勇者パーティー in オーディナル聖王国 6
ドレクは困っていた。
ドレクのこの国に来た理由は聖女選挙ではない。王竜がいったようにハーレム探しも大事な使命だ。
そのハーレム要員になりそうなものが見当たらないというのが骨だ。ビビッとくるものがいないのだ。
これだけの人々の中でそんな人に出会わないのが不思議だ。今の所、フェミン並みか、それ以上に来る女性を見つけられていない。
ふむ。ハーレムとは難しいのだなとドレクは思った。
まあ、フェミンがいるのでそういう成分には困っていないのだが、ハーレムを作りたい男としては悩み処だ。
「難しいな」
と思っているとなかなか来るものがある女性が歩いていた。
一つ残念なことがあるならば、その女性の隣には男がいた。しっかりと腕を組み、この男は自分のものであることをしっかりと訴えている。
はずれか。
ドレクは少し寂しい気持ちになった。人のものからわざわざ奪ってまでハーレム要員にするべきではないと思っていたので諦める。
だが、その二人の男女に何か違和感を感じた。どこか、陰りのようなものを感じるのだ。何故かわからないが・・・
男の方を見るが、かなり腕の立つ印象だ。ドレクよりも腕が立つかどうかまでは不明であるが・・・
それでもかなり強いことはその立ち振る舞いでわかった。
何者だ?
そこで違和感に気が付いた。その二人、男がそこまでの腕があるのにどこか遠慮のようなものがある。
何か誰かに見られては困るそんな印象がある。秘密のデートと言った感じだろうか。
男の身なりも女の身なりもそれなりによく、身分違いの恋というものにはどうしても見えない。
なんで、そんなことがわかるかというと、ドレクにもいろいろと遊んだ時期がある。女性に騙されて痛い目にあったことはなんどもあった。
まあ、痛い目に合わした方がかもしれないが・・・美人局にであって、身ぐるみをはがされてボコボコにされそうになって、本気を出して半殺しにしたのは若気の至りという奴かもしれない。
今も十分に若いんだが・・・無茶をしているつもりなんだが・・・
「まあいいか」
密会している二人を邪魔するのもなんだなと思った。
上手くいけばいいなというが、この世界、貴族というのはいろいろと難しい。特に許嫁という制度があり、まあ、近々でそれが何故か必要以上に上手く行っちまった例があるのだが・・・とそんな特殊な例を除き、貴族社会では望まない結婚というのは珍しくはない。
許嫁がいる身分でこういう恋愛をしてしまうような例も、別に珍しいものではない。
悲恋か・・・
一瞬、フェミンの顔が浮かんだが、振り払った。彼女と自分はそういうことはない。そういう身分違いの恋というよりはもっと根本的な問題があるのだが・・・
恋愛感の相違。
ドレクはなんとなくは気が付いている。難しい問題な気がするが、そういう恋愛感の相違も時が埋めてくれるような気がしたので、長期的にみるつもりだ。
アレクとトキア嬢か・・・まあ、あの二人は王族ではないし、一般貴族なのでそもそもハーレムの義務はない。ハーレムの義務があるのはドレクなのだ。
そんな義務があるドレクが珍しいので、普通の貴族でもそういうことは本来ないのだ。
ドレクはいやワルシャル竜王国の王族はそういう義務を負っている。その主な理由が王竜の世話をするのが王族という縛りがあり、ドレクはその使命によって妻を増やし、子を増やさないといけないのだ。
それが王になるための未知の一つなのだ。ドレクはその教えに忠実に従うものなのだ。ある意味真面目。
そんなドレクとは別の悲恋と言えば、ラプサムとレミアだろうか。
お互いに惹かれあっているのに関わらず、付き合うことができない。レミアが聖女で、聖王国的にはラプラムは従者という立ち位置になっている。
この二人の例は極端とも言えるが、上手いことレミアが聖女の職を捨てることができたので、結ばれることができそうだ。
しかも、ラプサムにはヘレンというかわいい子までいる。
ハーレムという奴だ。ドレクが目指すハーレムはもう少し大きなものになるのだが・・・
親子丼。
そんな言葉がふいに浮かんだ。それはさすがにないと思いつつ、ついつい憧れてしまうのはきっとドレクがダメ人間だからだろう。
そんな美人の親子いるのか?
