勇者パーティー in ワルシャル竜王国 6
勇者パーティー in ワルシャル竜王国 6
「失敗か、期待はしていなかった。そのまま、レミアの確保に行け」
カミラの飛ばした使い魔を受け取りながら、男は嬉しそうに言った。
巨漢の男。ガルドル。こう見えて彼は魔術学校の出であり、勇者と目された一人である。
その才能は強力な炎の魔術が使え、何よりも剣の腕が立った。
竜の鱗すら切り裂く、シャムシールの使い手、しかも両刀使い。
その火を纏った剛剣は世界に知れ渡り、最高位の冒険者ギルドになっていた。
今、彼が求めるものはただ、一人。
“聖女”レミアだ。
彼女の“蘇生”の魔法は誰もが憧れる癒し手の最高ランクの魔法であり、その呪文があるかないかでパーティーの危険が大きく変わる。
また、それを前提に無茶ができるのだ。
何よりもガルドルはレミアの事が好きだった。実家の圧力をかけて、結婚を迫ったことがあった。
その時は“聖女”を理由に断れたが、今は状況が違う。
あの女は露骨に自分ではなく、ラプサムを選んだのだ。
ラプサムをやめると決定したあの日、レミアはラプサムをやめることを拒否した。しかし、ある時からやめることに賛成し、そしてそれが決まった。
だが、それを追うようにレミアはギルドをやめ、ラプサムがいる勇者パーティーに入ったのだ。
これを裏切りと言わずなんというのだろうか?
あの女はギルドよりも自分を優先し、ギルドメンバーを裏切ったのだ。
これはギルドに帰ってもらい。制裁を受けてもらわないと仲間に示しがつかない。
「悪く思うなよ。お前が悪い」
ガルドルはあのレミアの前にラプサムの体をずたずたにして、泣いて詫びるまでゆる気はなかった。
あいつはそんなに強くない。
それがガルドルの評価だ。俺が負けるわけがない。
そして、レミアの所にはヘレンとカミラが向かっている。あいつらなら、レミアを捕まえるなんてたいしたことはない。
それにあの二人以外の面々は聞いたことのない若造ばかりだ。
光の契約者が一番上で二十歳ぐらい。あとが、17、18の若造だ。
そんな経験がなさそうなものたちがそれほど強いわけがない。
ちょっと、前まで騒がれていた精霊の森に入ることができる勇者を救ったと噂される“神の薬師”とやらがいたなら話は別だが、あとはたいした成果もないポット出のボンボンだろう。
そんなやつらに負ける気はしなかった。
「さて、お仕置きの時間だ」
ガルドルはゆっくりと歩き出した。
その背後には三人の男たちが付いてきていた。
「お友達が来てるらしいね」
メディシン卿は私の様子を見ながら言った。
もうお菓子作りで、魔力は使い切っている。しかし、魔力を使ったお菓子はよくわからないがおいしい。
愛が籠っている。さすが、私。
「でも、ガルドル達でしょ。勇者様とカレなら大丈夫じゃない?」
暇つぶしに魔導書を読みながら、口にクッキーを加え、ソファーに腹ばいで横になっていた。シスターたちが見たら即倒しそうな体勢だ。
前のギルドならゼッタイにできない動きだ。あそこは元貴族共の目がうざかった。
ここにいるのはみんなはそういうことに理解がある紳士(?)な方々だ。
メディシン卿が私を見ているのも、私の魔力の枯渇し過ぎでないかを見てくれているだけだ。
メディシン卿には強くて綺麗な奥さんがいる。夫曰く、世界一の女性らしい。
そんな人がいるので手を出すような真似はしない。この人ならいなくても別に手は出さないだろう。
なんというか、感情の起伏が乏しいようにも思える。不思議な男だ。
奥さんの義兄曰く、“小さな英雄”のモデルらしい。魔王を倒したり、小さい頃に狼を複数相手にして倒したり、そんな本当にあったとは思えない話だ。
ただ、腰に短剣を下げている。何に使うかわからないが、その短剣を常に腰につけているのだ。
お守りだよと彼は言うが、いつでも抜けるようにしてるのは気のせいではないだろう。今も、その短剣だけは腰につけている。
「まあ、優秀な弟子だよ。一番弟子はラプサムさんだけど」
