僕が契約者になったわけ 4
僕が契約者になったわけ4
「二人して何してんの!」
大の字になった二人の男を見つめて一人の女性が叫んだ。
怒った姿も凛々しくて、そして、かわいい。
「うれしそうにすんな!」
僕の心情を悟ったのか、彼女がそんな風に言う。
「興が乗った」
騎士の男が嬉しそうに言いながら起き上がった。
「義兄さんなんできたんですか?」
彼女がそういうと、騎士の男は首を傾げて、なんでそんなこと聞くんだという目になった。
「男の器量を図りに来た」
と言って僕の方を顎で指した。彼女はあきれてものがいえないのか、頭を抱えた。
「私のいい練習相手なんだから、やめてよね」
「まあ、いい練習相手ではある」
ニヤニヤ何か含みのある顔で言った。僕の右手を見つめた。
「俺よりはいい相手だろうなあ」
大事なことなので騎士はもう一度言った。
「なんなのよ。義兄さんがうちを継ぐんだから問題ないでしょ」
「まあ、そうなんだが、かわいい義妹の婿がどんなのか見てみたいし、腕もついでに見ておきたいだろ?」
「それ必要?」
「必要だろ。うちは騎士の名門だ。そんなうちの嫁がたいしたことのない奴に嫁ぐなど、うちの恥だろ?」
そういって、腹を抱える。
「それがあの小さな英雄とは思わなかったがな」
「何笑ってんの?」
「いやいや、お前、小さな英雄を知らないのか?」
「小さな英雄?」
「知らないで嫁ぐとは驚きなんだが・・・」
「マジで知らないんですけど」
「おっと、もしや、こいつが騎士に召し上げられたエピソードを知らぬと?」
「ある村がモンスターの集団に襲われて、主力部隊は他の冒険者などが戦っていたが、斥候部隊として狼を5匹、村を襲わせていたんだ」
余計な脚色が付きそうなので事実のみを告げる。
「そんでその狼五匹を一人で倒しちまった12歳の子供がいるんだが、それが小さい英雄。それがこいつだ」
「へえ・・・って、彼なの?!」
「お前、本当に知らないで付き合っていたのか、逆に驚くわ」
「まあ、最近、童話みたいなのにもなってる、恥ずかしく言えないよ。信じてもらえないだろうしね」
「冒険者にナイフをもらって、冒険者に代わって、そのナイフを使って狼狩りをしたっていう最近、話題になっていた、あれ?」
「それだね」
彼女のテンションのあがりように困った表情の彼はそう答えた。
「普段から肉の解体などの親の手伝いをしていたから、狼の弱点がわかったという親の手伝いはしておくものというお子様向け教材のあれ?」
「その本人はさらに祖父の薬作りの手伝いもしてました」
「真面目か!」
騎士はそれを見てさらに笑い転げた。
「本物だ。本物だよ。都市伝説と思っていたけど、本物がいるよ!」
「あまり笑わないでください。遊ぶ相手がいなくてそんなことしか・・・」
僕も聞いていて恥ずかしくなって、ひざを折って倒れた。
「まあまあ、わが一族のあの小さな英雄が加わるんだ。お前、いいもの釣ったな」
騎士は立ち上がって彼女の肩をバンバン叩いた。
彼女はため息を付いて、顔色を悪くした。
「もしかして、あの時に足に刺したナイフって・・・」
「もちろん・・・」
「あっ、そうなの」
僕の反応を見て彼女は完全に察してしまった。
「おいおい、そのナイフさらになんかあんのか?後で嫁に聞こ」
騎士は腹を抱えて笑っていると立ち上がった。そして、僕に手を差し出した。
「俺はお前を歓迎するぜ。面白いネタを提供してれる奴としてもな」
酒のネタにする気満々の反応である。だが、決して悪い人ではない。
その手を受け取った。
「正直、お前の伝説にさらに箔付けたいんだが?」
「箔?」
「そう、お前ならできそうなことがあるんだ。楽しい酒の種にしてくれよ」
「義兄さん、まさか」
「まあ、ちょっと、ちょろまかしてくるだけだから」
騎士は嬉しそうに言った。
その悪戯そうな笑顔をみて、何かとんでもないことをしでかすことは間違いなさそうだった。