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二重契約させられた話 2

二重契約させられた話 2



「えっと、騎士団様が何故?」



 領主である男がかしこまった様子で騎士団長を迎えていた。


「宿は取ってあるし、これは視察と観光を兼ねてだ」


 騎士団長は嬉しそうに言った。


「何か問題が?我ら通常の客と同じように扱うがよい。ましてや、このような場に呼ぶことの方がおかしいのだが?」


「前もって連絡をされないと、私どもでも困ります?」


「というのは?我らは普通に宿に泊まりに来た。それにお主らに連絡したら視察にならんだろ?宿の者たちにもそう伝えた」


「なんですと!」


 領主顔が青くなった。何人かの知らせがあったが、他のものからの返事がなかったのはそういうことだ。


 領主に感づかれないようにするためだ。


「いちお、我らの帳簿を集めるのは大変だろうから、我らの方で帳簿もあるが確認するか?」


「いえ」


「確かに有名な宿をほぼ貸し切り状態にしておるのは事実だ。料金は普通に払っている」


 騎士団長は静かに言った。


「これは機密情報なんだが、この街にいるものが魔王の召喚を行ったらしい」


「なんですと!」


「そういうことをしそうなものを知らぬか?」


「いえ、そのようなものがいれば、私たちの方で対応いたします」


「頼んだ。我らは訓練と観光で来ているだけだからな」


「わかりました」


 領主はそういうと執事の者になにやら連絡をした。それをみて騎士団長はため息をついた。




『闇の騎士の気配を感じる』



 二人はカップルのフリをしながらあるいていた。薬屋はナイフとショートソード、その妻はレイピアを持ってあるいていた。


 二人とも騎士の恰好ではない。浴衣に下着代わりに水着を着用している。


 この国境の町ではわりとスタンダードの格好であり、護身用に武器を下げているのは普通の事だ。


 ちなみに二人とも金銭が入ったおそろいのショートバックを身に着けていた。


 二人が向かう先には町はずれにある監視塔の方に向かっている。そちらには兵士がいるはずだが、そこにいると二人が契約しているヴァルキリーが訴えていた。


 光の戦乙女と闇の騎士は相反するものであるが、共に存在することによって調和を図ることができる。


 勇気と恐怖、恐怖を乗り越えた先に勇気があり、恐怖があるからこそ人は止まったり、正しき道を歩めるのだ。


「しかし、こんなところで召喚することに何の意味が?」


「ここはかつて激しい戦地だったところ、おそらく、その英霊たちを怨念を使って」


「怨念か・・・そういうのは感じないけど。彼のものが召喚されたということはそういうことかもしれない」


「ええ、気を引き締めていきましょう」


 気を引き締めている妻と反対に夫はあまりやる気がないように思えた。気が進まないとも思えた。


 精霊を倒すのは友人を倒すような気がして、彼的にはあまり気が進まないのだ。


「同情してんの?」


「その負の性質を持つだけで払われんのはちょっとな」


 かつての虐げられた自分を思い出した。ヴァルキリーのような名誉な精霊とは違う。黒い騎士と名付けられたそれを憐れんだ。


「契約してあげれば?」


「まあ、できればしたいなあ」


「かつての自分」


「僕も恐怖で君を救った人間だからな」


「そういえば、そんなこともあったわね。あれは恐怖による印象付けだもんね」


「そう、恐怖もまた道具。使い方を間違わなければ、人の道を正す」


 そうして、塔に到着して二人の顔色が変わった。


 そこにはぼうっと意識の無さそうな兵士が立っていた。その視点が合わない危険な気配が漂っていた。


「なるほどね」


 兵士達がぼーっとして、観光客であるこちらを気にした様子はない。


「これは思ったよりも不味いかも」


「まあ、呼び出した人間が悪いわけじゃない。彼は利用されただけ・・・と思いたいな」


「ええ、いちお、契約する予定のやつですもんね」


「ああ。さすがに共感を覚えない奴は御免なんだけどね」


 二人はそっとヴァルキリーを召喚した。


『汝ら精霊王の使いか!』


 そんな声が頭の中に響き渡る。


『我主が懲らしめに来た。闇の騎士!』


 とヴァルキリーがノリノリで言った。


「こんな子だっけ?」


「さあ、嫌いなんじゃない?」


 夫の問いかけに妻が首を傾げた。いつもと違う契約した精霊の様子に戸惑う。


『ふん、壺に収まっていたつまらん女が』


『棺桶なんて趣味が悪いですよ』


『どうせ、暗い遺跡の名で閉じ込められていた癖に』


『貴様なんて見世物だよ。高い金で売り買いされおって売女め』


『そんな尻軽女みたいにいうのやめていただきます?絶滅危惧種』


『うるさい。人間どもがやたらと我を嫌うからだろ?』


『あなたなんて魔物がいれば、十分なんです。所詮、民話の一部なんですから』


『うっさいわ。その気になれば、我の方が強いもん。恐怖を司るから魔王が強い時は我の方が強いもん』


『今は、勇者が優勢の大陸でそんなことをほざいてもしょうがありませんわ』


『町の一つや二つ、我が幻術をかければ、恐怖に陥れて・・・』