あの二人もそれなりにやるらしいが、そりゃあ、数日でほぼあれを体得できるようなやつはいない。
あれはラプサムが今まで積み上げてきたことで、それが実を結んだのだ。この男に出会わなれば叶うことなかったことだ。
私も正直、それがうれしい。
ただ、メディシン卿が言ったように私のようなタイプも魔力が量が多すぎて逆にコントロールが難しいらしい。
今のように枯渇した状態の方が逆にそれを仕込みやすいのだ。
故に今も二重防護壁を張っていたりする。
「展開しながら何かするって難しいでしょ」
「まあ、こんなの修行なんて普通は思わない」
「まあ、楽な体勢で好きなことをしながら、のんびりやって」
とメディシン卿は割と無茶なことをいう。
キツと内心思いながらも強くなるためと修行と称してがんばって、ダラダラしながら、二重魔法防護壁をはっていた。
魔力が戻った時もどんな時もできるように、このフリーダムな状態で二重魔法防護壁を張っているのだ。
そのため、魔力が枯渇状態のまま。かなり精神的にもきついが、お菓子や本で気を紛らわせながらやっていた。
「その子たちが来たら、守ってあげますよ」
「それは心強い」
私はそう返した。
光の契約者とか言われているが、この男精霊の力なんて借りなくても十分に強い。
ガルドルとかと、平然と剣でやりあうことができるだろう。それくらいの腕がある。
それもそうだろう。剣姫と謳われた奥さんと、次期将軍候補の義兄の二人に稽古をつけてもらっている。
彼らと純粋な剣の腕で対抗できるものなど、それほどいない。規格外。そんな言葉が浮かぶ。
メディシン卿はため息を付くと扉の方を見た。閉じた扉の向こうに何かいるのを感じたらしい。
何者かが乗り込んできたのだ。
「調査があまいな」
「調査部門がいないもん」
「しょぼ」
「やめたんだから、しょうがないでしょ」
「それもそうか」
メディシン卿は憂鬱な表情になりながら言った。
扉があけられるとそこには二人の女性が入ってきた。単発の黒髪の女性と、長髪金髪の女性だ。
魔術師が好む服装を二人はしていた。
ヘレンとカミラだ。
「見つけた」
「よくここがわかったなお前ら」
「親切な赤ちゃんを抱えた綺麗なご夫人が教えてくれたわ」
「なるほどねえ」
メディシン卿は誰かすぐにわかった。奥さんだ。構ってくれない当てつけに敵に塩を送ったというところだろうか。
ああ、見えてあの奥さんもかなりの力をもっている。子供がいなく剣を持っていたら、こんな賊などすぐに捕まえていただろう。
今回はそれに協力する気になったようだ。
子供もいるし。
「で、なんのようできたんだい?」
「レミアの捕獲」
メディシン卿が静かに尋ね、それに対してはっきりと意志を伝えた。
「へえ、そうか」
メディシン卿が殺気を飛ばした。それを見て、二人は戸惑いの表情を浮かべた。
「これは・・・」
「何者?」
私はまあ、任せておけばいいかと思い。防護壁をそっちに向けた。
「レミア」
ヘレンがレミアに向けて魔法を放ったが、その魔法が二重防護壁に阻まれる。
「うそ・・・」
「これって、ラプサムが使った防護壁?」
二人は驚いたように言った。すでにラプサムがこれを使って防いでいたようだ。
私がなんとか習得した技術だ。
「50点」
それをみてメディシン卿が言った。防げているが、力が漏れていることをしてきしたのだろう。
要は効率がいまいちよくない。ラプサムほど上手くいっていないのだ。
「ラプサムに負けるの久しぶりな気分ね」
学生時代はラプサムの方が割と魔術学校生としては優秀だったので、こんな感じであった。
それがちょっと前まではラプサムの魔力の保有量のせいで、いろいろと言われ、その中でラプサムは腐らず努力を続けた。
その結果だから、悔しいというよりはうれしい気分だった。
「よいっしょっと。あたし疲れてんのよね」
私が疲れて本当にそうに言った。魔力がいつもよりも減っていた。
そしてはしたないかもしれないが、クッキーを口に入れて、その甘みをしっかりと感じる。おいしい。
