勇者パーティー in オーディナル聖王国 23
「あれが勇者か・・・」
戦いの二人の男の戦いを見つめながら、静かに言った。
“勇者”と“魔王”が戦いをしていた。かなりの腕前を持っているのことは確かだった。容赦ないといえるほどの苛烈な攻撃に凄みを感じていた。あれほどの攻撃を連続で繰り出せる集中力に畏怖すら覚えた。
『今代の勇者ってのはとんでもないな』
“魔王”であるケンタロウが言った。“魔王”をもってしてもそう評価させる実力の持ち主らしい。
『俺でもやられていたかもな。気が付いていたか?』
「何を?」
『ガルドルが使っていたような妙な技を使っていなかった』
「使えなかったとか?」
『いや、使えるがあえて使ってなかったように思える。あれで本気じゃないらしい』
ケンタロウは少々焦った素振りで言った。あんな戦闘をしておいて加減をしていたのだ。おそらく、手の内を見せずにやれる自信があったらしい。
『まあ、町の建物を壊すわけにもいかないだろう。加減をしていたってのはそういうことも含めての加減だ』
なるほど、思わず頷いてしまう。ネヴィルはあれがほぼ全力で“魔王”を仕留める気でいたと思っていたが、仕留める気ではあっただろうが、手の内をさらすようなことはしなかったということだ。
それが逃走に繋がっていると考えると非常に難しい問題かもしれない。
『余裕がありすぎるな。まあ、その余裕が命取りになるかもな』
『そこがねらい目と』
ケンタロウの言葉にネヴィルは思わずニヤっと笑った。あの完全無欠の“勇者”に勝てる要因ができたらしい。
『転移の魔法でやつらの場所まで来てよかったぜ』
『なかなか、参考になりそうだ』
ネヴィルは静かに言ったが、“勇者”がこっちを見つめていた。
その目は冷たいもので無機質なものだった。
『おいおい、気が付くのか?』
一人と一振りがいるのは屋根の上だ。ほぼ、音なしで着地し、気配も消していたはずなのに、それはこちらに気が付いたらしい。
『くるぞ』
ケンタロウが焦ったように言うと剣と剣が重なった。
『久しぶりね。ケンタロウ・・・』
女声が頭の中に響き渡った。
『お前は!』
二人は同時に飛び退った。
『堕落してくれてよかったわ。あなたの中の真の魔力に目覚めたみたいね』
『何で女性の声がするんだ?』
『ありゃあ・・・俺を剣にした錬金術師』
ケンタロウの言葉にネヴィルは目を見開いた。
『あなたの中の怠惰の力を起し、それを転じてからあなたを魔剣に錬成したの。素晴らしいでしょ』
「初めて聞く話だね。興味深い」
“勇者”も興味深そうに言った。
「いきなり、切りつけろとかいうから焦ったよ。君は・・・誰?“理の剣”の関係者みたいだけど・・・」
『そいつに剣に・・・いや、それの母体に剣にされたものだ。まさか、神の力の一部を取り込み、自らの魂を生贄にそんなものを作り出すとはな・・・。そこまで“魔王”が憎いのか?』
『それだけじゃないわ。“魔王”なんてあいつらの使いでしょ。私が倒したいのはあいつらよ』
『なるほど、どうやってそれを知った?』
『あなたを錬成するときにその知識を得たわ。絶望したわ。そして、“魔王”がこの世界を侵略するためにあいつらがよこした道化だったとはね』
『そうか・・・』
『あなたは私に怒らないの?』
『怒る気はない。貴様は所詮、残留思念でしかない。そして、また、剣に帰られて千年ほどの月日がたった我もまた同様に堕落し、もう“魔王”ではないし、“魔王”のように世界を支配しなければならないという欲求もない。俺がお前を怒る理由など面倒なだけだ』
『そう』
『ただ、随分と愚かな女だ。お前と俺如きの子のために、この世界を救おうとするなんてな』
『・・・・・・』
『何故、生んだ?そして、その子のために何故、神殺しを決めた』
『殺せなかった。あの子が・・・無邪気に笑うあの子が・・・あの子は魔王の力なんて一切なくて、ただの子供として生まれ、私と同じ錬金術の才能があって・・・』
『そうか・・・』
『そうよ。あの子を守るために私はこの剣を作ったの。この身全て捧げ、神の力の一部を召喚し、この身に取り込み、さらに自分を犠牲にして一本の剣を作ったわ。魂まで取り込んで・・・今の私はその残滓』
「お前ら、愛し合ってたのか?」
