僕が契約者になったわけ 3
僕が契約者になったわけ 3
「君が妹の婚約者か」
騎士の男がそんな風に言ってきた。随分な喧嘩腰なのだなと思った。
今日は見事に彼女に負けてしまったので店番ということになっていた。最近、負けが込んでいてポーションを作る作業と彼女にお弁当を持っていくことが日課になりつつあるのがショックだ。
彼女は賭けをするようになってから、その腕がますますよくなり、騎士団でも剣姫の再来とか言われている。
それが僕と婚約を彼女が心に決めてからというのは皮肉なのだろう。
そんなだらしないと言える僕の元にその男がやってきた。
「はじめまして?ってか、婚約者ってなんですか?」
婚約者の件は彼女が触れ回っていることで、まだ、決まってないし、親御さんの許可ももらっていない。
世間的には恋人程度だろう。
だが、彼はちょっと違うに用に感じた。
「妹って・・・彼女の実家の方?」
「ちょっと、違うが彼女の姉の婿だ」
「ああ、なるほど」
複雑だろ、それ、リアクションに困る。
兄弟といえばそうだが、いくら家長代理だからといって素直に挨拶をしなければいけないのか?
「どんな男か見定めにきた」
「はあ」
「覇気がないな」
初対面の相手で扱いに困っているんだが、どうしたものかと迷っている。何が正解なのかさっぱりわからない。
「剣の腕もあるらしいが、見ている限り、薬を作っているばかりじゃないか、それで強くなれるのか?」
「お金のためです」
冷やかしに来た客と判断し、薬づくりに戻る。
「薬屋なので薬を売って生計を立ててます。いちおは人気あるんですよ」
そんなことをいいながら、薬草を魔力を込めてゴリゴリと削っていく。
「ほう」
騎士は何かを感じたらしく、しばらく手元を見つめていた。
「魔力切れを起こさないのか?」
「少量ですし、何より慣れてきました」
魔力を込めていることはわかっているらしい。魔力を込めた薬草を聖水に入れ、それを溶かし、しばらく置いておく。
しばらく置いていたものをろ過すれば、安いポーションの完成。
いちお、魔力を込めないものと、込めたものでは差が出てしまうが、魔力を込めたものを作る。
いちいち、材料がもったいないからだ。下手なポーションよりも強力なポーションがこれでできる。
「なんならどうぞ。彼女には来たことを伝えておきますから」
と言って、出来立てのポーションを騎士に渡す。騎士はそれを受け取るとしまった。
「ふむ、やはりこれでは貴様が良き男かわからんからな」
「まだ何か?」
「お主、このポーション何本作れる?1日で」
「二、三十本は作ってますが、作れなければ商売になりませんし」
「先ほどの技法で?」
「ええ、師匠にはあほだなと言われていますが、作ってますね」
すると、その騎士は何やら考え込んだ様子であった。
「貴様、妹と稽古をしているそうだが、一本取れたりするのか?」
「最近は連敗が続いているので、あまり自信がありませんが、十本に一、二本とれればよいのでは?」
それを聞いて騎士が眉間にしわを寄せた。
「ふふ、たいしたことないな」
「まあ、惚れた女に勝てない情けない男ですよ。彼女、今伸びてますから」
「噂は聞いている。目標ができて頑張っているらしいな」
「腕が下がってるようにも感じるんですよ」
「そうか、私と一本やってみないか?」
意外な提案に少しありがたい気がした。彼女とばかり打ち合っていたので、他の人間と比べるとどんなものか、少しわからなくなってきていたのだ。
「それはありがたいです」
「ふむ、貴様の実力を見たいしな」
「お願いします」
僕は胸を借りるつもりで言った。
「貴様、騎士団に戻らんか?」
「はい?」
剣を打ち合っていくって、その男の力に押されて、剣を落としてしまった。
「貴様、本来は片手剣で戦うようなスタイルには見えん。二刀にしてみたらどうだ?」
「・・・・・・」
わかっていたらしい。片手剣ではなく、片手剣と短剣、もしくは盾で戦うのが本来のスタイルだ。
だが、彼女の前では基本的には片手剣のみで戦っている。
片手剣で彼女の剣速に追いつきたくて、そういうことをしていたりする。
「彼女の前では秘密ですよ」
「なるほどな」
「彼女の剣をなめているわけではなく、彼女の剣にも追いつかないといけませんからね」
「俺、相手にそれは厳しいだろう」
「ですね」
力の差がありすぎる。片手剣は両手剣に劣るのは力の差だ。それも単純な力の差ではない。
片手剣は一点で支える。両手剣は二点で支えるのだ。それだけでも十分な力の差がでるのであるが、さらに両手となると二倍の差がでる。
つまり、両手と片手で剣で打ち合う場合、二倍以上、否、三倍以上の力の差が必要となってくるのだ。
しかも2点支えるよりも1点で支える場合、不安定になり、それで打ち合いを続けることによって、握力、支える力が落ちていく。
相手もそれを狙って、手に衝撃を来るような振りを繰り返していた。
そして、完全に握力が落ちたところを狙って剣を振りぬいて、落としたのだ。
彼女と打ち合えるのも彼女と打ち合えるくらいの力は欲しいと思ってのことだ。
「まあ、鍛える必要はあるような気がします」
「俺とも打ち合えるようにか?」
「はい」
「まあ、負けることで反省点を増やしていくことは悪いことじゃねえなあ」
「いいんですよ、騎士じゃないんですから・・・」
もう一度、落ちた剣を拾った。それをゆっくりと構えた。
「お前も好きだな」
「身を守るためです」
「ご苦労なこった!」
二人は間合いを詰めて剣を交わした。