「あなたも覚えたの?」
「そう、ラプサムとおそろいで」
その言葉を聞いて、ヘレンはいらっとした。冷静さを欠くには十分なものだった。
「ちょっと!」
カミラがヘレンの魔法を放つのを止めようして声をかけるが、遅かった。
ヘレンの右腕に何かが刺さり、爆発した。
「くっ」
いきなりの事でヘレンはよろめき、そのままお尻を地面につけた。
「きゃ!」
爆発の規模は小規模であったが、よろけさせるには十分だった。
「魔法が使われた形跡がなかったけど」
ヘレンが驚いた様子で言った。
「ばか、魔法陣や詠唱がいらない魔法よ」
「この男がラプサムの旦那!」
カミラの言葉に反応し、ヘレンが険しい目でメディシン卿を見た。随分と語弊がある言い方だと思った。
ラプサムは私の旦那様だぞ。
「ちょっと、ラプサムは私のよ」
「違う。私の!」
ヘレンが生意気にもそんなことを言った。随分と積極的になったものだと思った。
ラプサムに近づくのもためらっていた女が・・・
離れていたために思いが強くなったとか、そんな類のものだろう。もっと早く自覚し行動を移すべきだ。
私は時をじっと待っていた。あなたよりもハンデがいっぱいあったけど、こうしてここにいる。
「あなたに言う権利があって?」
「うるさい!」
「ヘレン、レミアを気にし過ぎよ。私たちが・・・」
メディシン卿はカミラの腹に拳を打ち込んでいた。カミラが力なく倒れ込んだ。
「カミラ!」
ヘレンが声を上げていた。
メディシン卿は戦闘を楽しむタイプではない。一撃で決めるタイプともいえる。
それほどの防御力などもないし、長時間の戦闘は無駄と判断するタイプだ。
私に気にかけて、つい、私に意識を行きがちなヘレンよりも、自分を警戒するカミラを無力化することを選んだのだ。
そういうところはしっかりとして抜け目がない。メディシン卿が軽く蹴りを放ち、ヘレンに避けさせて扉から奥に引き込む。
私のソファーと扉の入り口付近の間に挟まれる形になる。
「く」
逃げ道を塞がれ、挟まれる形、しかも、頼りになる相棒は今しがた気絶させられている。
数秒あれば、間合いを詰めれる技術。仲間ながらたいしたものである。
カミラもヘレンもメディシン卿から私に意識が移っていたのは数秒である。その数秒のうちに間合いを詰め、見事に倒したのである。
さすがと言わざるを得ない。その後のわざとよけさせる蹴りなどの動きも理想的だ。
「ファイ・・・」
ヘレンもカミラも魔術師であるが、さすがに本物の戦士には敵わない。
ましてや、相手は剣姫や将軍候補に剣をつけられているものだ。剣を握らなくても体術で魔法使いなど圧倒できる。
メディシン卿のデータが不足していたのだろう。そもそも、メディシン卿はヴァルキリーに選ばれたものだ。
ただに男がヴァルキリーの剣技に選ばれるわけがないのだ。
メディシン卿は魔力をしっかり練ってから、拳を突き出していた。ヘレンは避けることなどできず、魔法を完成させる間もなく倒された。
「そ・・・そんなラプサムは・・・ラプサムは・・・」
ヘレンは荒れ狂う魔力から意識を保とうとしたが、保ち切れず力なく床に膝をついた。
「サム君はね。弱くないんだよ。もう」
ヘレンが床に倒れ込んだ。
「だからね。私はもう一度サム君と目指すんだ。世界最高を・・・」
「サイコ・・・」
「そう、一緒ね。だって、パートナーだから」
「ふ」
ヘレンはそこで意識を失った。
「お兄さん。女子二人を気絶させた感想を・・・」
「おい、こら」
メディシン卿、いや、お兄さんは心底嫌そうな顔になった。
「どうです?」
「気持ちいいもんじゃないな」
ふむ、やはりお兄さんは善人だ。ドSとかではないらしい。
「まあ、ヘレンにはもっとひどくしていいから」
「現金だなお前」
「ふっふふ」
私は悪女と言われようと構わない。そう、サム君のためならね。
私はもう覚悟は決まっている。
私を縛り付けていたものから出るんだ。
この“聖女”という鎖から・・・