 二人は面倒なので、壁を垂直にとんで最上階についた。


『お主の主達は人間やめとらんか?』


『私の力です!あなたとは違って便利なんです』


『ふっざけんな。人間が5階建て相当の建物をジャンプできるなんてありえるか!』


『私の祝福があれば、それくらい余裕です。私を纏えば、雷光の如きスピードで走れるんです』


『何それ、今はやりのチートやチートだ。その力わしにもよこせ』


「いや、あんた感情を集めて魔力に変えるだけでも優秀だから・・・」


 夫が呆れたように言った。妻は困った顔になって、目の前に立つ黒い鎧の男を見た。


 黒いマントが風になびき、黒い鎧が太陽の元で輝いている。


『こんなところまでよく来たな』


「ええ、さっきの会話がなければ、しまっていた場面ね」


 妻がめんどくさそうに言って、夫がナイフを抜いた。


「さっさとはじめよう」


『お主、なんか、面倒になってないか?わしがここにいる背景とかどうでもよくなってないか?』


「契約すればいいだけの話」


『ふざけるっ!』


 夫の姿が消え、いつの間にか突きを繰り出していた。抜いてなかった方の剣だ。


『おのれ!』


 黒の騎士は剣を振り、その剣をはじいた。


 夫は弾かれた剣を切り返して騎士の剣をはじき、距離をとった。


『ほう、まさかわが剣をはじくとは・・・』


『その方私の試練を乗り越えた方ですよ』


『なるほどな』


 黒の騎士は二人と一柱に対して嬉しそうに言った。


『だがな、ワシの条件はワシが参ったというまでやるのが条件だ』


「・・・あそう」


 対して夫のやる気はそれほどなさそうでテンションが低いくらいだった。


『ふっふふ・・・?』


『主から強力な力が流れてくる・・・』


 ヴァルキリーの輝きが増し、急激に黒の騎士の体が小さくなる。


『何?』


「不意打ち」


 夫は小さく言った。


『何故だ?何故、魔法の剣で切られていないのに・・・ってお主・・・』


「ナイフの先を魔法剣で刃渡りを伸ばした」


『最初の突きはさりげなく振ったナイフを隠すため?』


「正解」


『ふざけるな!』


 黒の騎士は怒鳴り声のようなものを上げた。精霊を誑かすものなどそうはいない。


 精霊にも感知できない魔力など聞いたことがない。どんな魔法をこの男は使ったのだろうか?


 あるとしたら、魔力を吸収できる空間の作成、からのを自分の元までそれを伸ばし、さらにそれを戦闘中ずっとしていたのだ。


 剣を打ち合いながらもたいした集中力である。


 そして、黒の騎士の言葉を聞いて、その吸収する力を上げて一気に黒の騎士の体力を奪ったのだ。


『ほう、矮小な精霊が何を言うか?』


 ヴァルキリーが後ろに立ってうれしそうに言った。誰からパワーを受け取っているため、いつも以上の迫力がそこにあった。


『すみません』


 力をなくし、その力を振られれば消し飛ばされる闇の騎士は、猛る戦乙女を見てそう言うしかなかった。




「精霊が言うには魔王教団の仕業だったらしい」


「奴隷やドラゴンの血などを利用して供物として召喚したそうよ」


 二人は姉夫婦にそう説明した。二人の手際のいい解決に笑みを零した。


 四人は最上級の高級宿に泊まっていた。領主のすすめで止まっている。ちなみにお礼に“神の薬師”と謳われるポーションを渡した。


 効果はエリクサー並みで、原材料は普通のポーションという高いが値段にあうものだ。


 オークションに出せば、上手くいけばエリクサー以上の値がつく、お礼しては高いお礼。


「僅か一日で解決とはね」


 騎士団長も満足したように答えた。


「領主には魔王教団の召喚した魔物は倒したと報告しておく。まあ、それがあまり知られていない精霊で契約したなど報告する必要はないだろう」


「そうね。どのダクナイちゃんてどんな感じなの?」


 姉の神官が嬉しそうに言った。


「こんなのです」


 黒の騎士を召喚するとそこには甲冑とマントを羽織った立派な騎士が立っていた。


「ほう、暗黒騎士か」


 騎士団長も面白そうに言った。


「闇属性であまりおすすめできませんよ」


 薬屋は皮肉を込めていった。その力の源は恐怖の感情であり、魔王といえば、魔王に近いものなのだ。


 幻影魔法の類も使用できたりする。


「なあ、頼みがあるんだが、俺にも契約できそうなおもしろそうな精霊たのむよ」


「女王にあったら聞いてみます」


「頼むぜぇ」


 義兄は嬉しそうに言った。


 確かにこの男に精霊を持たせるのは悪いことではないような気がした。というか、この男の腕なら精霊なんていらないだろうが、持っておきたいのだろう。


 たぶん・・・


「わたしはお手伝いさんになるほしいかも、きっとかわいいんでしょ」


 とその妻は妻でそんなことを言った。


 ヴァルキリーの事もあっさり受け入れ、二人が世間で騒がれないように秘密にしてくれている。この夫婦にはそれなりの恩がある。


 多少の無茶も通じるだろう。


「そちらも聞いてみます」


 薬屋は笑みを零して言った。


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