさい!! 助けて頂いて厚かましいのですが、お願いを聞いて頂けないでしょうか!!?」

「何だ?」



 完全に目を覚ました様子の少年はたどたどしく、しかし端的に整然と話を展開し始めた。


 先ず、深紅の少年の名前は【ゼスト】。

 そして、この森の名は【古樹の森】と呼ばれ、彼は森に住まう村人の一人だった。


 彼が生まれてから8年、家族や村人と共に平和な日々を過ごしていた。

 だが、突如としてその安寧は崩れ去る。


 昨夜の事だ。

 草木も眠る丑三つ時。何の前触れも無く、村へ魔物の襲来が発生した。

 その数は百余り。

 平常、この辺りに住む最弱とされる魔物でも村人3人で1体を討伐する。

 数十人しかいない村人たちは、苦戦を余儀無く強いられた。


 それでも幼少より魔術に慣れ親しんでいたゼストは、必死に抵抗し村人を守り、村人たちも子供に頼ってたまるかと奮起し防衛を保っていた。

 しかし、1体の魔物の出現によって情勢は一変する。



「リッチが出たんです」



 【リッチ】。

 生前は魔術士だった亡骸が瘴気に曝され、魔物化したアンデッド系の魔物である。

 アンデッド系は本来、意志を持たず、瘴気の淀んだ場所を徘徊する存在なのだが、リッチはそれに限らなかった。


 邪悪な意志が宿ったそれは、他のアンデッドを引き連れて村や集落に向かい、捕食して力を増幅させる。

 また、魔術士だった故の名残か、ある程度の魔術も使用し、戦いの心得の無い者達で討伐するには非常に困難を極める存在だ。



「丁度、村の警備隊が行商の為に、森の外にある街へ出払っている時だったんです」



 為す術無く、一人、また一人と村人たちの命がリッチによって奪われていった。

 目の前にあったのは絶望という感情のみ。


 ゼストももう終わりだと悟った時、彼の父親がリッチの前に立ちはだかったのだ。



『ゼストォッ!! ベル!! 逃げるんだ!! 頼んだぞ、フォニア!!』



 ゼストの母親は、ゼストと彼の弟の手を痛い程に握り締め、魔物の居ない方向へ逃げ出した。



『貴方……ッ! 貴方……!!』

『母さん放して!! 父さんを!! 父さんを助けなきゃ!!』

『ママ……ママァ……!』

『貴方、ごめんなさい……ゼストも、ベルも、ごめんね』



 前を走る母親の顔は見えなかった。だが、大粒の涙が後ろに流れていく。

 ゼストの胸は無力感と悲痛で胸が張り裂けそうであった。



「……昼前まではどうにかして隠れ過ごしていたんです。だけど、ゴブリンに見付かって2人とははぐれてしまって。幸いゴブリンはボクの方に来たので、あっちは大丈夫だと思うんですけど」



 ゴブリンは絞りカスのような魔力でギリギリ倒せた。

 だが、油断して狼に食われそうになった所に、ルグルスが現れそこで助けるまでに至ったのだ。



 (……成程。気になる点が幾らかあるが……)



 拳を顎に当てて思案するルグルスに、ゼストは涙を零しながら彼に懇願する。



「もしかしたら、父さんもまだ生きてるかもしれない! 母さんも、ベルも村に戻ったかもしれない! リッチがいたら、悔しいけどボクでは太刀打ちできないんです!! お願いします! 一緒に村へ来てくれませんか!!?」



 アンデッドの性質上、日中は活動出来ない。

 それはこの世界では常識のようで、アンデッドの動きが鈍い今、父親を案じた母親たちが村に戻っていると推測しての発言だ。



 (聡いな)



 ルグルスは素直に感嘆した。

 この少年の魂の異質さと言い、頭脳の回転と言い、ルグルスは妙に興味を惹かれた。


 隣に立て掛けていた長杖を徐に握る。


 人間に転生したとはいえ、元神だ。

 膂力や内包する魔力は人間の範疇だが、彼の敵ではないだろう。


 そう算段を付けた彼はゼストに返事をする。



「村は何処だ」

「──あ! ありがとうございます!!」



 起きてから緊迫していたゼストは、ほっとしてそれが解けたのか、眉を八の字に寄せ笑みを溢した。

 そして何度もルグルスにお辞儀をし、感謝の限りを尽くす。


 それを色を持たない瞳で眺めていたルグルスだったが、不思議と悪い気はしないのであった。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



