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勇者パーティー in オーディナル聖王国 9


「今の今までどこほっつき歩いてたのよ」



 怒鳴り声が酒場に響き渡る。きりっとした目の少女が大剣を背中に持った少年に向かって叫んでいた。


 彼女の名前はフィリロ・ゼイン。魔術学園を首席で卒業した天才魔法使いと言われている人種の一人だ。


「オヤジには置き手紙をおいといたつもりだが?」


「いやそういう問題ではないだろう」


 聖騎士の鎧を纏った少年が苦笑いを浮かべて言った。彼はサミット・シュットタルト。聖騎士の男だ。


 そして、完全に怒られているのはネヴィル・ガルトラントだ。ガルトラント家は聖王国の英雄といわれ、数々の功績を打ち立てた名家である。


 その従者としてシュットタルト家は騎士を輩出し、ゼイン家も同じく魔術師を輩出している。


 つまり、三人は小さい頃から家のつながりがあり、幼馴染として育ってきたのだ。他にわんぱく娘の王女がここに加わるのだが・・・


「魔王を封じた剣を勝手に持ち出したら、問題でしょ」


「まあな」


 ネヴィルがそれも仕方ないかという反応をした。


「というか、なんでそんなもの事をしてまで、それを持ち出したんだ?」


「どうやら、この剣そのものが魔王らしい」


「はあ?」


「でな、俺は剣の所持者として選ばれた」


 ネヴィルが素直に言った。二人の幼馴染の顔色が大きく変わった。


「本当か?」


「本当だ」


 サミットの言葉をネヴィルは静かに返した。


「魔王になったのか?」


「そんなつもりはないが・・・まあ、力借りようとは思う」


「ネヴィル・・・」


「俺はどっちでもよくなった。ただ、見返したかった。今はそれだけだ。それ以上の事はしないさ」


「どういうことかわかっているのか?」


「どっちだって一緒だ」


「何?」


「お前らの才能にひがみながら、生きて行って自分がどんどん腐っていくのを、誰にも告げれず、誰にも理解されず、それでもお前らと仲良くしなきゃいけないんだ」


「ネヴィル・・・」


「すまんな・・・俺が弱くて」


「ネヴィル・・・」


 ネヴィルは立ち上がって、ポンポンと二人の肩を叩いた。


「俺は確かに世界の敵になったかもしれない。けど、俺はそれでも人を積極的に殺す気にはなれない。冒険者をやるつもりだ。こいつが文句をいいだしたら、捨てるなりなんなりやるさ」


 ネヴィルは軽い気持ちで大剣をポンポンと叩いた。


「お前はそれでいいのかよ」


「ああ」


「友達や家族を捨てることになるとしても・・・」


「もちろんだ。例え、世界の敵になろうとも、こいつからどんなに文句を言われようとも、英雄のすることじゃないと言われても、どんな屈辱も今の腐っていくのを隠しながら生きていく方が俺はつらい」


