だから僕は騎士をやめた 2
だから僕は騎士をやめた 2
「僕が彼女を襲ったんですか?」
足に傷をおった男は生気のない顔で言った。ボーとして明らかにおかしい反応だった。
「自分でそう証言しているが・・・彼女のそう証言してはいる。ただ、状況がおかしい。おかしすぎる。ただならぬ状況と言える」
「・・・そうですか」
「ふむ、君の傷に記憶はないと?」
「いえ、彼女を僕が襲ったようなのですが、同時に彼女を助けたくて、ナイフを自分で刺したような気もします。何故でしょう?」
「助けたくて?」
「はい。彼女を守りたくて、ナイフを刺しました。けど、彼女を襲ったようです」
「彼女の事は?」
「好きだったと思います。誰にも渡したくはない程度には・・・」
「けど、襲った」
「彼女を傷付けるようなことはしたくはなかったはずなんですが・・・」
「そうだな・・・副団長についてはどう思っていた?」
「副団長ですか?」
彼は少し考えてから言った。
「いきなりですね。正直、あまりいい印象はないです。女性団員を脅迫まがいの事をされてましたし、平民出身の自分をバカにするようなことを言っていました」
「脅迫まがい」
「よくわかりませんが、いろいろな女性と関係を無理やりもとうとされていました」
「彼女とも?」
「彼女だけではない印象です」
「なるほど。君の中では自分よりも彼の方がそういうことをしそうな印象なのか?」
「正直言えば・・・。僕はここに剣や騎士道などについて学びに来ました」
「君の話は聞いている。若いのに騎士団に抜擢されたらしいし」
「馬鹿な薬屋の息子が村を襲った狼に立ちむっただけです」
「僅か、12歳の子供がすることではない気がするけどね」
「そうですか?」
「君はもっと自分に自信を持つといいと思うよ」
「たまに言われます。・・・今回の件に関して、正直、そういうことをしに来たわけではないのでやってないと思いたいですね」
「自分はやってないと思うが・・・」
「けど、僕が彼女を襲ったと思ってしまうんですよ」
「なるほどな。話は変わるが、何故、君は彼女の顔に血を塗ったのか?」
「わかりません」
「君は魔術的なものは使えないはずだよね」
「うちは薬屋ですから、そういったものは使えません」
「そういう知識はないと」
「はい」
「でも、君は彼女を襲い、彼女に暗示をかけた」
「不可能だと思います。ただ、魔法は使えませんが、催眠や薬の類なら作れます。人間を支配するような薬の存在も知ってますが、そういう類の材料を買った記憶もありません」
「それらの材料は国で禁止されたりするからね」
「はい」
「そこまではやっていないと」
「やっていないはずです」
「なるほど・・・」
男はしばらく考え込んでから言った。
「我々は君が彼女に呪術的なものをかけたと最初は思ったんだ」
「でしょうね」
「しかし、呪術が仕込まれていたのは君と彼女の方だった」
「・・・・・・」
「君も被害者なのではないかと我々は思った」
「そうですか・・・彼女の身は無事でしたか?」
「ああ、彼女の貞操は守られた」
「それはよかった」
「・・・・・・・君は・・・彼女を守りたかったのだな」
「なんでそう思うんですか?」
「泣いているよ」
「え?・・・あっ涙が・・・」
それを見て男はため息をついた。
「君はあの状況でよく頑張った」
「騎士ですから・・・見習いですが・・・」
「そうか」
「それも難しいですね」
彼は自分の足を見た。動くことは動くが剣を持って動くことなどできそうもなかった。
「・・・すまない」
「仕方ないですよ」
少年は窓をそっと見つめた。
「あの日、あの時だけでも彼女を守ることができれば・・・それで」
「なるほどな。君は君をそうしたものは誰だと思う?」
「・・・たぶん、僕を彼女から引き離した人だと思います」
「何故、そう思う」
「呪文をかけても僕が彼女から離れなかったから、僕を彼女から引き離したんだと思います」
「そうか、だから、君はそんな風になってるんですね」
「それは?」
「君の魔法は解かれているんですよ。ただ、君の精神がおかしいのは2回も呪文を掛けられて・・・」
「なるほど・・・」
「すまない」
「いえいえ、しっかりと事件を調べて・・・犯人を裁いてください」
少年は目の前にいる男をしっかりと見つめて静かに言った。