だから僕は騎士をやめた その後
僕が騎士をやめたわけ その後
「ありがとう」
彼女は嬉しそうに言った。今まで言いたくてもなかなか言えなかった言葉が言えた。
「気にしなくてもいいのに・・・」
薬屋になった元騎士の少年は苦笑いをしていった。
「僕には騎士は無理だったみたいだし、ほら、実家が薬屋だからこっちのほうが性にあっていたかも」
自作の回復ポーションを見せて言った。
綺麗な色のポーションがガラス瓶の中で揺れていた。
「でも、薬屋は山に行くんでしょ」
「危ないところにはいけないよ。僕はもう・・・」
そういうと、自分の足を見つめた。
自分でナイフを刺した後、予後があまりよくなく、不具合であまり動かくなっていた。
片足を引いて歩くことはできても、走ることはできなくなっていた。
「やっぱりよくないんだ」
「薬屋のおばさん・・・師匠にも相談したんだけど。これは難しそうだって」
師匠とは彼がやっている店の本来の主だ。ある程度教えたら引退して彼に譲る気ではいるらしい。
「処置が早ければ、どうにかなっていたかもとは聞いた」
「放置されていたもんね」
「状況が混乱していたし、僕もまともな状態じゃあなかったしね」
「そっかあ」
「正直さ」
「うん」
「君があの日、あの時だけでも、無事ならよかったと思った」
「え?」
「命に代えても守りたいと思ったんだ。無力な僕が」
「そうか・・・」
「君を守れるなら死んでもいいと思った。だからね、足がこうなっても僕は結果的には満足なんだ」
「・・・・・・そっか」
「うん」
「私ね」
カランと、店の扉があく音がした。
「ごめんなさいね」
「え?」
店にお客が来る。シスターの格好をした女だった。
その女性をみて、彼女は驚きの顔を浮かべる。
「いらっしゃい。注文はなんですか?」
「あら、思ったよりかわいいこね」
「回復薬ですか?」
「違いますよ。あなたに用があってきたの。小さな英雄さん」
「?」
「姉さんが。どうしてここに?」
「姉さん?」
「うふふ」
その女性はそういうと俺の側まで寄った。
「あなたが妹や同僚の方を助けたんでしょ?」
「えっと・・・」
「これは特別だからね」
彼の足の方に向かって手を差し出した。
その手から光の粒子が飛び出し、それが彼の足を包み、消えていった。
癒しの光と呼ばれる呪文とはちょっと違う呪文な気がした。
「これで大丈夫よ」
「何が?え?」
「足が普通に動いている」
二人は驚いた顔になって言った。あれほど動かなかったものが動いているのだ。
「あなたはこの国の騎士に呆れてしまったかもしれないけど、あなたの行動はきっと騎士たちの間に密かに受け継がれるでしょう」
女シスターはウインクした。
「だから、あなたの行動は無駄じゃない。あなたは騎士、いえ、あの呪術に苦しむことになってしまった人々の指標になったのよ」
くるっとターンして、店の入り口まで行き、振り返ってうれしそうにいった。
「そんな小さな英雄への僅かばかりの感謝よ」
そういうと、そのシスターは店から出て行った。
「ありがとうございまし・・・た?」
薬屋が魔法にお世話になったことに違和感を覚えながら、椅子に座り込んだ。
「魔法か・・・」
「お姉ちゃん、優秀な治癒士なの。まあ、私もその才能がないってわけじゃないけど、負けるわ」
「あそこまでいくと奇跡だね」
肩をすくめながら、くせになりつつある左足を摩った。
「いちお、自分で治す気ではいたのにね」
「なるほど、うちの姉が余計なことを」
「でもないさ。あれを見て薬屋と一緒に治癒士に興味がわいた」
「なるほど」
「騎士以外にも覚えることなんてたくさんあるんだなって思った」
テーブルの上に置いてあった薬草を手に取って、くるくる動かした。
「・・・・」
「・・・・えっと」
「あの時はごめんね」
「え?」
「怖がらせて」
「うん。・・・・・・・あれはひどかった。今も夢に見る」
「ごめん」
「けどね。怖い夢だけど、悪い夢じゃないから・・・」
「え?」
「・・・必死な君に逢えるから・・・」
「え?今なんて?」
小さい声で最後の方は聞こえなかった。ただ、ちゃんと聞こえた方がいいような気がしたので聞き返した。
「わたし、それがいいものになるようなお呪いが思いついたんだ」
「・・・そんな方法があるの?」
「うん」
そういうと彼女はカウンターを華麗に飛び越えて、彼の前に立った。
彼の両手を握りしめて、自分は彼の座っている足元まで近づく。
そして、手に取った両手を自分の頬に充てる。彼女は彼の手の感触を感じながら目を瞑る。。
「これは」
それから目を開いて二人は見つめあう形になる。
「これなら、いい夢がみれそう」
「え?」
彼女は彼の手を自分の頬にホールドしたまま、彼の唇を奪った。
「ん?」
それからゆっくり離れて彼女はうれしそうにいう。
「ほら、いい夢になる」
かわいい舌をだして、ぺろっと唇をなめて、それから恥ずかしそうに少し頬を赤らめて、カウンターを飛び越え、脱兎の如く、店から出て行った。
嵐が過ぎ去ったような気分になり、彼はそっと安堵の息を零した。
それから彼女に手を取られたときに驚きで落とした薬草を拾い上げて見つめる。
店の外では女性たちの元気な声が聞こえてきたが、気恥ずかしいので、聞こえないふりをしつつ。
「神の奇跡か」
彼は静かに呟いた。