美人が子を産めば、美人か・・・
何処か納得したように思い。そういうのも探すのもありだなとドレクは思った。いいか悪いかは別として。
「グッとくるといいな」
そんな風に思いながら、二人が移動するのを見ていた。
どこかで「バカ」という声がしてきたような気がしたが、特に気にしなかった。
ドレクはあの二人の姿がなくなったのを確認すると、側にあった酒場に入った。
ドレクは今はごつい鎧と兜を着ていないから、あの式典で勇者と一緒に歩いていたものとは誰も思わないような冒険者風の格好をしていた。
ワルシャワ竜王国内をあるく姿だ。
市勢を見るためにはこういう格好もいいし、そもそもドレクの不意をつくことはできても殺すことまでは普通はできない。
ドレクの体はある程度の毒の耐性がついている。よほどのことがない限りはドレクを殺すことはできないのだ。
そんなドレクの前に粗暴な男どもがいそうな酒場に、不似合いなお子様としか思えない少女二人がいた。特徴といえば、二人そろって同じ顔といったところだろうか。
要は双子というやつである。
「何しに来た」
明らかにドレクの方を注視していたので、あまりやる気はないが声はかけておく。
なんとなくだが、相手しないで置くと余計な騒ぎを起こしそうな気がしたからだ。
「ふっふふ、貴様が勇者パーティーのドレクだな」
双子の一人が嬉しそうに言った。その二人は魔法使いで有名な魔術学園の魔術科の制服を着ていた。要は女学生という奴だ。
学生服で年齢が把握できているほどドレクはマニアではないが、かつての貴族の紹介を受けた時にその制服を着た少女を紹介された気がした。
その子にグッとは来なかったので、気にはしなかったが、制服は覚えていた。学生制服という存在が物珍しかったから印象に残ったのだ。
そういう趣味では決してない。
「随分な、態度だな。まあ、そうだ」
勇者パーティーは今ほとんどが大聖堂にいる。大聖堂の台所を借りての訓練や庭を借りての訓練をしているはずだ。
ここにいるわけがない。何故、勇者たちが訓練がしているのか?
バトルジャンキーに何を言っている。ラプサム達はメディシン卿が提供する新たな技術の研鑽のためにこのパーティーに協力しているのだ。
その中でラプサムはかなりの頭角を出しているといっていい。パーティーに合流する前と今では別人のようになっている。レミアからすれば、若い頃に戻っているという感じらしい。
10代はかなりやんちゃだったらしく、その頃の彼が戻ってきたとレミアは思っている。
ちなみにフェミンはそんなラプサムがあまり好きではないらしく、少しづつだが距離を置くようにしているようにうかがえる。
やんちゃというよりは頼りになる先輩というイメージのようだ。その点は意外と付き合いの長いヘレンとは違う反応だ。
「それにしてもよくわかったな」
「この天才魔術師ピルクの目にくるいはない。貴様の正体などすぐに見抜いてくれるわ!」
「この子大丈夫か?」
ドレクは妙な態度をとるピルクという少女に嫌なものを感じながら言った。
「いつもこんなの」
もう一人の少女がそうドレクに返した。
「ふっふふ、このピルクが直々に頼みがある。我妹、聖女候補ミラクと共に貴様の仲間に入れろ!」
「はあ?」
ピルクが妙なことをいうのでドレクの反応が止まった。
「貴様、レスポンスがよくないぞ」
「・・・いきなりすぎて思考がとまったんだが?」
いきなりのいいように戸惑った。勇者パーティーといえば、それなりに優秀な人材が世界中から求められる。
いちお、候補者の応募は何人か着てはいるが、このパーティーに突然やってきて、入ろうとする不遜な人間がいるとは思わなかった。
聖女候補とはなかなかだ。ただ、聖女候補はほぼ二人に絞られているはずだ。おそらく、その前段階で落とされた少女のように思えた。
「と言われたてもな」
と正直な意見を述べた。パーティーの編成については目下、ラプサムやメディシン卿に任せるつもりだ。
