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囚われの猫4


 あたしは目を疑った。



 信じられるだろうか?嘘だと叫びたい。


 だって・・・


 だって・・・あのセンパイが、あのクールでいつも落ち着いているあのセンパイが・・・


 女にだって滅多になびかないことで有名なあの、あの堅物のセンパイが・・・




「あーーん」




「あーん」



 レミアというかつて“聖女”から転身して“娼婦”になったのではないかと思う様な対応をしていた。


 それに少し頬を緩ませながらも答えるセンパイ。


 おいしそうな香りのするクッキーを手でつまんで、センパイ口の中に入れていた。


 それにダラっとして気怠そうにしながらも、口を開けて入れるセンパイ。


「あーん」


 そして、その隣にはいつの間にか勇者パーティー入り込んでいるヘレン・バーン嬢が「あーん」している。


 センパイはレミアに突っ込まれたクッキーをゴクリと飲み込むと


「あーん」


 と、実にめんどくさそうに口を開けた。


 それをみて、あまり表情に出さないがうれしそうにヘレンがセンパイの口に入れる。


 よくよくみるとセンパイはどかっとソファーに座り、背もたれに両手を広げてかけていた。それは二人の女性の後ろに手を回しているような絵に見えた。


 それにしか見えなかった。


 フェミンの理解ができない状況だ。この三日の間に一体この二人に何があったというのだろうか?


 状況の進みぐわいに頭が追い付かない。


 これは誰がどう見てもハーレムにしか見えない。


「え?」


 フェミンはドレクを見た。ドレクも肩を竦めた。


「いやあ、二人にはお菓子作りを進めたんだ」


 とメディシン卿は言った。


 お菓子作りであんな風に積極的になるなんて聞いたことがない。お菓子作りの時に何か仕込んだのだろうか?


「好きな人のことを思いながら、魔力を練り込むトレーニングだよ」


 聞いたことがない。魔力を使ってお菓子作りをしておいしくなるなんて初めて聞く話だ。


「おいしくなるためには繊細な魔力の練り方が必要でね。素材によって魔力の練り方とか違ったりするんだよ」


 実に“神の薬師”と言われた男らしい説明の仕方だ。


「どうやら、好きな人の事を思ってやってたら、盛り上がったみたいだね」


 メディシン卿はクスクス笑った。完全に笑い事ではないのではと思った。


 というか、あたしにとっては死活問題なんですが・・・


「あんなハーレムいいよなあ」


 ドレクが嬉しそうに言った。


 ハーレムは男のロマンだぜ。とか前のギルドのメンバーが言っていたが、とんでもない。


 あたしはそんな風なことは望んでいない。


「どったの?」


「な・・・なんでもない」


 というか、センパイ。人が変わったようにダラしくなくなってませんか?


 気が抜けたというか、垢ぬけたというか・・・


「おう、フェミン治ったのか?よかったな」


 ようやく、こっちに気が付いたらしくセンパイが優しい言葉をかけてくれた。


 あたしに気が付くとレミアとヘレンが冷たい目線が来た。



 何?文句あんのあんた?



 レミア先輩はわかるが、まさかのヘレンがここまで変貌するなんて、というか、すっごいデレデレなんですが・・・


 つうか、その状況あんたらそれでいいのか?


 戸惑っているあたしの様子を見て、二人はほぼ一緒に鼻で笑った。



 相手にならない。



 暗にそういっているようにしか、思えない。そんな表情を浮かべて、二人同時に「あーん」と言った。


 しかもさりげなく、同時に入れてもらうべく、クッキーをきっちり半分にしている。


 仲いいな。あなた達。


 というか、前のギルドでも君たちそんなに仲も息もぴったりではなかったのでは?


 それに対してセンパイは口をゆっくりと開けて、二人を向かい入れる。


 その目はだるそうにしながらも、どこかうれしそうだ。


 うれしいのをひた隠すそんな風にしかみえない。完全にデレていやがります。


 完璧なナイスガイなセンパイが、こんな風に堕落するなんて信じられません。本当にいったい何があったんですか?


 そして、なんすか、さっきからずっとダルっとした感じは・・・


「がんばったから、たべようねえ」


 レミアがあやすように言った。


「うん、ラプサムは頑張ってる」


 ヘレンも言った。


 二人は頑張った子供をあやすように母性を溢れさせていた。


 いや、ほんと何があったんすか?この三日で?あたしが気を失っている間に。


 この二人、というか、ヘレンの変わりようも凄い。


 ラプサム先輩、昔はあんなに拒否ってたのに、なんでそんなにレミア先輩を受けれ入れてるんすか?


 もしかして、今まではガルドルさんを気にして、そういう態度で今は自由になったからそうなったんすか?


 あたしの頭の中は大パニックだ。


「大丈夫か?」


 ドレクが心配そうに言ってくれた。これがクールな先輩だったらどれくらいうれしいことやら・・・


「いやあ、恋って大変だね」


 と既婚者、子供二人がのんきにおっしゃやがりました。


 レミアとヘレンの変わりようも凄いが、センパイのフリーダムさも凄いことになってる気がした。


 以前なら、こういうことになったら、パーティーの士気に関わるとかいってたでしょ。


 なんで、ここだといいの?なんでここはそんなにフリーダムなの?


「で、どっちのクッキーがおいしかった?」


 レミアが妙に色っぽく言った。


「わたし?」


 ヘレンも真剣な顔で言っていた。


「どっちもうまかったよ。前よりよくなったんじゃないか?」


 センパイがそういうと二人はほぼ同時に歓声を上げた。非常にうれしそうである。


「疲れてる人間に毒見させんな」


 だるそうに言った。


 疲れている?あのセンパイが?


「いいじゃん、これも修行だし。サム君の栄養になればって思って」


 レミアが嬉しそうに言った。


「修行の成果がでた」


 ヘレンも拳を握りしめていった。


「疲れがとれるようにもっと食べて、あーん」


「私のもあーん」


「しゃあねえなあ、あーん」


 二人の出したクッキーを同時にラプサムは口にくわえて、パキっと歯で割って、残りを口に入れた。


 残ったのを二人は愛しそうに見つめてから・・・



 同時に食べた。



 二人は凄くうれしそうに楽園に旅立ってそうな恍惚な表情でモグモグしていた。


「えっと・・・」


 あたしはこのよくわからない戦いに参戦する気になれなかった。


「いやあ、ハーレムっていいな」


 ドレクが言った。


「本気で?」


 ドレクにあたしが尋ねるとドレクは目線を反らした。


 メディシン卿の方を見るとそんな三人を穏やかな様子で見つめていた。


 あれを見て何も思わないのか?


 不思議な感じがした。不快にも、うれしそうにも感じない。そんな感じだ。


 ただ、そこにあるものを見ているだけ、そんな気がした。


「?」


 あたしは首を傾げた。


「で、あそこにいくの?」


「・・・無理」


 ドレクの言葉にあたしは今はそうとしか答えられなかった。


 あんな、れべるの高い戦いに参加する気にはなれなかった。あたしには荷が重そうだった。



 ほんとなんなの?



 

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