001 眺める景色「絶景かな。絶景かな」
「ベルゼ、軍の準備は整ったかい?」
「クフフフフ。 我が主、準備は万端。 完璧なまでに整ってございます」
「そうかそうか。 やっぱりベルゼに任せてよかったよ。 君に魔王軍将軍の地位を与えて正解だった。 今までの、そしてこれからの忠勤に期待しているよ」
「ああ、なんと勿体なきお言葉! ここにいるすべての下僕にとって、我が主からのお言葉が最高の褒美でございます」
玉座に座る我が主に、恭しく頭を下げる真っ赤な髪にこれまた真っ赤なスーツ姿の最上位魔族。見た目ではわからないが、その心は歓びの絶頂にあることだろう。
ちょっと褒めすぎかな?とも思ったが、でもまあ、これぐらいはいいだろう。
なにせ、ぼくが召喚してからのわずか10年で、彼は軍を編成し、兵力を整え、数多の戦術を編み出してきた。 これはぼく1人では決してできない、彼がいたからこその成果だ。
「マモン。ぼくたちが戦争している間、ここの管理は任せたよ?」
「ふふっ。 ご安心くださいませ、我が君。 我が君がいつでも安心して戻られるよう、万全の準備を整えてお待ちしております」
ベルゼから視線をうつし、その隣で臣下の礼をとる女性最上位魔族をみる。 ぼくからの言葉がよほど嬉しかたのか、ウルウルと瞳をにじませている。
「マモンがいるから、全力で戦ってこれる。 ベルゼと同じように、君の働きにも期待しているよ」
「ありがとうございます!! これからも我が君のために、一生をかけて奉仕させていただきます」
ぼくからの言葉に、体を震わせ大粒の涙を流すマモン。
このオーバーな感情表現。 なかなか慣れなかったんだよなー。 最初はどうすればいいのかわからず戸惑ってしまって、アタフタしてしまったのが懐かしい。
まあ10年経っても、相変わらず慣れてはいないんだけどね。 「気にしてませんよ」風に、平然としていられるようにはなったけど。
「そして、今回の戦争では君が頼りだ。 頼んだよ? ぼくの近衛隊長アングマール」
「オ任セクダサイ、我ガ主。 貴方サマノ敵ヲ見事屠ッテゴ覧ニ入レマショウ」
玉座より少し離れた場所で臣下の礼をとる、真っ黒な鎧が立ち上がり返事をする。 相変わらず重厚な鎧を纏っているとは思えない軽やかな動きだ。
「君の敗北はイコール魔王軍の敗北となる。 敗けは決して許されないよ」
「承知シテオリマス。 ベルゼ将軍ト密ニ連携ヲトリ、完璧ナ仕事ヲ果タシテミセマス」
「よろしい。 ベルゼ、全軍の指揮で忙しいとは思うけど、アングマールのフォローもしっかり頼んだよ」
「畏まりました、我が主。 どちらも完璧な成果をお約束いたします」
まあ、12歳の勇者なんかにアングマールが負けるとは思ってないけどね。
でも最大限の注意は必要だ。 勇者の代名詞ともなっているワールドスキル【覚醒】は、パーティーのステータスを5倍にし、一時的に【魔力・体力回復(大)】スキルを付与する効果を持っている。
こいつを使われると、不利な戦況でもカンタンにひっくり返される可能性があるからね。
他にも【神剣】【不敗】のワールドスキルを持っていることが判明している以上、最大限の警戒はしておいて然るべきだろう。
たかが12歳と侮って負けるなんて、そんなダサいファンタジーチックな結末は御免だ。
念には念を入れ、策謀を巡らせ、完全な勝利を得られると確信できる方法で殺してやろう。
「では、そろそろ行くとしようか。 勇者のいる覇国レオニダスへ」
事前の調査で魔王城からは一ヶ月の距離にある国、覇国レオニダスに勇者がいることはわかっている。 まだ勇者に目覚めて2年だが、そのステータスはすでに歴戦の戦士を超えている。
勇者をサクッと殺しとかないと、残り10人が準備を整えてしまう可能性がある。 そうならないためにも、ここはスピード勝負。 短期決戦が重要だ。
「我がシモベたちよ!」
立ち上がり、眼前に控える50万体のシモベ、重厚な鋼鉄の鎧に身を包んだオークの軍勢に向かって叫ぶ。 拡声魔法によりその声はすべてのシモベに行き渡る。
魔王城地下第3階層に広がる玉座の間。 その広大な広間を埋め尽くす軍勢は、主の言葉を一字一句聞き逃さぬよう、身動き一つとらない。
衣擦れの音すら聞こえない、静寂に包まれた玉座の間で、ぼくは大きな声で宣言する。
「長き準備期間を終え、ようやく戦争の用意が整った。 まずは1つ目の目標、覇王の治める王国レオニダスへ進軍する」
「レオニダスとの国境にある要塞テヘロンの壁は厚く、強固だ。 過去400年に渡って落とされたことのない、難攻不落の砦だ」
「だが! お前達ならば! 屈強な我軍ならば難攻不落の砦など容易く破れると信じている!!」
「いこう! すべてのニンゲンを根絶やしにするのだ! 1人残らず皆殺しにせよ! 皆殺しだ!」
「「「「「「グウゥオォォォォォォォォッ!」」」」」」
50万体を超えるオークの軍勢は歓喜に震え、皆一斉に叫び声をあげる。 その声は玉座の間を埋め尽くし、大地を震わせ、遠く離れた地にまで響き渡る。
戦うことが大好きで、イキモノを殺すことが大好きな醜悪な魔物の群れが。 その欲求を満たすチャンスを与えられたことに対し、歓びに震える。
「ふふ、絶景かな。 絶景かな」
地球人から転生して12年。 色々と苦労はあったが、ようやくスタート地点に立てた。
敵は11人。 こいつら全員を殺せば、ぼくは神から望みを叶えてもらえる。
だが、その条件は11人の敵も同じ。
あいつらも必死になって、自分以外の11人を殺そうとするだろう。
だけど、ぼくは負けない。 負ける訳にはいかない。
叶えてみせる。 地球では手に入らなかった。 ぼくの願いを。
「まずはお前からだ、勇者。 みるも無残な敗北を与えてやるぞ」
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