わたしの主
わたしの主
あれはある雨の日のことでございました。
わたしのお屋敷は長年使われいくつかの家に引き継がれ、そして最近やってこられた家に可愛らしい姉妹が生まれ、元気に育ちました。
姉様は神官になるための道を、妹様は騎士になるための道を歩まれました。
姉様は聖女候補なるものに推薦されるほどの治癒の腕前を持ち、妹様は剣姫の才があるのではないかと言われるほどの腕前になられました。
一番新しい家の主様方と一緒にそのお二人の成長を見守るのが私の楽しみでした。
しかし、妹様は不幸な事件に巻き込まれ、騎士の道を諦め、冒険者になることになりました。
以外にも主様と奥様はあまり反対せず、苦労するぞと心配そうにされました。
それから、姉様がとある騎士を家に招くようになりました。姉様の婚約者らしいです。
主様が決めた婚約者ではなく、騎士の決闘の大会があり、その際に告白したという妙な男です。その剣の腕は妹様に敵うほどでした。
あまりいい気がしませんでしたが、その男が我が家のように入り浸り、姉様と仲良くするようになります。
主様も渋々交際を認め、姉様の部屋に泊まることも許し始めました。不純です。
そんなある日、妹様が薬屋を営んでいる男を連れてきました。パッとしない男でしたし、剣の腕もそれほどではないのですが、恩人として迎え入れられました。
なんでも、妹様のおっとのようでした。
ただ、そのものが妹様の夫というのがすぐにわかったのが、光の戦乙女であるヴァルキリー様と契約されていたからです。
妹様も同様にヴァルキリー様と契約をなさっていました。
ヴァルキリーと契約されるような御仁にはどうしても見えませんでしたが、彼が持ち運んでくる薬はかなりの良質な魔力が込められた薬でした。
あれなら、かなり高度な治癒魔法に等しき回復力をお持ちになるそんなものでした。
あれを自ら作るとなるとかなりの技量を持っているとしか考えられません。何者なのでしょうか?
そして、彼は常人には足を踏み入れることが難しい森を走破してきたり、人を負ぶってきたりなど旅人してもかなりのお力をお持ちです。
で、この前、恐怖の王とご契約されてました。さすがにそれには驚きです。
かなり気難しい者と噂があり、その者と契約できるなど、あんな男が信じられません。
一体どんな反則技を使ったのか、わかりません。きっと、妹様を手籠めにしたときのような卑怯な技を・・・
おっと、いけませんね。
私としたことが興奮してしまいました。
とにかく、ヴァルキリー様ならまだしも、恐怖の王のようなものと契約するなど、明らかに我家に害をもたらすもの、何かせねば。
と思い始めてから、三日後、あの男と妹様がペタペタとくっ付いた状態で我家に上がり込んできました。
姉様に話があるらしく、姉様が応対しました。
いちお、神官職でありますが、あの騎士と結婚が最近決まり、家にいることが多くなりました。
姉様が我家を自ら綺麗にしてくださり、ありがたい限りであります。
そのため、今まで家主様の応対が多かった我家で、大分姉様が応対することが増えてきました。
意外にもあの男が騎士団長になり、その伝手でいろいろと相談がくるようになり、妻として応対することが多くなったのです。
ふん、やはりろくなことをしない。姉様に迷惑をかけるなど・・・
あの男が騎士団長など、この国の者どもは何を考えていることやら・・・
「この家に精霊がいるって?」
姉様が薬屋の言葉に口元を抑え、嬉しそうに答えました。
そうです。精霊はきっと私の事です。まあ、力はほとんどないですがね。
「その通りです。シルキーがいると精霊王様がおっしゃいました」
精霊王?この男、精霊王とあえるような男なのですか?
恐怖の王と契約しましたし、光の戦乙女とも契約してます。それくらいはできるのかもしれませんが、納得できません。
「それはよかった。他から連れてくるのでは何か悪いような気がいたしましたし」
「ええ、元からいるのなら、そのものに力を与えて仕えさせるのが筋でしょう」
おお、この薬屋なかなか良いことをいいますね。私を尊重しますか。
『主よ。そのものは主に対してよい感情がなさそうですが・・・』
と薬屋のヴァルキリーが私が悪意を向けていることをあっさりばらす。まあ、嘘とかつけませんもんね。
すると薬屋は苦笑いをして言う。
『きっと、小さい頃から彼女を見てて、とられるから嫉妬してたんだよ』
『なるほど』
あっさり私の思惑を読む。そして、私の事を気にしていない。
人間ができているようですが、私は納得しかねます。
『まあ、私の契約者ですからね』
と何故か、ヴァルキリーが胸を張って言った。こいつ実は嫌な奴なんじゃないかと私は疑ってしまいます。
「これは見えぬ人が見える秘薬に近いものです。そのものは作れませんが、縁があれば見えるはずです」
彼は怪しい薬を差し出した。
それを姉様はあっさりためらいもなく飲まれました。彼を信頼しているのでしょう。
「シルキー・・・私のシルキー」
姉様がそういうと、私の視界が変わり、姉様がいるフロアに移りました。
姉様を不敬にも見下ろす形にでした。
「あなたがシルキーなのね」
姉様がうれしそうにいうと私に抱き着いた。姉様の体温を感じました。
これが人に抱かれるということなのですね。
「私はあなたのシルキーです」
私の口からはそんな言葉がすっと出てきた。姉様と私がつながったような気がした。
「あら素敵な子ね」
「中々のかわいい子ね」
御姉妹様は私の容姿を見てとても褒めてくれました。
それを見て薬屋は笑った。
「ちなみにシルキーは何百年か経っている家にいるとされている精霊で、二人をじっと見守っていたはずですよ」
余計なことを、おばさんと言いたいのかしらこの男は!
「ああ、ずっと私たちを見ていてくれたのね」
姉様が少し離れて嬉しそうに言った。恋人の距離のように近い。
妹様も私に近づいてくれました。
「これからもよろしくね。シルキー」
そういわれると妹様と姉様ほど強くはないですが、つながりができたような気がしました。
「はい」
私はできるだけ、喜びの表情を作ってお二人に返しました。
それを見て、私にとってかわいい姉妹は華がある花が咲いたような笑顔を、私に向けて下さいました。
こんなことになるなんて、夢のようです。
あの男に感謝せねば、ならないでしょうね。不本意ですが・・・