「彼女は“魔王”の妾、否、性奴隷だよ」
“勇者”が静かに言った。
「不義の子ということだよ。その子は・・・」
『そういうことだ』
『そう。わたしは憎いあなたの子だったのに、そのはずだったのに、あの人たちを裏切り、あなたの子を育ててしまった』
『・・・』
『あなたの子は私がいなくなった後、ひどい目にあったわ。私が作った剣を守るためにね。ありとあらゆる精力から狙われ、最期は殺された』
『そうか・・・』
『人間を憎み、魔王も憎み、何よりもあいつらを憎んだ。だから・・・』
『何も言うな・・・お前は勇者の剣としての役割をはたせ』
『そう・・・』
『お前の使命は人間を殺すことじゃないはず。“勇者”を助け、“魔王”を殺し、あいつらを殺すんだろ?』
『ええ・・・・・・そうね。今の私の役割は勇者を助けること。人間を殺すことじゃないわ』
『その通りだ』
『私があなたに話しかけることはないと思う』
『お互いそれがいいだろう』
『ええ、だけど、一つお願いがあるの』
『なんだ?』
『あなたと私の子供の生まれ変わりの子がいるの。あなたは彼を守ってあげてほしい』
『何故だ?』
『彼は“聖剣”が作れる才能があると思うの』
『わかった。“聖剣”か。俺たちと同じようなものが作れるということか』
『そういうこと』
『頼んだわ。私だけでは届かないかもしれないから・・・。あなたにはそういう力はないと思うだから・・・』
『まあ、行くか、行かないかは俺の主が決めることだ』
『そうね。私たちは所詮“剣”だった』
「で、どうする?“魔王の剣”の主君」
「ふむ・・・そんな話を聞かされて行かないわけないだろう。“勇者”殿」
“勇者”はネヴィルに話しかけ、ネヴィルはそれに嬉しそうに答えた。
「どうやら、行き先は・・・俺の故郷?なるほど、あいつか」
「知っているのか?」
「もちろんだ。なるほど、“勇者”とは本来、その魂の持ち主を守り、兄弟を作ってもらうために存在するのか・・・」
「もちろんだ。そいつの名前はレイドという、田舎町にいる青年で、俺の幼馴染だ」
“勇者”は少しうれしそうに言った。
「仲間になってくると思うか?」
「さあねえ。しばらくあってないし、どうなっているのかもわからないしね。一般的に錬金術師は生産職で冒険者になることはない。普通は冒険者としての道もなくはないが、神官が優秀だ。中には例外がいなくはないが・・・」
「例外?」
「知らないのか?“神の薬師”という男のことを・・・」
「“神の薬師”?ああ、あんたを救ったことで有名な薬屋か!」
「彼はいちお、元騎士で元薬屋で今は俺の仲間だ」
“勇者”は誇らしげに答えた。それを聞いて驚きの顔になる。
「マジか・・・。というか、特殊な経歴だな」
「まあ、あの人はいろいろ大変な目にあって来たみたいだしな。というか、あんたの仲間だったのか?」
「まあね」
「そんな薬師と呼ばれるほどの年寄りはいなかったと思うが・・・」
「年少の頃から薬屋の勉強をし、12歳で才を見いだされ、騎士団に入団、15歳で怪我で退団、その後、薬屋に弟子入り、なんやかんやあって、勇者パーティーに入ると」
「すげえ、経歴」
「まあ、そんな人もいるから、あいつも“英雄”になれるよ」
「“英雄”か・・・」
少し羨ましく思った。そんな経歴の持ち主がいることにネヴィルは驚きと戸惑いしかなかった。
ネヴィルは自分が持っている剣を見つめた。“魔王”が元になった剣。そして、その“魔王”が守りたいと思っているらしい奴。
「いっちょ、“英雄”になってやるか・・・」
ネヴィルはそう呟くと転移の魔法を使用した。今日泊まっている宿先だった。
それを見送った“勇者”は後ろを向いた。
「さて、俺の冒険はどうなることやら」
“勇者”はそっと呟いた。“勇者”というものはいろいろと縛られる身分だ。そして、“魔王”達が襲ってくるだろう。
そして、“勇者”の動向は世界が注目している。その中で“聖剣”作りは困難となるだろう。
それならば、彼ら任せるべきだ。真の敵とやらをうつために・・・
あいつらというものがどんな手を打ってこようと、今いるメンバーなら、それほど脅威ではない。
「相談は必要だな」
“勇者”アレスは困ったように呟いた。