 それから数時間。逢魔が時も過ぎた頃。

 ルグルスは魔物の気配を読み、これまで遭遇すること無く歩いてきた。


 年端も行かないゼストは疲弊しきっているにも関わらず、泣き言は一切吐かないで彼についてきていた。



 (以前、千里鏡で子供たちの様子を見たことがあったが……)



 元神であるルグルスからしてもゼストは異質に見える。

 それは元来の資質か、家族を案じている故か、はたまた──



「……」



 そうこう思考を続けている内に、ルグルスは前方に魔物の気配を感じ取った。

 数は10、20……うじゃうじゃとしていてしっかりと感知しきれない。


 村はもうすぐそこである。


 そんな時だった。



「ォォオオォォォ……」

「グールにレイス……ウィル・ォ・ウィスプ!」



 【グール】。

 人間の亡骸が瘴気に曝され、生者の血肉を求め、意志無く徘徊し続けるアンデッド系の魔物。

 その姿かたちはそれぞれで、大柄なものから小柄なものまで存在する。総じて動きは鈍い。


 【レイス】。

 人間の死後、魂が輪廻へ還らず地上に留まり瘴気に曝されてしまった為に魔物化したアンデッド。

 灰色の半透明した下半身の無い人間のような姿で浮遊してる。生者に近寄り生気を奪い取る。透けている為か物理攻撃は効かず、魔術でのみでしか対処できない。


 【ウィル・ォ・ウィスプ】。

 青白い光の鞭のような姿をしたアンデッド系の魔物。

 その体で獲物を直接締め上げて火傷を負わせたり、炎の魔術を使用するなど攻撃は多彩である。


 一気に数十体姿を現した魔物たちを目にして、ゼストは恐怖の声を上げる。

 恐らくこの魔物たちの情報は頭に入っているのだろう。


 ルグルスも奴らについては知見していたが、光の神であった彼の前では知見していようが無かろうが、結果的に無意味だ。

 右手に携えていた長杖を前に構え、魔力を収束させる。


 そして木霊する言葉を一つ。



「『ヴァーチュアスレイ』」

「グギャッ」

「……!」

「ピギィィ」

「ゴァァァ!」




 呼応して、ルグルスの眼前に光の玉が顕現する。

 ふわりと上空に玉が浮かび上がり、一際強く輝きを放つと、そこから凄まじい勢いで光の矢が何十条と飛び出し敵を穿いていく。


 ルグルスが杖を振ると、玉も直進し、奥の方に詰まっていた魔物共も一気に殲滅していった。



「す、凄い」



 ゼストは瞠目しながら呟く。

 想像以上のチカラだった。まさかここまでとはといった面持ちだ。


 冷めた瞳で前を見据えるルグルスは、すたすたと村の方へ進んでいく。

 それを見たゼストも焦って、彼の後ろを急いでついていくのだった。



「『グレイヴスパイア』」

「“無音の衝裂”」

「『フリジットバブル』」

「“空虚に落ちる”“爆ぜる渦”」

「『サイレントヴォルト』」

「“呑まれるな”“我が指に集え”──『ヴォイドインパクト』!」



 次々と魔術を繰り出すルグルスに続いて、ゼストも必死に詠唱し魔術を発動させるが殲滅の速度が段違いだった。


 (詠唱破棄でこの威力。何者なんだこの人……)


 ゼストがルグルスを訝しむ。


 何者も何も元神なのであるが、知る由も無い。


 そうして次々と魔物を蹴散らし、村の入り口まで漸く辿り着くと、大きな影が立ち塞がっていた。

 土気色の肌に襤褸布を纏ったヒトの成れの果て。仰々しい杖に両手で凭れ込む魔物。



「……リッチ!!」



 ゼストが上擦った声でそう漏らした。

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