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小さな英雄

小さな英雄



 その者は勇者と並ぶ、英雄。彼のものを人は“小さな英雄”と呼んだ。



 彼は辺境の村の薬屋として生まれた。


 家の手伝いをし、熟年の薬師である祖父にその技を習い、その腕は天才とも言われ期待されていた。


 ある日、彼は十二歳の時、冒険者と付き添いで山に入った。その際、その冒険者より、折れた聖剣を打ち直した短剣をもらう。


 それがのちに逢い方である“聖牙”と名付けられる彼の相棒を受け取る。


 その山に入った際、ゴブリン達の巣穴を見つけ、その斥候の狼がいることも、そこでわかった。


 脅威に感じた冒険者達は少年を残し、ゴブリンの穴へ。彼は村に残り、村の守りにつくことになった。


 彼が村の警戒に当たっていると、突然、狼に襲われる。彼は噛みつきを何とか回避し、狼の首を掻き切った。


 さらにもう一体迫ってきたが、聖剣の端くれである“聖牙”が少年の力を持って、その狼を切り裂いた。


 その切れ味に驚きつつも少年は果敢に迫りくる狼達に挑み、“聖牙”でしとめていった。


 わずか、十二歳の子が“聖牙”があったとはいえ、狼たちを切り裂いたのだ。


 それが騎士称号にふさわしいとされ、庶民でありながら、騎士学校に入学するのを許された。



 騎士学校での厳しい訓練を乗り越え、騎士団に入隊した彼はそこで伝説を作る。


 名誉ある騎士団に魔族が侵入し、騎士団の団員を洗脳していたのだ。


 その毒牙が彼に迫っていた。しかし、彼には聖剣を打ち直した“聖牙”があった。


 “聖牙”の力により魔族の毒牙を防ぎ、魔族を滅ぼしたのだ。こうして、騎士団があるべき姿を取り戻したのだ。



 彼は騎士団の訓練中に、ワイヴァーンより落ちた勇者を助け、竜の国潜む、勇者を貶めようとした魔族を勇者と共に倒した。


 とどめは“聖牙”だった。


 そして、我が国の騎士団を引き連れ、勇者と共に我が国と竜の国の国境にいた魔王を勇者と倒し、世界に平和をもたらすのだった。


 もちろん、とどめは“聖牙”だ。




「って筋書なのよ」




 薬屋は義兄のうれしそうな言葉を聞いてため息を付いた。


 自分の事のオマージュの英雄譚を聞いて、普通いい気はしないだろうが、この義兄はその話を義弟によく話すのだ。


 楽しそうに。


「魔族を貴族と置き換えると大体が事実なのが・・・・・・・。ところでなんですか“聖牙”って」


「最近、追加されたらしいぞ」


 義兄のニヤニヤが止まらない様子だ。


「だって、ことあるごとに活躍する短剣だぜ。名ぐらいないとね」


「辺境の村に住む子供にそんなもん渡す大人いないでしょう」


「まあ、そうなんだが・・・」


『我が魔王か』


『そんなエピソードに追加されるとは・・・私の出番は?』


『我の出番があって、貴様の出番がないところがいいな』


『どうせなら、光の戦乙女の祝福あってもいいのでは?』


 と勝手に薬屋の契約精霊たちがいう。恐怖を司る精霊ダークナイトと勇気を司るヴェルキリーだ。


『世の出番は?』


 神馬として名高い、嵐の精霊スプレイニールが主の騎士に体をこすりながら言った。ちなみに今は部屋にいやすいように仔馬サイズだ。


「まあ、俺っちの活躍があれば、でるかもな」


 騎士が嬉しそうに言った。


「魔王死んだしな。どう考えても物語は終わりでしょ」


 疲労の色を見せて薬屋が言う。この話はあまり好きではない。脚色がされてるし、バカにされているような気がした。


「なんていうの、事件を誤魔化すために俺たちが作った御伽話だしな」


 騎士が大きな声で笑った。この絵本がなんと世界でロングセラーとなっているから、世の中わからない。


 “小さな英雄”は勇者ではないものたちにとっては、大きな指針となる話なのだ。


 庶民たちの希望であり、騎士の鏡の話なのだ。


 そして、この話にはもう一つ意味がある。本来は世界に公表しなければいけない、光の戦乙女の契約者を隠す試みがあるのだ。


 また、光の戦乙女の契約者がいなくても、この“小さな英雄”にあたる人物が騎士団いるかもしれないと思わせておくのが大事なのだ。


 これによって、騎士たちの中の誰かが、“小さな英雄”の可能性があり、民衆や他国の者は騎士団に彼の者がいると思わせることによって、騎士団を敬うようにしかける。


 そして、騎士団としては彼の者のようにすべしを内部からも徹底し、すでに所属していたものもしっかりしなければ、“小さな英雄”候補として見られない。


 こうして乱れた騎士団を精神的に規律を締めていき、軍規をしっかり守る軍にし、誰もが“小さな英雄”を目指すそんな空気にすることができたのである。


 これはすべてこの騎士団の団長の義兄の策略によるものだ。


 単純にこの話がツボなだけだったが。ツボをうまく、利用してこうなった。


「まあ、メッキが剥がれるのを心底願っています」


 そして祭り上げられた当人としてはいい迷惑でしかない。しかも、身内の嫁の家族の犯行だ。


 嫁を貴族から庶民に落としてしまった手前、何も言えないのが辛い。


 それすらもこの義兄のツボなのだ。


「まあ、メッキじゃなくて、メッキの中は黄金・・・いや、白金だしな。くっくく」


 義兄は合うといつもこんな感じだ。


 怒りをぶつけたくても剣の稽古で、この義兄に勝ったためしがない。


 小さい頃、狼を5匹不意打ちで倒し、機転で呪術の策略を解決にもって行き一人の少女を救い、勇者を助け貴族の思惑を砕き、勇気と恐怖の精霊と契約したとしても、この義兄の剣には敵った試しがなかった。


 最近、馬上槍を習いに、元竜騎士を他国から呼んでいるらしいし。


 嵐の精霊馬に乗った義兄がどれだけ強いが想像できなくなった。


 その件は自分も悪いのだが・・・


「くっくく」


 “小さな英雄”と言われても勝てない人間が何人かいる。


 その中の一人がこの目の前にいるふざけた騎士というのがなんてもいえないものだ。


 薬屋は一人、嘆息した。





 やがて、五年の月日が流れ、勇者が正式に“竜騎士”に選ばれる。




 ちまたでは勇者パーティー、勇者ギルドなるものが設立させることが噂され、そのメンバーが誰になるのか世界の話題になった。


 勇者が竜騎士に選ばれる2年前に“光の戦乙女の契約者”が発表された。


 しかし、“小さな英雄”は誰か分からず。王国はその存在をひた隠ししていた。


 また、勇者の仲間候補であった“神の薬師”は勇者パーティーには誘うことはないと、ワルシャル国より発表された。


 加えて、“神の薬師”の作成された薬は世間で出回らず、死亡論が噂されはじめた。



 そんな時、勇者候補の一人とされていた人物のギルドが、あるトラブルを抱えていた。



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