ラプサムはパーティーのサブリーダー的なポジションだし、メディシン卿は実質的なリーダーだ。その年上に任せるつもりだ。
「俺のハーレムならいいかもな」
ドレクはそういって、二人を見た。一人一人ではそれほどグッと来ないが、二人ならグッと来た。
強気の妙なものに被れている姉と一見内気そうに見える妹の二人だ。この双子なら、ずっとハッピーに遊べそうな気がした。
「ふざけるな」
「だって、こっちには経験豊かな実績のある元聖女様がいるんだぞ」
レミアの事を言った。ガルドルギルドの人員として、レミアはしっかりと実績があり、ちからもそれなりにある。
姉の方は必要な人材な気がするが、妹はそれには当たらない。回復薬ならレミアとメディシン卿の薬がある。そういうことで手があるのだ。
「くっ、ヘンタイだし大丈夫?」
「勇者パーティーで一番女にだらしないと聞いた」
悔しそうにするピルクの問いにミラクは首を傾げて答えた。意外と揺れないドレクに戸惑いを覚えているように思えた。
それを言われるとドレクは押し黙るしかない。
グサッとくるものがある。妻帯者二人に、実質ハーレムの長。男性メンバーのうち、三人がそんな状況でさらにフェミンもどちらかといえば見たいな感じだ。
ドレクが弱いのは確かだろう。そして、ドレクは王族で尚且つ、ハーレムメンバーを募集しているのはちょっと調べればわかることだ。
そういう意味で女に弱いのは確かだ。
ちなみに勇者とトキアは共有精霊で繋がっているので、いつでも連絡を取れたりする。湖と泥の精霊スサノーという精霊だ。水の供給や汚物の処理もしてくれる素敵な女神だ。
長い旅になったり、子供ができて不倫に走ったらいやだろうということで、メディシン卿が契約させた精霊だ。非常に便利な精霊だ。
そんな状況なので悪いことができない状況になっているのだ。
「言いたいことはわかるが、やめておけって。お前ら実績も実力もないしな」
「見せてやるわよ!」
ピルクはそういうと右手を出した。そこに魔力が収束されるが、すぐに消えていく。
「え?」
「中々だな」
ドレクは立ち上がってピルクの腕をつかみ、その耳元でそっと囁き、ペロッとその耳を撫でた。
「ひぃ」
その行動に思わず悲鳴に近いものをあげる。
「おいおい、驚くなよ」
ドレクはどこか馬鹿にするように言った。余裕があるらしく、ペロッと舌なめずりした。
「ピルクちゃんは私が守る!」
ミラクはそういうとドレクの殴り掛かった。いいストレートであったが、ドレクはそれをそのまま受け止めた。
「な!」
ミラクはダメージを与えるつもりで殴った。本来なら、石壁なら平気で穴が開く様な一撃だ。だが、ドレクはそれを平然と受けていた。
「いいパンチだ」
だが、それを受けても全く動じた様子もなかった。ミラクの放ったダメージを食らっても・・・
「神官戦士か、聖騎士といったところか。なかなかの聖拳技だと思うが、俺には届かないな」
「バカな・・・」
「竜騎士をなめるなよ」
ドレクはそういうと容赦なく、ピルクの腹に拳を入れ、ミラクの首筋に手刀を入れた。
ミラクの攻撃が通用しないことに戸惑っている二人には大きな隙が生まれ、その隙をドレクがついたのだ。
二人はバタリと倒れ込んだ。
ガシャンとテーブルが倒れると同時にテーブルの上にあった皿などが割れてしまった。
「すまんな、修理費はこれで足りるか?」
ドレクは割と喧嘩ぱやいほうなので、常に物を壊した弁償代をもっていた。それを店員に投げつけた。
「あっ、はい」
金貨を渡されて、急いで調理場に戻った。倒れた二人を見て、ドレクはため息を付いた。
まあ、このままにしておくと、さすがの彼女たちも悲惨な目に会いそうなので、別の場所に連れていく必要があるような気がした。
槍を背中に担ぎ、さらに二人の少女を両肩に担ぐと、適当な額をその場において歩き出した。それに話しかけるものは皆無だった。




