勇者パーティー in オーディナル聖王国 12
「これから死にゆくあなた達に私の名前を上げましょう。私の名はブヨブヨ。魔王様から頂いた名前です!」
男はふざけているとしか思えない名前を嬉しそうに叫んでいった。
頭のねじが何本かとん出そうに思えなくもないが、本人的にはかなり気に入っているらしく自分の名前についてつっこむのは野暮ってもんだろう。たぶん。
「・・・まあいいや」
「・・・そうね」
フェミンとドレクはいきなりやる気を削がれた。これが作戦なら、かなり効果がある作戦だろう。
自分の名前で相手のやる気を削ぐ。悪くはないがセンスは疑う。
「あなた方が私に勝てると思わないことですね」
「へえ」
ドレクが近づいて槍を振った。
一瞬で男の体が切り裂かれるが、すぐに男の体が直っていく。
「やっぱ、スライム型のモンスターか」
「ふっふふ、私をなめない方がよろしいですぞ」
男はそのままドレクに飛び掛かった。だが、男の前には見えない壁のようなものが現れて、阻まれる。
「魔法障壁?これは・・・何故だ。魔力が吸い込まれる」
「まあ、そういうものだしな」
ドレクが静かに言うと槍を繰り出した。スライムの核を狙ったものであるが、男は後ろに飛びすさり、あっさり避けられる。
「やっかいだな」
ドレクはあんまり緊迫感がない感じで言った。
「逃げられるんじゃないわよ」
フェミンがドレクの背後に立ちながら言った。
「戦わないの?」
「服が解けそう」
まあ、スライムに触れたらそういうこともあるだろう。人の肌を溶かし、服や武器を溶かす。
スライムを苦手とするというか、好き好んで相手する女性はほとんどいないのはそれが主な理由だったりする。
「取り込まれたら・・・」
「正直、戦ってきてほしいのだが・・・」
「ヘンタイ」
「それは今は誉め言葉だぜ」
「バーカ」
ドレクはため息を付くと槍を振った。それが白く発光を始めた。
「ばかめ、そんなもので俺を付こうとしても無駄だ・・・?」
そこで男はあることに気が付く。自分の体は割と強い消化能力をもち、大抵の武器を溶かすことができる。
そう、自分の体を通り過ぎたあの槍が壊れていないことがおかしいのである。だが、どうみてもあの安物の槍が壊れている様子はない。
「なんだその槍は?」
思わず呟いた。
「紫電」
ドレクは小さく呟いた。ドレクの姿が消え、気が付けば、スライムの体に槍が刺さっていた。
辛うじて、核がある心臓部は逃れていたが、槍が体に刺さっていた。だが、次の瞬間、電撃がほどばしった。
男の体を構成していたスライム状の液体が一気に蒸発して消え、男の姿はなく核だけが残る状態になる。
『バカな』
ドレクはその核に槍をそのまま突き立てた。槍と地面の間に核が挟まった状態である。
『暴食の魔王の使い魔が・・・』
ドレクがそのまま槍でその核を砕いた。核が何か言っているようだが、容赦なく壊した。
「雑魚が・・・」
ドレクは静かに言った。それを見てフェミンはため息を付いた。
「もったいない。貴重な情本源になるかもしれない相手を・・・」
「あれ元に戻ったら面倒だぜ」
「まあ、スライムだしね。捕まえるのは確かに面倒ねえ」
フェミンはため息を付いた。
「とどめを刺す前に脅迫とかしておけばよかったのでは?」
「脅迫なんて、俺のような善人ができるとでも?」
「できないの?」
「好きな女の子の前だしな」
「はあ?」
ドレクからしたら、とても大切な理由だが、フェミンからすれば、くっだらない理由である。
というか、誤魔化す気満々で、そんなことを言われても、納得なんぞできるはずがない。
「っていう理由じゃあだめ?」
「だめ」
誤魔化せないと飽きらめて少し顔に似合わずできるだけ、かわいらしくドレクは言ってみるものの、それほどかわいくもなく、フェミンを誤魔化せなかった。
「なんでだよ」
「まあ、少し強さそうな奴を倒したのは評価するわ。ただ、相性があんたと悪かっただけだろうけど・・・」
「まあね」
フェミンでは勝てなかったということは、ドレクは言わない。その事を気にしているのは彼女だからだ。
他のメンバーなら対抗手段はいくらでもあった。対抗手段がなかったのはフェミンだけなのだ。
ギリっとフェミンは悔しそうに歯を軋めたが、それを察したのか、ドレクが頭をポンポンと叩いた。
「まあ、俺も5年ほど修行しているしな」
優しい言葉だった。フェミンだけが他のものとは違って上手くいっていなかった。
彼女が情報集めの技能の方をがんばっているのをみんな知っていたし、特に何も言っていない。
特に情報を集めたりする仕事をするはずだったところを、自分を強化する方を選んだラプサムなども文句を言うはずもなく、それ以外のメンバーもそれなりに苦労をしている。
フェミンのパーティー内での弱さに、ついては特に誰も文句を言っていない。
それが逆に彼女の心により大きなしこりを生む結果となっていた。
「気にするなとは言わない。精進してくれ。俺たちのために」
ドレクは静かに言った。
「わかった」
フェミンは静かに答えた。ドレクは才能があるというよりは特殊な環境で育てられ、早めにメディシン卿と出会い、それによってその才能を開花させたのだ。
それでしか過ぎない。
その差が二人の差なのだが、フェミンはそれも含めて悔しかった。一流のギルドにいたにも関わらず、このパーティーでは戦闘で役に立たなくなりそうな気がした。
それが勇者パーティーなのだ。
バケモノの集い。
フェミンは天を見上げ、努力することを誓った。
それにバカにされないように・・・
「つうか、そろそろ、頭撫でるのやめてくれない。へんたい」
「それはごめん」
何処か締らない二人だった。




