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勇者パーティー in オーディナル聖王国 45




「さてさて、力を見せてもらいましょうか?」




「手伝ってくれないのかい?」


 “勇者”アレスはすでに観戦モードに入っているラプサムの様子を見ながら、苦笑いを浮かべた。


「いるんですか?」


「ドレクは対怪物用のスキルが多いけど、僕もそれほどじゃないんだけどな」


 アレスはのんびりと呟いた。


「ドレクは本気を出す場に、僕を呼ばないから・・・これは王竜様との約束だから仕方ない」


「ほう」


 ラプサムは意外な言葉に驚きを覚えた。二人は歳も近いし、同じ修行を重ねてきた中である。そんな二人が意外にも本気で戦う場を見せ合っていないのが意外だった。


「おそらく、“王竜の契約者”の能力の解析をさせないためだと思う」


「なるほど」


「“光の戦乙女の契約者”の力は解析できても実行できるような品物じゃないからね」


 アレスは肩を竦めていった。


「そんなに凄いのか?」


「あれは精霊の力も借りなきゃいけないし、そして、そのモードで訓練を積む必要がある。そもそも師の力はそれだけじゃないしね」


 アレスはため息を付いた。彼はメディシン卿の事を師として、従事している。


「まあ、旦那だからな」


 ラプサムもアレスの言葉を聞いて、苦笑いを浮かべた。メディシン卿に対しては同じような感想を持っている。


 それにラプサム的には壁を破らせてもらった恩人でもある。


「何処まで行っているのか、そこが知れないよ」


「お前が言うことじゃないな」


「ラプサムさんもそれは同じじゃない?最近は師並みになってきたように思えるけど?」


「そんなことはないよ。“理の剣”に敵うほどのもんじゃない」


「“理の剣”に頼らなくても強くなりたいと思い始めているよ。あなたや、師を見ていると・・・」


「お前らよりも少々長生きなんだそれくらいは我慢しろ」


 ラプサムはそういうと上空をふわふわと浮いているそれを見た。


「にしても、なんだあの風呂みたいなバケモノは?」


「わからないけど、よくないものであることは間違いない」


 アレスはそういうと緩んだ目をきりっとしたものに変えた。そして、その姿が消えた。


 ラプサムが見ている先で、その袋のような生き物の体が切り裂かれた。そこからあふれ出たのは黒い虫を思わせるような蝙蝠のような生き物が出てきた。


「とんでもないものがつまってんな」


 ラプサムは苦笑いを浮かべた。その虫たちが落下しているアレスにわらわらと襲い掛かっていた。


「しゃあないな」


 ラプサムは右手に赤い剣を持ちをふった。


 剣から直径数メートルになる巨大な炎が現れ、それがアレスの周りにいた虫のような生き物を包み込んだ。さらにラプサムは左手に刀を持ち、それを振った。


 風が吹き荒れ、その炎を広げ、さらに爆発的に虫たちに燃え移らせた。


「さっすが、サムくん」


 どこからともなく、レミアがやってきて嬉しそうに言った。ヘレンもうんと力強く頷いていた。


「ちったあ、手伝え」


 ラプサムがいうとヘレンも頷いた。


「次、がんばる」


 ありがたい言葉だった。次はラプサムがさっきみたいのをやらなくてすみそうである。


 アレスは上空で落下しながら、次の転移の魔法を使った。


 もう一度、怪物の袋の部分を切り裂き、もう一度、小さな怪物たちがあふれ出すが、そのすべてが体から排出された瞬間にすべて燃え上がった。


 ヘレンの魔法がその怪物たちを燃やしたのだ。


「ふう」


 疲れたような声がかかった。


 アレスが一旦休むために戻ってきたようである。


「転移の消耗が激しい」


「魔王共が使っていた魔法だな」


「はい」


 アレスが戦闘中に使われた魔法を使って、奇襲をしかけているのである。この魔法がなければ、地面から届かない剣を振ることになっていただろう。


「かなり厄介なモンスターですね。あの袋に入っているのが本体のようです。あれ一つ一つがあの怪物を形成しているもののようですね」


「なるほど、実に生物の範疇を越えている何かだな」


「見たいですね。おそらく、群にして個、個にして群的な生き物なのでしょうが・・・」


「そうか、“理の剣”がそう解析するなら後は簡単」


 ヘレンがその話を聞いて、嬉しそうに笑った。


「あとは私が燃やすだけ」


 ヘレンはそういうと目を瞑った。


「戦略級魔術師の所以みせてあげる」


 ヘレンは静かに言った。


「ラプサム。後でたくさん褒めて」


 ヘレンはそういうと右手を上げ、怪物に向けて手を翳した。


 その怪物が巨大な炎に包まれ、灰となって消えていった。


「群にして個、あなたたちは全体ならもっと強い抵抗力があったけど、今のあなた達はラプサムとアレスに傷つけられて大きく動揺していた。だから、私の魔法でも対象にできた」


 ヘレンは静かに言った。


「余裕が崩れて、その心の隙を私がついただけ」


 ヘレンは燃え行くそれを見つめて静かに言った。


「あなたはとんでもない怪物だったけど、私たちの前では普通の怪物だった。ただ、それだけ」


 優しく呟いた。


 黒い灰が地上に落ちていく。雨のように、雪のように・・・


「私達は強い」


 ヘレンが言った。


 それを聞いて、ラプサム、レミア、アレスは共に笑顔を浮かべ、三人でヘレンの頭を撫でた。


 それをされてヘレンが少し恥ずかしそうであったが、実に嬉しそうに笑った。


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