01 前世の記憶という悪夢
新作を投稿しました。
こちらも宜しくお願いします。
「…また、あの夢か…」
「おにいちゃん、だいじょうぶ?」
「顔色、悪いわよ、ロディ? 今日は一日中休む?」
「いや、大丈夫だよ」
ある町の孤児院…『アルケミア孤児院』の一室で眠っていた俺、ロディ=アルケミアは、悪夢を見てしまったようで、不意に目が覚めたようだ。
傍らにいた妹分の幼女と年上のシスターが俺を心配していたが、大丈夫と強がった。
(前世ってやつの記憶が残ったまま生き続けるってのは、なかなか辛いな…)
俺は、前世の記憶をも抱えている、いわゆる『転生者』。
その前世も、全くいい思い出はなかった。 むしろ、悪夢と言える思い出ばかりだった。
その鮮明に覚えている前世という悪夢を振り返った…。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ようこそ、異世界の勇者よ」
前世の俺は、ごく普通の高校生だった。
代わり映えのない日常を過ごしていた俺は、クラスメイトや担任と共に、異世界『アークティア』に召喚された。
その目的は、魔王を倒すための戦力として。
異世界の人間の方が、現地の人間よりも身体能力が高いために即戦力としてうってつけらしい。
「ふざけるなよ!」
「元の世界に帰してよ!」
何人かのクラスメイトは、当然ながら元の世界に帰せと怒り狂っていた。
「せっかくの国王様の頼みです。 引き受けますよ」
「ちょっと!?」
しかし、『陽キャ』グループの筆頭は、魔王退治に乗り気だった上、元の世界に帰せと未だに叫んでいた連中を無視して、あたかもクラスの代表と言わんばかりに受け入れると国王に言ってしまったので、俺や担任を含めた一部のクラスメイトの否定的意見を無視される形になってしまった。
そして、能力測定の時に俺はいわゆる『無能』判定をされ、クラスメイトからも嘲笑いされ、兵士に手足を折られた上で森に捨てられた。
手足が動かないまま、俺は魔物に食べられてその生涯を終えた。
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そして、俺が次に目覚めたのは『ディグレー王国』領内の西の果てにある『クレスタ』の町の孤児院だった。
その時の俺はまだ赤ん坊で、シスター曰く両親は俺を残して蒸発したらしい。
シスターから歴史の勉強で教えて貰った内容によると、俺が今いる世界はとある国が異世界召喚された時代から10年経った『アークティア』だそうだ。
ちなみに、赤ん坊の俺を孤児院が引き取ったのは召喚されてから二年後らしく、現在の俺は8歳という事になる。
そこで、俺は不意に前世の記憶がよみがえってしまったようだ。 急激に苦しむ俺をシスターが慌てて駆け寄った姿を忘れる事は出来なかった。
後日、改めて歴史を教えてもらったが、当時の魔王は『ディグレー王国』の騎士団によって倒されたと教えられた。
勇者として召喚された少年少女は、どうやら魔王の手下によって殺されたという事だった。
そして、異世界召喚を実行した国…『ガルキマセラ王国』は、魔王を倒すために禁忌を犯したことを各国から批判、経済制裁されて財政破綻、そこに国民のクーデターが発生して王国としては壊滅し、今は共和国として存在しているようだ。
いわば、10年の歳月でここまで変わってしまったのだ。
俺は、その前世の記憶を抱えてからはそういう悪夢をよく見るようになってしまったのだ。
それを知ってか知らずか、シスターを始め、孤児院のスタッフ等にも、心配されている。
孤児院には年下の子が多いので、俺自身は兄貴分らしく強がってはいるのだが、シスターには誤魔化せない。
「とにかく、子供たちの世話は私や他の人でやっておくから、あなたは休んで。 リアちゃんは、ロディお兄ちゃんと一緒にいてあげて」
「うん、フェリアおねえちゃん。 おにいちゃんはリアがまもるよ!」
俺の事をリアと言われた幼女に任せて、シスター・フェリアは俺の部屋から出ていく。
(まいったな…、フェリア姉には敵わないか。 リアにも心配かけさせたし)
「リア、せっかくだから一緒にお昼寝するか?」
「うん! おにいちゃんをギュッてしてねるー」
「ははは、じゃあこっちにおいで」
リアは俺のベッドに潜り込み、ギュッと抱きついて、俺と一緒に一緒にお昼寝をした。
幼い身体からも伝わる温もりのおかげか、この時は前世の記憶による悪夢は見なかったので、お昼寝はぐっすり眠ることができたのだ。