 ネヴィルは二人に向かって言った。


「次は敵かもしれない。だが、次は敵でないことを俺は願う・・・いや、次は敵だな。闘技場で会おう」


「ネヴィル」


「俺はガルトラント家の推薦ででるつもりだが、ガルトラント家として出る気はないからな」


 ネヴィルはそういうとゆっくりと歩き出そうとした。


「お前、その話は父親にはしたのか?」


「置手紙には書いてある。今回出場させてもらえないなら、親子の縁を切り、親から金を奪った糞野郎になるだけだと言った」


「お前・・・」


「だから、ほとんど会っていない。まあ、招待状を取りに行っただけだけどな」


「ほんとに魔王の力をふるつもりなの?」


 フィリロが静かに尋ねた。ネヴィルは肩を竦めた。


「なるべくなら、振りたくないし、別にその日暮らしができればいいとは思っている。絶対に手に入れたいものとかないしな」


「セイラにはどうするの?」


「これから聖女になるんだ。俺とは関わらない方がいい。魔王の力に落ちたバカ野郎なんてな」


 ネヴィルが苦笑いを浮かべた。フィリロがため息を付いた。


「そうか、あの子聖女になるんだよね・・・それでいいのネヴィル?」


「いいんだよ。あいつは俺にとって一生高嶺の花であってほしいんだ」


「ネヴィル・・・」


 それは思いであり、願いであった。


「そういうことでよろし・・・」


 ネヴィルは去ろうとして、足を止めた。視線の先には女連れの男三人組が立っていた。


「やあ、世界の敵」


 男がネヴィルに嬉しそうに話しかけてきた。


「困るなあ。約束だと君はセイラじゃない方を指名する予定だよね」


「魔王連合か・・・セコい商売しているな。お前ら」


 ネヴィルはのんびりと返した。向こうから流れてくる敵意に反応しているようである。


「ネヴィル?どういうこと?セイラを指名するんじゃないの?」


「そりゃあ、俺はセイラを指名する予定だぜ。なんせ、セイラを指名したら、セイラは一生一人身かもしれないからな」


 ネヴィルは嬉しそうに言った。すると男が目を大きく開いた。


「はあ?お前があの女と結婚して傀儡にするはずだっただろ?」


「何の話だ?」


 ネヴィルが顔をしかめた。そんな話は聞いていなかった。


「なんで、そこまで行けるんだ?あっちは王女だろ?婚約者は・・・まあ、俺くらいか」


 そういえば、そんな話があったような気もしないでもない。英雄になれないのなら、文官としてセイラに仕えろという話があった。


 それが許嫁まで進んだということは聞いたことがなかった。いつのまにか心変わりでもしたのだろうか?


「そうだ。お前と彼女は知己の仲ではないか!」


「そうだが・・・」


 ネヴィルはそういうと周りを見た。昼間のレストランなのでそこそこ人がいる。人がいるのにこんな突飛もない話をしているのだ。


 いきなり現れた男たちのただならぬように、皆が耳をそばだてて聞いているにも関わらず。


 こいつは・・・いや、こいつらがおかしいのだ。おそらく、目撃者であるここにいる人間をすべて殺すつもりだ。


「そうだろ?劣等種が魔王の力によって、強くなり、今までバカにしてきた奴にやり返し、王女を手に入れて、国を好きにする。傑作だな!」


 男は嬉しそうに叫んだ。明らかにおかしい奴だ。


「やばい奴だな」


 ネヴィルがかなり引いた様子で言った。


「こいつ強いのか?」


「おそらくな。魔王連合の会議に呼ばれて参加したから、顔は知ってる」


「魔王連合?」


「ああ、魔王は強制的に参加させられる会議だ。あんなのが何人もいて会議どころではないかったな。闘技会に誰を送るかで話し合いになり、元々俺は出場するつもりだったが・・・」


「そうだ。お前みたいな半人前じゃなくて、俺が参加するんだよ」


 半人前というのはおそらく、ネヴィルが魔王そのものではなく、魔王の力を借りているからそういうことを言っているに違いない。


「半人前ね」


 ネヴィルはそこでもそういう扱いを受けていた。これも運命だと思って諦めている。


 こいつらはあまり賢くはないらしい。ネヴィルが無能という扱いを受けてきたからこそ、魔王の力を使うようになったにも関わらず、魔王側からすれば、力を借りるだけのものという扱いを受けている。


 本末転倒という奴だろう。だから、ネヴィルは魔王連合に参加はしているが、そっちに付く気はない。


 別に仲間が欲しいわけではないのだ。その意見にはネヴィルの“魔王”も賛成している。“魔王”は周りに縛られる者というよりも、孤高の存在というのがネヴィルの“魔王”の持論だ。


 つまり、基本的には魔王連合には敵対する気はないので、会議に参加しているが所属するきはない。それが“二人”の意見だ。


「まあ、俺超TUEEからお前に勝っちまうぜ」


 と女を侍らせた男が嬉しそうに言った。ネヴィルはサミットの方を見て、


「まあ、闘技場で会おう」


「そうだな」


 ネヴィルは無視することにした。


 ネヴィルはサミットの腕を知ってるし、魔王というものを理解している。サミットは一種の天才だ。かなりの剣の腕を持っている。


 ネヴィルが知っている時よりも剣の腕は確実に上がっているだろうし、サミット以上のバケモノが出場する。それがガルドルだ。


 あれもとんでもないバケモノだ。ミスリルゴーレムを切り裂くほどの剣劇をもっている。普通の闘技会であれに敵うことはできない。


 ネヴィルですら敵う気がしないのに、全く鍛え上げていない目の前の男にガルドルが負けるなんて思わなかった。


「無視すんじゃねえ」


 と言われたが、ネヴィルはそのまま去り、他の二人も立ち上がってそのまま去ろうして、サミットが言った。


「優秀な冒険者たちが来る前に君たちも逃げた方がいい」


 サミットは二人に対して静かに言った。


「ふざけん・・・」


 何か言おうして、気が付いたら目の前にサミットがいなかった。


「隙が多いよ君」


 いつの間にかゼロ距離を詰められて、サミットに耳元で囁かれていた。


「何?」


 男はそう呟くしかなかった。


「それじゃあ、勝てない」


 サミットは静かに言うと、ゆっくりとその場を去った。その後ろをベーと舌を出しながら、フィリロが付いて行った。


 男は何が起きたかわからなかった。それが魔王としての自分の実力不足を痛感した。


「大丈夫?」


 取り巻きの一人が言った。


「くそ」


 男は悔しそうに叫んだ。


サミットの名前と、フィリロの名字をとある事情で変更しています。

そのため、誤字があるかもしれません。


すべての訂正や文章の改正は年明けの予定です。

実は年内100話を個人的に目指しています。

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